第7話
「再起動」
その声と同時に整備スペースで機体を吊り下げていたアームのロックが外れ、チュインと駆動音を響かせながら機体が、いや身体が動く。ぎこちなく一歩を踏み出し整備スペースから出る。
「お、おお……動いた……」
魔獣が侵入してきている緊急事態だとというのに、オタク憧れのメカを自分で動かしている感動で機体起動前に感じていた魔獣に対する不安が薄れていく。
「これが魔騎兵か……」
「起動完了。脱出ルートを表示します」
「っ……と、そうだった」
耳元で聞えてくる端末の声にはっと我に返る。そうだ、今は脱出が先だ。不安が薄れたとはいえ機体を動かす練習もせず魔獣と戦うなんて冗談じゃな……い?
「っく……くぅっ!?」
「どうされましたか?」
不意に居住区北ブロックの倉庫で圧縮箱を見つけた感覚が甦って来る。思わず呻き声を上げてしまうがそれはすぐに収まった。
不思議な感覚が収まると、魔騎兵を理解している事に気付く。装甲服を着ているという感覚は無くなり生身の身体でいるのと変わらない、そんな実感を覚えると同時に不思議な自信が湧き上がり俺はすぐさま行動に移った。
「脱出はしない、侵入してきている魔獣を倒して出撃口を塞ぎ魔獣が再侵入できないようにする」
「いきなり何を……?貴方は初めて魔騎兵に乗ったのですよ?無理はせずに脱出するべきです」
当然の反応を返してくる端末に対して、俺は歩き出す。それは始めのぎこちない動きと比べれば明らかに違う滑らかな動きだった。
「それじゃ駄目だ。帰れなくなる」
「帰れなく……そう、ですか」
小走りで整備室を出ると最初に目覚めた部屋へと向う。その途中には格納庫があった。俺は格納庫に向かいながら端末に答える。
「あぁ、ここに俺が呼び出されたという事はそのための装置がある筈だ。帰る装置があるかは解らないけど何かしらのデータはあるかもしれない。だからここを荒される訳にはいかない」
「……解りました。魔騎兵の適性も高い様ですし私がサポートすれば現在侵入してきている魔獣くらいは何とかなるかもしれません」
「魔獣の種類がわかるの?」
「魔素反応の量とパターンから『マッドトロル』と思われます。数が居ればともかく魔騎兵乗っていればそれ程驚異の高い魔獣ではありません」
「なるほど。数は?」
「幸い1匹です。今は格納庫内で暴れている様です」
「ベルガの武装は?機体の修理ばかりで武器は修理してなかったよね」
「問題ありません。SCS内の魔素を使って武装の構築が可能です。お好みの武器はありますか?」
「本当に何でもアリだな君たちの技術は……ショットガンを」
「了解。SCS内の記憶をロード。構築化開始」
右手に粒子が集まっていくと重厚なセミオート式軍用ショットガンが現れた。ホロウィンドウに武装データが表示される。
「そういえば、肝心な事を聞くのを忘れてた」
「なんでしょうか?」
「君の名前は?」
「名前は『AD-1001』と申し上げた筈ですが」
「型番じゃなくて名前。技術者の人とかにニックネームとか付けられなかったの?」
「……エイダと呼ばれていた事があります」
「良い名前じゃないか、エイダ。最高だ」
はいだらしそうで最高だ。メカのサポートAIとしてこれほどぴったりな名前はないと思う。本来は修理端末だけどそこは気にしない。
「名前を褒められたのは2度目です。貴方の名前をお聞きしても?」
「俺は桐見冬真、冬真でも何でも好きに呼んでくれ」
「では冬真と」
「あぁ、よろしくエイダ」
ふと、出会って5日も一緒に居ながら名前の交換もしてない事におかしみを感じながら俺とエイダが格納庫に辿り着くと、扉が吹き飛び嫌な気配を振り撒く何かが襲い掛かってくるのだった。
◆◇◆◇
ドガァァァァァンッ!
吹き飛んだ扉が廊下の壁にぶち当たり派手な音を立てる。そして黒いモヤに包まれた2メートルを越える大柄で筋肉質な人型の物が襲い掛かってくる。
『グゥオオオオオオオオっ!』
空気がビリッと震えるかのような雄叫びを上げながらこちらへ突っ込んでくるマッドトロルに対して、ショットガンを腰だめに構えて射撃。
ドゴンッ!
