伍糸endA アイシテ
『いまから神社いかないか?』
そう言われて、私は彼と神社へいくことにした。
しかし、今日は一行に神社が見つからない。
手書きの地図を頼りに歩いているが、これまで何度か来ているし、方向音痴というわけではないはず。
「ちょっとまってください」
「どうした?」
地図をじっと見ていた彼は、こちらを向いて不思議そうにたずねる。
「すみません神社に着くのがなんだか遅いような気がして……」
「言われてみれば、たしかにそんな気もするな」
伍糸さんは頷いて、地図をしまうと前に歩くのをやめた。
「どうやらこの地図はアテにならないようだな」
「え、三日くらい前に書いたのに?」
そんな早さで地形が変わるのはありえない。
「恐らくは村にカラクリでも仕掛けられてあったんだろう」
「カラクリですか……」
狐に馬鹿されたのほうがロマンがあっていいと思う。
「狸とか狐が変幻したとかじゃないですか?」
「昔話の見すぎだな」
非科学的な陰陽師や怨霊は信じるのに……カラクリだとリアル寄りだ。
そんな早さで地形が変わるのはありえない。
「恐らくは村にカラクリでも仕掛けられてあったんだろう」
「カラクリですか……」
狐に馬鹿されたのほうがロマンがあっていいと思う。
「狸とか狐が変幻したとかじゃないですか?」
「昔話の見すぎだな」
非科学的な陰陽師や怨霊は信じるのに……カラクリだとリアル寄りだ。
「どうします?」
「勘でいくしかないな」
それでは迷ってしまうだろう。打開策を考えていると石が光った。
「あ、なんだかレーダーがあっちをさしています」
「レーダー?そっちは北だぞ」
私達は今いた方向から左斜め上の方向へ移動する。
「……あった」
私達はようやく神社の鳥居を見つけることができた。
「ここは前に来た神社じゃないみたいですけど」
「つまりはいい収穫だな」
以前の場所にいけなかったのはともかくとして、新しい場所を見つけられてよかった。
「さっそく入……」
私が進もうとすると、伍糸さんに口を塞がれ木の影へ隠れた。
どうやら私達の他にも人がやってきたらしい。とりあえずその人は紺髪の男性、黒い着物を着ていた。
「いったみたいだな……」
「あれは誰だったんでしょう?」
神社の管理者のわりには着物は黒っぽかった。
「僧侶のような格好だったな」
「神社なのに?」
ひとまず私達は神社へ入っていく。
「やっぱり、誰もいないみたいですね」
「おい、ちょっときてくれ」
外はまだ明るいが薄暗い所を懐中電灯で照らす。
「箱?」
「中をみてみないか?」
こんな寂れた神社だしお札の類いはない。軽く見るだけならばと好奇心には勝てなかった。
「お札のようなものが三枚はいっていますね」
「昔話にあるな。僧侶が山姥を退治するんだったか」
――さっき僧侶が出てきた。
「まさかこの村、山姥が出るんですか?」
「山姥なんて怖がる必要はない。ただの包丁をもったお婆さんだろう」
身も蓋もないが、たしかにその通り。しかしその包丁が厄介なのだ。
「武器をもった相手に丸腰じゃ分が悪いです」
「バールのようなものでも探すか」
普通にそこらにあるリーチの長い棒などを拾う。
「念のためお札をもっていこう。アイテムを拾わないと探索ゲームじゃバッドエンドになる」
「すみません神社の神様、明日の朝返しに来ますから!」
私達は無事に家まで帰ることができた。
「新しい神社を見つけた?」
「寂れてたけど」
私達は三枚のお札をひろったことを正直にいう。
「山姥封じかよ」
やっぱりそう思ったようだ。
「よし、二人じゃ不安なら明日みんなで返しにいこう」
乃穢さんの提案で探索メンバーが五人になった。
●
「何事にも動じない縒彦サンがいるだけでなんか怖くないよな」
「うん」
「結局山姥ってなに?」
「妖怪、またはただの包丁もったババアだろ」
厭紀さんが乃穢さんに答えた。
「あ、ありました」
いつもなら探したときに神社が見つからないのに今日はついている。
「へーこんな神社はじめてみた」
「俺もだ」
詳しいはずの二人も来たことがないなんて相当レアな場所なのだろう。
「じゃあお札をおいて……」
―――ガシャアアアアン!
