第四話 フェンリル降臨計画
フェンリル降臨計画
昨日の夜。俺はなんと二人の女子と一緒に寝ていた。
まあ、片方は俺が寝ている最中に潜り込んできて、もう片方は能力でおちょくったあと面白がって疲れたのか眠ってしまったというものだが。
「一体どうやって起きようか」
両サイドをガッチリと固められている俺は身動きができず一時間前から寝たままだ。
「おい、起きろよ瑞花」
「ん……あと三十分」
「長いだろ!?」
「うるしゃい」
そう言って瑞花は俺を抱き寄せて再び寝てしまった。
おいおい。なんで低血圧なんだよ。
「奏、おい、奏。起きろぉ」
俺が奏に呼びかけると奏は耳をピンと立てるがすぐにへばってしまう。
「待て待て、奏起きてくれぇぇぇぇええええ!!」
俺は最小限の声で奏を呼ぶが奏は一向に起きる気配がない。
「ふははは。どうしたらいいんでしょうね。まったく」
もう笑うしかなった。
それ以外にこの場をやりくりできる気がしない。
「ねえ君、新入りのくせに瑞花と寝るなんておかしいんじゃない?」
音もなくいきなり俺の耳元に声が聞こえる。
「い、いつからそこにいたんですか、美奈さん?」
そこにはパジャマ姿の美奈が立っていた。
「それは私のセリフだよ。なんで君が寝てるのさ。しかも瑞花と一緒に」
美奈は頬を膨らませて言う。
あ、あれ? ここって俺の部屋ですよね?
「あのぉ、ここは俺の部屋なんですよね? なら、間違えたのは――」
「あながち、あなたが瑞花を脅したんだね」
「違うわ! どうやったらそういう考えに行くんじゃい!」
俺は咄嗟に美奈の頭にチョップを放つ。
美奈は頭を支えて涙目で俺を見てくる。
「あ、ご、ごめん。いつもの癖で……」
「癖って?」
「……」
当然そんな癖は持ち合わせていない。
ああ、選択をミスったなこれは。
「い、いやぁ、目の前にこんなに可愛い子がいるとついチョップを叩き込みたくなっちゃってねぇ~」
「~~~~~っ、そそそそんなこと言っても許さないんだから!」
美奈の強烈なビンタが俺をソファから叩き出す。
「グアッ!」
俺は勢いを止められずそのまま壁に激突してしまった。
は、鼻がぁぁぁぁああああ!!
俺は鼻を押さえながら床を転がる。
「もう、さっさと起こして降りてきてよね!」
美奈はなぜか怒ったような声でさっさかと部屋を出てしまった。
「あれ? 誠は?」
目を擦りながら奏が目を覚ます。
「うるさいわねぇ。何してるのよ」
続いて瑞花がお目覚めだ。
ん? いやいや、待ってくれ。何なんだ、その服は。
瑞花が起き上がると着崩れたパジャマから肩が露出している。しかもズボンはなくめくれ上がった上着からは生足という神聖地帯が見えておりとても目のやりどころに迷ってしまう格好だった。
「あら、私の体がお好きなのかしら?」
瑞花は起きたてにも関わらず回転速度の早い頭で俺がどこを見ているのかを理解しニヤついた顔で俺に訪ねてくる。
「それともこうやった方がいいのかしら?」
そう言って瑞花は自分の両腕で二つの大きな膨らみを持ち上げ見せつけてくる。
「あ、ああ、瑞花さん? そ、そんなことをしても俺は誘惑には――」
「なら、もうちょっと太ももを……」
「負けました!! どうもすみませんでした!! これ以上は理性がどうかなりそうです!!」
俺は深々と頭を下げ今にも土下座をする勢いだった。
いや、だって、ねぇ? これは破壊力抜群ですよ?
「むー」
奏が俺を見て何やらご立腹のようだ。頬を膨らませてコチラを見ていらっしゃいますよ。
「私にはあんなにない」
そう言って奏は自分の胸を触ってペッタンコを強調する。
「い、いや、大きいとか關係ないぞ?」
俺が手を振りながら言うと奏の表情がパッと明るくなった。
ふー、どうやら俺は選択肢をミスらなかったらしいな。
「でも、大きいほうが好きよね?」
「それはもう! あ……」
ニヤついた瑞花が俺の顔を見る。
俺か? 俺は絶賛冷や汗発生中ですよ?
「そうなんだ。ふーん。誠は私に嘘をついてたんだね?」
「いやいや、違う! 違うぞ! 俺は確かに大きい方が好きだが世の中には小さい方が――」
「問答無用!」
一秒、奏が俺目掛けて大ジャンプ。
二秒、俺はガードのため両手を顔へ。
三秒、奏が俺の両腕に噛み付く。
「ぎゃああああああああああ!!」
俺の腕には大きく口を開いた奏が噛み付いていた。
「痛い痛い痛い! ちょ! まじ痛いって!」
手を振ろうが何をしようが奏は噛み付いて離れない。
瑞花に援軍を……ってあいついねぇ!
