第8話
大分間が空いてしまい申し訳ありません。
カタカタと端末を操作する音が響く。
マッドトロルを倒し、格納庫の破壊された出撃口の第2隔壁を降ろした俺は最初に目覚めた部屋に戻ってきていた。
端末でサブ電源を落とす作業をしているとエイダが口を挟んできた。
「冬真は異世界人だそうですが、ここの端末操作のマニュアルを読まれたのですか?」
「いや、ここで起きてから初めて触ったけど、不思議と操作できるし文字も読めるんだよね」
「……」
「この世界の情報収集が出来たから助かったといえば助かったんだけど、自分の事ながら正直不気味だよ。エイダは異世界人の機体を整備した事があるみたいだけど、異世界人が言葉とかに不自由していたとか知らない?」
「機体整備の際に見かけた事がありますが、整備士達と談笑していましたから不自由はしていなかったと思われます。現に冬真も私と自然に会話しているでしょう?」
「そうなんだよなぁ……まぁ、会話読文はデフォルト装備ってのは定番といえば定番だけど……」
「定番?」
「いや、こっちの話。これで完了っと」
サブ電源の稼動停止が完了し、操作キーを叩く手を止める。
照明が落ちて、部屋が暗闇に包まれる。最初に起きた時は壁面のモニタも灯いていたが、今回はモニタの光も消えていた。
自動的に暗視モードになったのか、ホロウィンドウ越しに見ている景色は変わらない。
「これで魔獣をおびき寄せる事はなくなったのかな」
「ええ、稼動が止まれば魔素の集中もなくなりますからここが見つかる可能性は低くなると思います。ただ、この場所が魔素スポットなのは変わりありませんから可能性はゼロという訳でありませんが……」
「まぁ、300年も見つからなかったんだから大丈夫という事で」
「楽天的ですね……」
「そうかなぁ……そう外れた予想じゃないと思うんだけど。でも、これで外に出ない訳にはいかなくなったね。帰るための情報なり装置なり探したいけど、サブ電源のシールドをどうにかしないとまた魔獣を呼び寄せちゃうし」
「ここを出る前にサブ電源を診にいきますか?」
「いや、まずは外に出て何処か人の居る町を探そうと思う。シールドが簡単に治ったとしても帰る方法がすぐ見つかる保証は無いからね。それならまず長期調査のできる準備をしないと」
「わかりました。それではこのまま脱出しましょう」
「うん、道案内よろしくね」
食料の問題もあるし、外に出ない訳にはいかない。幸い非常食はまだあるし、身を守る魔騎兵も手に入れた。何よりエイダに会えたのは幸運だった。端末で調べたとはいえこの世界についてほぼ無知な俺にとって、エイダの助言は非常に助かる。
初っ端から不親切な異世界召還だったが、何とか最低限のハードルはクリアしたと思う。果たしてどんな世界が広がっているのか、多少余裕が出てきた俺は心なしわくわくしながらエイダのナビに従って地下施設から脱出したのだった。
◆◇◆◇
「なんというか……廃墟だなぁ」
エイダの指示に従って地下施設を出た俺は廃墟の中に居た。崩れたビル、剥がれた路面、瓦礫の山、まさに廃墟だった。
しかし、良く見てみるとビルや道路等地球に通じるものがあるのが不思議だった。崩れてはいるが極端に高いビルは無く、何というか地方にある中核都市のような印象を受ける。
ふと地球の事を思い出してしまい、大通りに立ち尽くしているとエイダが声を掛けてきた。
「どうかされましたか?」
「いや、地球……元居た世界と似た建物だったからちょっと驚いて」
「そうですか……こんな風になっていますが賑わっていたんですよ」
「……」
ふと、目の前に人が行き交う光景を幻視した気がしてまた思考が止まりそうになるが、ピーッ、ピーッと鳴る音で我に返りエイダと会話を続けた。
「所でこれから何処に向えばいいんだろう?」
「ここから北へいけばルドゥ。東がベルティスタです。私の持っている地図は300年前のものですから当てにならないかもしれませんが……」
「ここみたいに廃墟になってるかもしれない訳か……どっちに行ったらいいか悩むな」
「規模はこの地域で二大都市と呼ばれる程でした。ルドゥは軍施設、ベルティスタは食料生産寄りの都市でしたね。まぁ、どちらも軍施設はありますし、食料生産も行っていましたので、そこまで差があるという訳ではないですよ」
「つまり、どっちに行っても変わらないって事か」
ピーッ、ピーッと鳴り続ける音を聞きながら少しの時間悩むがすぐに決める。
「ルドゥに行こう」
北に決めたのは特に理由は無い。ただ、異世界で旅といえば北!というイメージがなんとなくあっただけだ。
「わかりました。それではルドゥに向うルートを提示しますね」
「俺は地理も全く解らないから頼むよ」
本当にエイダが居てくれて助かった。地理が解らず見当違いの方向に進んで遭難とか本当にありえるからな……
進む方向も決まった所で俺はさっきから気になっている事をエイダに聞いてみた。
「なぁエイダ、さっきからピーピー鳴ってるこの音って警告音?」
「はい」
「何か赤い光点がどんどん近づいてきてるけど、これって魔獣を表してるの?」
「はい」
「ですよねー」