私達は全員固まっているのに、向こうから何かを破壊する音がした。
「なっなんだ!?」
「……もしかして、あの僧侶かな?」
私達は昨日見かけた男について三人に話す。
「そうであってくれないと、山姥が出るよね」
「……なんか金属音がするな?」
きっとバールのようなものを僧侶が研いでいるんだろう。
「僧侶が山姥と戦うために武器を研いでるんだろ」
「いや、そんなことより早く逃げなきゃ!!」
私達はダッシュして神社を離れようとする。
しかし、いつの間にか神社の扉が外側から締め切られていた。
「マジかよ……」
「こんな狭い場所でリアル脱出ゲーム開幕?」
ここから出るべくして各自この部屋一体を見ていると、気がつけば四人が忽然と消えていた。
「この状況で私は一人……嘘だといってくださいよ!?」
私は誰か一人でも見つけたくて開いていた場所を進んだ。
「ああ……よかった」
すぐに伍糸さんと縒彦さんと再開できて安心する。
「皆はどこにいったかわかりますか伍糸さん」
「双子は多分アイテム探しだろう」
彼らはマジで脱出ゲームをやるつもりらしい。
「もう修理費くらい命にくらべたら惜しくないと思います。サクッと壁破壊して逃げませんか?」
「壁を破壊するにはやはりアイテムがないとな」
どちらにせよ探索は免れないらしい。こうなったら頑張って探すしかない。
「なあ、この暗号みたいなのはなにかわかるか?」
壁に一筆書きの古い文字が羅列されていた。
「わからないです」
「……これは写経の一種じゃないかと思う」
縒彦さんが静かな声でいった。
「インクはまだ乾いていない。やはり僧侶はここに来ているな」
「でもいったいなんのために?」
私達が先に進むとすぐ右側の部屋から物音がした。
「なんだぁ?」
私達が障子をあけると、僧侶の格好をした茶髪で大柄の男性がいた。
「あれ、昨日の人じゃない?」
「なんだかわからんが、ここは人間の入るような場所じゃねえぞ。霊感の強い奴ならすぐ悪霊が寄ってくる」
そういえば伍糸さんは霊感というか悪霊の憑きやすい体質だったはず。
「どうやら今のところは大丈夫みたいだ。お前や大柳さんは魔を寄せつけない体質なのかもな」
「私は普通ですよ。やっぱり神社生まれだし縒彦さんの力じゃないんですか?」
すると縒彦さんは手から札を取り出した。
「これは書道家ばりの達筆だな」
「親戚が作った破魔札」
私達は謎の僧侶と共に双子を探す内に部屋の中心から地下階段を見つけた。
「本格的にヤバイな秘密結社の謎に迫るんじゃないか?」
●
「そういやまだ名前いってなかったな。俺は大多羅宝地だ」
「さっきのあれ、あなたが壁に書いたんですか?」
「まあな」
歩いていると何かを踏んで、カチりという音がした。
「なにこの部屋」
「まさか研究室か?」
鉄サビの臭いが立ち込めてまともに息が据えない。
カンテラがあったので、ハンカチで口もとを覆って探す。
「ヤバイ研究室の跡地ようだな」
「さすがにこれは私達がみていいものじゃないと思うんですけど」
恐怖感を思いだし、早く逃げ出したくなる。
「向こうに光があるな」
「出口かもしれませんね」
私達はようやく外にでることができた。
しかし、これはまだきっかけで、このまま夏休みが終わるわけがなかったのだ。
●
―――昨日はいろいろと大変だった。
双子は先に帰宅して私達を救出する応援を呼んでいたらしい。
『え?』
『台風が近づいているらしくて』
そして帰宅した夜に本来ならあと三日は滞在するはずだったが、私達は明後日ここを出ると言われた。
『そうなんだ』
『だから皆にも挨拶してきなさい』
私はまず双子に連絡しようとしたが、まったく返事がなくて縒彦さん、伍糸さんと一緒に探す。
その最中、村人たちの話を耳にした。
『……明日の予定だったが、天候のせいで急遽変更となった』
なにが変更となったのか、その時はわからなかった。
『明日といえば、贄の儀式の日じゃないか?』
私達は人気のない場所で村人に聞こえないよう小さな声で話し合う。
『今更だがあと三日滞在する予定なら台風が来た後で帰ればいいんじゃないか?』
伍糸さんの言葉に私はハッとする。
私の帰りが早まったこと、姿の見えない双子。
なにかがひっかかってしかたがない。
――というわけで、私達は神社を探す。
儀式といえばそこだろうと思ったからだ。
そして昨日の神社へいくと、嘘のように建物が崩れていた。
「これはあまりに不自然すぎる。ボロボロだったが、すぐにどうこうってわけでもなかっただろう」
