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床に尻餅をつく形で放り出された二人は目をしぱしぱと瞬かせ、処理の追い付いていない頭を整理した。やがて思考が安定してきた頃、深波は仕方ないなとでもいうようにノロノロと立ち上がり、未だに廊下に座り込む飛鳥を見下ろすと
「未知さんもああ言ってるし、帰るわよ」
と、飛鳥に背を向けて颯爽と歩きだしたのである。手をさしのべることもせず離れていく背中に、飛鳥も慌てて立ち上がる。
「おい待て、速いぞ」
歩いてもあるいても追い付かない背中に、飛鳥は文句を垂れるが、
「飛鳥が短足だから私のペースに追い付かないのよ。悔しかったら長い足を手に入れてみなさい」
ふふんと鼻をならすように深波に言われても、飛鳥は知っていた。
「私はお前より身長は高いが、座高は低いはずだ。よって、足が短いのだとしたら深波の方だろう」
それは春に行われる身体測定の結果であり、変えようのない事実だった。まさか飛鳥がそんなことを持ち出してくると思わなかった深波は
「ちっちっち!目に見える数値だけが真実じゃないのよ。そういうところ、詰めが甘いのよね」
という、本当かどうかも分からないことを言った。二人はそのまま並んで歩くことなく下らない言い合いをしながら、深波の家へと足を進めていく。
やがてたどり着いた一軒家の前で深波は鍵を開けると
「ただいまー」
と、元気に声を出した。しかし家族は出掛けてしまっているのか、その声に返事はなかった。