「かかか奏! 大好きだぞ! 俺は今から小さいのも大好きになるから噛み付きはやめてくれぇぇぇぇえええええ!!」
俺が叫ぶと奏は噛み付きを離してくれた。
「ほ、ホントに?」
「ああ、ホントだ。俺はお前のでも大好きになってやるよ」
俺は噛み付かれた腕に息を吹きかけながら適当に答えていた。
「あ、えっと、~~~~~~っ!! ご、ごめん!」
それだけ言って奏は部屋を出て行ってしまった。
なんだったんだ、一体。
まあ、いいか。
「さて、じゃあ早速飯を食いに――」
『警報、警報。敵が襲撃してきました。各自、戦闘態勢に入ってください』
無感情な声が部屋中を駆け巡る。
はい? 敵の襲撃?
一瞬俺は何が起こったのか分からずに立ち尽くしてしまう。
「おい! 戦える者は外に出ろ! 貴様もだ、誠!」
俺は来夢にいきなり引っ張られた腕に体を任せて運び出されていた。
「ま、待ってくれよ! なんだよ敵って!」
俺は掴まれていた腕を振り払い来夢を見る。
「敵は敵だ! 彼女、フェンリルを奪いに来たんだよ!」
焦ったように早口で乱暴に言い放つ来夢。
フェンリルを取り返しに? また、奏を悲しませる気なのか?
「なんで俺まで戦わなくちゃいけないんだよ!」
「敵は千本刀だ! 私たちでは太刀打ちできても勝つことはできないのだ! だから手を貸してくれ!」
千本刀? なんだよそれ。何なんだよ、それ!
「勝手に俺を巻き込むな! それはお前らの言い分だろ! 俺には関係ない」
俺は来た道を帰るように振り返る。
だが、それは防がれた。首元にある大きな鎌によって。
「黙れ。今は緊急事態なんだ。このままではあの子がまた悲しい目に遭ってしまうんだ」
覇気と悲しみを持った声が俺の耳に伝う。
なんだよ。俺には関係ないじゃんかよ。逃げ出せよ。
そう思っているのに体が動かない。昨日の夜見た奏の顔が俺を拘束する。
また、あいつは遭わなくてもいいことに遭ってしまうのか?
あんなに一生懸命頑張っている奴が?
あんなに可愛い子が?
ふざけんなよ。
「わかった。ただし、俺はお前らを優先したりしない。俺はみんなが幸福になる道を選ぶからな」
俺は再び来夢の方に向き直り歩き出す。
「な、なんだよこれは」
外に出るとそこには血塗れで横たわう瑞花たちがいた。
「ちっ、遅かったか」
来夢は下唇を噛んで悔しそうな顔をする。
「誰だよ。こんなことをしたのは!」
「あの人ですよ」
来夢は一人の青年を指差す。
そこには長身で短髪の男が一人の女の子の前に立っていた。
「あれが千本刀です」
来夢は鎌を手に取り青年に飛びかかった。
青年は目の前にいた女の子を軽々しく蹴り上げ、手に持っていた刀で来夢の鎌を弾き返す。
「千本刀、扇子」
青年が言うと刀身の根元から無数の刃が伸び広がっていく。
まるで扇子のような形になり青年はその変体刀で来夢を無表情のまま切り裂いた。
来夢は叫びを上げる前に壁に激突し気絶してしまった。
「て、テメェ!」
俺はなぜか叫んでいた。
叫ぶ理由はないはずなのに。
あんなに強い奴は怖いだけなのに。
だけど、俺は叫んでいた。
「ん? 貴様は殺しのボードの中にいなかったな? まあ、いい。死にたくなかったらそちらにいるであろうフェンリルをこちらに引き渡してもらおうか」
青年は無表情のまま俺に言ってくる。
「ざけんな! なんでテメェなんかに渡さなくちゃならないんだよ!」
「そうか。残念だ、また死人が増えるのか」
そう言って青年は俺に向かって疾走。
刀を振り上げる。
だが、それは俺には届かなかった。
「美奈!」
俺をかばって美奈が切り裂かれたのだ。
「あ、あはは。なんであんたなんか守ったんだろう? 自分でもわからないや」
「ふざけんな! てかしゃべんな!」
俺は美奈を抱きかかえ叫ぶ。
「はは。そ、そんな顔しないでよ。別に死ぬわけじゃないんだからさ。私たちの科学力を舐めないでよね。だ、だから――」
言いかけて美奈は俺にキスをした。
ドクンッ
「勝ってきて。あんなやつ簡単に倒してきてよね」
「ふふ、それが君の願いなら。必ず叶えてみせるよ」
「じゃあ、行きなさいよ」
俺は美奈を寝かせ立ち上がった。
「ん? 何か空気が変わったな。まあ、いい。俺の殺しに支障はない」
「そうかい。だけど、ここからは戦況は無理やりにでも僕の方に傾かせてもらうよ。それが僕が望む結末だからね」
「? 何を言っている?」
俺は両手を広げ高らかに宣言する。
「さあ、始めよう。僕が思い描く最高の結末のために」