伍糸さんの言葉に私達は頷く。
「やはり私達を誘導している陰謀?」
「昨日は強風が吹いていたわけでもなく、人工的に壊されたとしか考えられない」
まず疑うべきは村人か、昨日見かけた二人の僧侶だ。
「……あの僧侶は容疑者から外してもいいと思う」
縒彦さんが自分の意見を言うのは珍しい。
「それはどうしてですか?」
「俺達は奴に背を見せた。殺そうとするならチャンスはあった筈だ。共犯といわれればどうしようもないが」
たしかに写経僧侶は私達とあの場で会ったから一番怪しいけれど、双子は生きていた。
よくある推理ものなら、あの人が神社を壊した犯人の場合は双子が生きて出られる可能性は低い。
「しかしあの写経僧侶はなぜ神社の壁に書いた?」
「おそらくは魔除けの類いだろう」
でもタイミングがよすぎるような気もする。
どうして私達がいたときに鉢合わせたんだろう。
「やっぱり村人の仕組んだ陰謀?」
「それよりまずは双子を探さないとな」
たしかに暗くなってからでは熟知した村人にたいして圧倒的に不利だ。
昨日の地図を使ってみると見当たらなかった神社をようやく見つけた。
「……どうなってるんだ」
双子がいないということは生け贄として捕えられているかもしれない。
とにかく私達は先へ進むが、村人の気配はまだないようだ。
「ここに双子が幽閉されているとも限らないが、探すしかないな」
「そうですね」
裏口には石がなく、水でぬかるんだ地面に足を滑らせてしまう。
「……大丈夫か?」
「はい、助かりました」
伍糸さんに腕を捕まれ転ばずにすんだ。
「しかしここだけ石がないのは変だな」
「……棺桶」
縒彦さんが、土道の幅を見てつぶやく。
「たしかにそんな気はしますけど」
どうやら棺桶を引き摺るような後が上まである。
「やっぱり、この村……」
私達は神社の内部へ乗り込んだ。昨日の神社よりきれいで見た目は普通の和室と変わらない。
「なんだか辺りが暗くなったな」
空が曇ったと思えば、雨がふってきた。
「誰かが仕組んだにしても、天気までは操れない筈だ」
たしかに、神様でもない限りは、雨を降らせたりはできないだろう。
「あれ、縒彦さんは?」
どうやら彼とはぐれてしまったようだ。
「彼はこの村の生まれか?」
「多分違うと思う。たしか実家は結構大きな神社だから」
伍糸さんはそれなら大丈夫だろうといって双子を探すことになる。
この村の生まれでない彼は生け贄に狙われる可能性が低い。
そして神社の息子だから一般人の伍糸さんよりは命の保証がある。
私はこの石がある限りは一応は安全地帯にいると思いたい。
――現時点で優先すべきはこの村の生まれで、もっとも生け贄にされている可能性のある双子だ。
「うわあああっ」
雷が鳴って、驚いた伍糸さんは私に飛び付いてきた。
「雷こわいんですか?」
「悪いな、実家は滅多に雷が鳴らないところだから慣れてないんだ」
ぱっと離れて平静を装った。
たしか寒い県だと雷があまり発生しないらしい。
「なんか足音がしませんか?」
「いや、何も聞こえなかったが」
たぶん伍糸さんは雷のショックから放心しててまわりに気がついてない。
進むと禍々しい雰囲気の部屋があった。
「……あけますよ」
「ああ」
障子を横にスライドするが、そこに人はいなかった。
しかし黒いモヤが部屋の中心に立ち込めていた。
この部屋はそれほど広くなかっただろう。
けれど広さに対する記憶はあやふやになり、方向感覚、空間を認識する力を妨害されているようだ。
《人間……よくぞ参ったな》
黒いモヤから声が聴こえて、私は困惑した。
伍糸さんにもそれは見えているのか、カッと目を見開いている。
「お前がオレ達を呼んでいたのか」
《どうであろうな》
あの黒いモヤは私達に危害を加えられる。だけど私達があのモヤに対抗することはできないだろう。
あれが嘘をつく必要はないほど余裕だから違うと思った。
相手は何者かわからないし、とりあえず人間ではない。
このことから嘘は通用しないだろう。
「私達はもしかしたら知り合いが人柱にされるんじゃないかと思って生け贄の儀式を止めにきたんです」
私は正直に自分達の目的を話す。嘘をついて怒らせたら意味がない。
《正しきことを言うか、珍しい人間だ》
どうやら大丈夫だったようだ。
「……貴方が人間でないことはわかります。きっと私達が想像できないほどの存在なんだと思います」
《その通り……神である。しかし崇めるべき村人は祟り神と愚弄しとおるがな》
