2話 『青バラの祈り』
『青バラの祈り』。これが私がハマり、ひよりにすすめた乙女ゲームの名前だ。大手ゲームメーカーの人気作品にはピンとこず、ネットを彷徨っているうちにたどり着いたのがこのゲームだった。イラストは美しいが、人気声優は出演しておらずボイスも少ない。口コミでもボイスの少なさに不満が集まっていたが、ストーリー展開には高評価をつける声が多かった。
私はイラストが好みでストーリーが読み応えあればオーケーなタイプなので、迷わずこのゲームを購入。で、プレイしてみてびっくりした。このゲームのポテンシャルが予想以上に高かったからだ。
ストーリー展開はもちろん良かった。世界観の作り込みもばっちり。主人公の出自からしてシリアス展開になりそうなところを、彼女自身の性格やテンポのよい会話、光の多い美しいイラストが明るい雰囲気を作り出していた。
仕事や人間関係、特に恋愛で疲れた心にはシリアスすぎるストーリーはきつい。かといって、ドタバタコメディ過ぎてもしらけてしまう。その点『青バラの祈り』は絶妙な塩梅の作品だった。
「いや、いい作品なのは分かる。分かるんだけどさ…」
私は頭を抱えた。
小一時間前、目を覚ましたときと同じ格好で、私は窓の外を見ている。大きな窓からはさんさんと太陽の光が降り注ぎ、室内にある金の花瓶やテーブルを輝かせていた。大きな鏡にはアンニュイな表情で頭を抱える一人の青年が映っている。
すらりと伸びた背、金色の髪、青い目、白い肌に高い鼻。おまけに、アニメの中でしか見た事のないような真っ白なネグリジェ。見覚えのあるこの男は、さっきひよりの家のテレビ画面に映っていた人物そのもだ。
「アンドリュー」
そう口にしたのは、私ではなく、金髪美青年だ。正確には、中身が私の金髪美青年である。
「どうして、こうなっちゃったの?」
マスクをしたらフロア1の美女と謳われた私が、男になってしまうなんて!しかもゲームの中の!!
「落ち着いて、落ち着くのよ、ゆき。こんなの夢に決まってるじゃない」
ほら、よくあるあれやってみよ?いや、でもそれやったら終わる気が…えーい、うっとうしい、やったるわ!
ギュー!…痛い。
「ほっぺたギューが痛い…まじか」
そんなこと、あってたまるか。
私はもう一度、今度はもう片方のほっぺたをつねった。
「嘘だろう…」
脚に力が入らず、膝が床につく。思ったよりも大きな音だったのか、部屋の外で控えていた女性が近づいてきた。黒いワンピースに白のエプロン。頭にはこれまた白い布。
「ホワイトブリム…」
ホワイトブリムは、いわゆるメイドさんが頭に被る帽子のようなものだ。
「ザ・メイド服じゃないかよぉぉぉぉ!」
ビクッとなったザ・メイド服を着たメイドさんが、恐ろしいものでも見るような顔で私を見て、ゆっくりと下がっていった。
「アンドリュー様、いかがされましたか?」
いつからいたのか、すぐ後ろから老齢の男性が声を掛けてきた。黒いジャケットにパンツ、白いシャツ、胸元には銀のバッジ。
「執事まで…本当に」
その後の言葉は続かなかった。そこで私は意識を手放したからだ。