道理でさっきからピーピー五月蠅い訳だ。魔獣が近づいてきたらそりゃ警告音くらい鳴るよなぁ。
「魔獣が近づいてるって教えてくれてもいいんじゃないの?」
「冬真があまりに気にしていない様子で今後の行き先を尋ねてくるものですから」
うん、解ってはいたんだよ。解ってたけどちょっとぼんやりしすぎてしまっただけなんだよ。さっきまで胸を占めていた望郷の念は既に無く、大量の魔獣相手にどう切り抜けようという事で頭は一杯だった。
「しかし、地上に出ただけでこの歓迎ぶりとは……魔素スポットなだけはあるか……それとも匂い?」
「先ほど倒したマッドトロルの悲鳴が呼び寄せたのかもしれません」
「あぁ……凄い声だったもんなぁ」
光点はどんどん近づいてきており、そろそろ目視で確認できそうなくらいまで近づかれてきている。
「包囲される前に脱出した方がいいな。エイダ、ルドゥに向える脱出ルートを出してくれ。それと種類は任せるから武器を頼む」
「了解。記憶をロード。強襲用装備の構築化開始」
粒子がベルガに集まると、変化はすぐに現れた。
両肩には7連装ミサイルポット、重機関銃を両手で構え、機体も変化していた。
「ローラースケート?」
ホロウィンドウのステータスによると、両脚にはつま先と踵の両側面にローラーが装着されふくらはぎにスラスターと両腰に小型のブースターが増設されていた。
「ジェットローラーです。路面が荒れていますが冬真の機装兵適性の高さなら問題なく使えるでしょう。」
何というか、形状的に財布をブレイク…もとい境界をブレイクするゲームに出てくるロボットのダッシュ機構に似ている。確かに走るより滑る方が確かに機動力が出るけど……
まぁ、大量の魔獣が接近している現状で四の五の言ってられないか。
「わかった。それじゃあいくぞっ!」
バックパック下部とふくらはぎのスラスターを噴かして初速を得ると、両腰のブースターで一気に加速する。チュィィィィッ!とローラーの甲高い駆動音を鳴り響かせながら大通りを横に抜けて街の出口へと向う。
大通りをこちらへ向って直進していた魔獣も、俺が動くのを見て速度を上げたようだ。
それに構わずエイダの指示に従い瓦礫を避け、道路に空いた大穴を飛び越え街中を疾走する。街中の風景が凄まじい速さで流れていき、追って来る魔獣の集団をじわじわ引き離していく。
(こりゃ……すげぇ)
凄まじい速さで流れていく風景に恐怖を感じなくは無いが、それよりも爽快感が上回っていた。まさに漫画等で見たまんまの動きを自分が行っている事に心が躍る。
――ビーッ!
エイダのナビに従ってこのまま魔獣を避けて街を抜けられるかと思ったが、そうもいかないらしい。ホロウィンドウ上の地図を見ると出口まであと少しという所で進路上に魔獣が固まっていた。
「こりゃ……避けられないな」
「ええ、正面の魔獣を制圧してから街を出ましょう。迂回路が見当たりません」
「そうそう都合よく抜け出せないか」
「まぁ、魔核が手に入ると思って頑張りましょう」
「マッドトロル倒した時に落ちてた角の事か。拾ってる暇あるのかなぁ」
いよいよ魔獣が目視できる距離まで近づいてきた。30体くらいの魔獣が通りに固まっており、こちらを捉えている。ほとんどがマッドトロルだが、一部はマッドトロルを一回り小さくしたような魔獣も居た。最初に出会った魔獣の集団はまだこちらを追いかけてきているためあまり足止めを食らう訳にはいかなかった。
「あまり時間は掛けられないから全力で行こう」
「了解。安全装置解除、目標前方集団」
ガコッと両肩のミサイルポットのロックが解除される音が聞える。カシャッ!と左目のターレットレンズが回転して広角レンズが魔獣の集団を捕捉し、ホロウィンドウに「Lock」の文字が現れた。
「全弾発射!」
バシュゥゥッ!と両肩の7連装ミサイルポットが火を噴き合計14発のミサイルが魔獣集団に殺到する。
着弾と同時に爆炎が立ち上がり、魔獣の悲鳴が辺りに響き渡る。
「構築化解除。パージします」
全弾撃ち尽くしたミサイルポットの実体化が解除され、光の粒となって消えていく。両肩から光の粒を尾の様に曳きながら魔獣の集団へと突っ込んだ。
まだ立ち上る煙で視界は十分でないが、魔素の反応が煙の中の敵を映し出してくれている。ミサイルの先制攻撃で浮き足立っている魔獣に向けて重機関銃を構えて撃ち込んだ。
ヴロロロロロロロッ!
重低音が響き、魔獣の悲鳴が上がる。時折魔吼が飛んでくるが、ジェットローラーで動き続けているためそうそう当たらない。直撃コースのものもシールドで防ぐ。今度は上手く張る事が出来て吹き飛ばされる事もなかった。
ジェットローラーの機動力を生かして近寄られない様に重機関銃を撃ち続けていると、程なく敵を殲滅する事ができたのだった。
「ふぅ……こんなに上手く片付くとは……先制攻撃が効いたかな」
「あの程度の数に対しては過剰火力だったかもしれませんが、あまり猶予のある状況では無いですからね」
「そうだね。早く脱出しよう」
エイダと短く会話を交わし、地面に散らばった魔核をできるだけ回収するとジェットローラーを噴かして目覚めた街を抜け出し、ルドゥへと向うのだった。
ようやく地下暮らしから脱出する事ができました。