もしかしたら生け贄を求める女神なのかと思ったがモヤの声は男性だ。
「この村には女神様がいると聞きましたが、貴方はそれではないですよね?」
《この村に女神はおらぬ、かれこれ500年になるだろうな》
村人はまだ女神がいると思っているんだ。
「では貴方は生け贄をどうしているんですか?」
《たしかに贄が送られてくるが殺しはしない。ただ器とするだけだ》
器とはつまり幽霊なら取り付いて意思をのっとるみたいなことだろう。
「では神よ、貴方は生け贄を100年ごとに自分の肉体として生活しているんだな」
「ああ、稀に気に食わぬものがおるが殺さず放置する。しかし村人はそれをどう勘違いしたことか殺してしまうのだ」
神様が気に入らなくて、とりつかなかった場合、村人は祟られると思って生け贄の命を奪うのだろう。
「この様子だと双子が殺されるかもな」
村人には神様が見えないのだろう。
「貴方はなぜ器を探しているんですか?」
「ある女を探している」
女性を探しているという事は、何百年前に亡くなった恋人とかだろう。
「つまりその女性と会うには人間になって探す必要があるということですね」
《そうだ》
――そんな理由を言われても、生け贄にされた人達がかわいそうだ。
「関係ない私が口を出していい問題じゃないのはわかってます。だけど神様でも、そんな理不尽なこと許せない」
「同意見だな」
私達が黒いモヤを憎悪すると、あたりにそれが広がっていく。
《人間よ。邪魔をするというのなら、覚悟はできておろうな》
―――祟り神を起こらせてしまった。
「どうしたら……」
私達があわてふためいていると、突然お札が待った。
《ぐああああ……》
「やあ、無事かな?」
黒髪に眼鏡の男性が、お札を構えながら私達の前にあらわれた。
「貴方は……」
伍糸さんが驚いている。もしかして、彼は――――
男性がこちらをみると、後ろからもう一人現れる。
「札ストックはバッチリです!!いきましょう!」
そういって同い年くらいの少女があらわれた。
「錦!?」
伍糸さんは彼女と知り合いだったようで驚いている。
「知り合いなんですか!?」
「妹だ」
「兄なんだよ」
「はいはい話は後で、あの悪神を沈めなくてはね……」
●
あれからなんだかんだで、祟り神は封印されて双子は無事に見つかった。
黒髪眼鏡の人は古有里アンシさんといって陰陽師。そして伍糸さんの妹である錦は最近その仲間になったのだという。
しかも彼女は私と同じ茎花高校の生徒だった。
ちなみに一昨日に見た紺神の男性は古有里さんの部下で祟り神の探索をしていたらしい。
謎の写経僧侶も仲間だったようで、すべてが点と線で結ばれているようだった。
―――こうして私は村を去り、夏休みを終える。
●
「いやーなんにせよ無事に学校にこられて帰れてよかったな」
「そうだな」
「あの子に会いたいんじゃない?」
「そうだな」
「よし、今からいこう」
「は?」
●
「そういえば園崎さん中津先生と付き合ってるって噂だよ!」
「マジで!?」
私は学校の帰りに友達二人と恋ばなをしていた。
「八多喜さん彼氏できたんだって?」
平屋さんが嬉々としながら詰め寄る。
「どんな人?」
「年上のお坊さん。趣味は書道」
「へー家の習練場にも書道の先生がいるけどもしかしたら知り合いかも?」
「そういう平屋さんは?」
「え!?うん……結構前からいるけど」
「どんな人?」
「よくわからないけど、なにかの偉い人だよ。平安貴族みたいに優雅なの……ところで、静華ちゃんは?」
―――ついに私に話がふられた。
「えーと気になる人はいたんだけど……」
私は通行人とぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
私が顔をあげると、そこには眼鏡の男性がいた。
「……賢李部!?」
「どうしてここに伍糸さんが?」
「彼氏さん?」
「私達は邪魔みたいだから先にいくね!!」
二人がそそくさと去っていく。
「お前のことを双子が調べたら暮葉大の近くに茎花高があったんだ」
「それで……あの、二人は?」
姿が見えないが、二人は来ていないのだろうかと思っていると、伍糸さんに呼び止められた。
「二人はさっきまでいたんだが、いつのまにか消えてた」
彼は中指を使って眼鏡をあげる。
「え……!?」
「というわけで今から奴等を探すのを手伝ってくれないか」
「わかりました!」
【ハッピーエンド..かくれおに】