魔騎兵のアシストのおかげか、音に反して反動は思ったほど無かった。
『グギャァァァッ!』
マッドトロルが悲鳴を上げてたららを踏む。尚もこちらに向ってこようとするマッドトロルに対してショットガンの連射で応答する。何連射か叩き込むと顔面を両手で守る恰好で両膝を尽いて動かなくなった。
「……やったか?」
警告音とエイダの声が被る。
「まだです、魔核を砕いていません!魔吼が来ます、シールドを!」
「え、魔法?」
『グルォアアアアアアアっ!!』
ビーッ!
警告音が長く響くのと同時に、マッドトロルが咆哮と共に顔面を守っていた両手を降ろす。顕れた顔面の額に角がありそこから光が一直線にこちらへ向ってくる!
「え?」
間の抜けた声を出しながら向ってくる光線に対して俺は棒立ちだった。
バシィっ!
光線が何かにぶつかり弾かれる音と共に俺は吹き飛んでいた。
「お……?わ……あぁぁぁぁぁっ!?」
ホロウィンドウで見ている景色が回り床を転がっていく。数メートル転がった所でようやく止まったらしい、頭を振りながら膝立ちになるとエイダからの指示が飛んでくる。
「敵が来ます!迎撃を!」
頭を上げると傷口から黒い煙を噴出しながらこちらへ突進してくるマッドトロル。
「っ……こ……のぉぉぉぉぉぉっ!」
素早く立ち上がり右拳を握り締めると同時にナックルガードが展開する。ナックルガードにエーテルが集まり光り輝いていく。ショットガンは転がった時に手放していた。
不思議と冷静にマッドトロルの動きを見る事が出来た俺はカウンター気味にマッドトロルの腹部に右拳を叩き込む!
「ブラストナックル」
エイダの声と同時に腹部に叩き込んだ右拳の光が弾けて、おかえしとばかりにマッドトロルを吹き飛ばした。
『グギャァァァァァッ』
腹を抱えて床を転がるマッドトロルに対してエイダの冷静な指示が飛ぶ。
「額の角を破壊してください」
「わかった!」
ガヅン!
二度目のブラストナックルを角に叩き込むとあっさり角は折れ、マッドトロルは断末魔の悲鳴を上げながら空気中に消えていき、後に残ったのはマッドトロルの角だけだった。
「はぁ……はぁ……」
マッドトロルが消えると荒くなった自分の息だけが大きく聞えてくる。光線の直撃を受けた時は死んだかと思った。身体を見下ろしてみるが特に損傷らしいものは無かった。
「倒すと自信ありげに言い切った割には危なっかしかったですね」
「ぐぅ……」
的確なツッコミにぐうの音も出ない。
「まぁ……エイダのサポートがあるから大丈夫かなって……」
「シールドがあるとはいえ棒立ちで直撃を受けるのは感心できません」
どうもマッドトロルの光線を防いだのはエイダがシールドを張ってくれたおかげらしい。通常でも機体はシールドに守られていているがこれは魔素が漏れないようにするためらしく、攻撃を受ける時は防御用のシールドを張ったほうが良いとの事。
「まぁ、容量の大きいH級のSCSを増設してますからあのくらいの魔吼ならシールド張らなくても無傷でしたけどね」
と、ドヤ声のエイダさん。意外と自分の仕事は自慢したい性質なんだろうか。それにしても、あの根拠の無い自信は本当にどこから来たのやら……倉庫の時の感覚が来てから機体の操作はエイダに「適性がある」とまで言わせたけど、それだけで素人の俺が魔獣を倒せる自信が沸いて来るのが不気味だった。
「まぁ、倒せたから良しとしよう。新手が来る前に格納庫を閉鎖しないと」
「そうですね、閉鎖したらサブ電源を停止させた方が良いと思います」
「そうだな……動力室のシールドを修理するなりしないと安心して帰還方法も探せないか」
そんな風にエイダと話をしながら出撃口の第2隔壁を降ろし、最初に目覚めた部屋へと向うのだった。
ようやく初戦闘。戦闘描写って難しいですね…




