EP 7
黒焦げになった死甲虫の残骸と、潤滑油の匂いが漂う枯れ森の最深部。
俺が差し出した手を見つめ、レオンは泥に塗れた顔を歪め、そしてポロポロと悔し涙をこぼした。
「……っ、どうしてだ。僕は君を……君たちを、あんなに見下して、子供のお遊びだと馬鹿にしたのに……」
震えるレオンの手。俺はそれをガシッと掴み、強引に彼を立たせた。
「レオン君が僕たちを助けようとしてくれたこと、知ってるよ」
「え……?」
「死甲虫の突進から、僕たちを逃がそうとしてくれただろ? 自分の剣が折れて絶望していたのに、それでも他の誰かを守ろうとする。それは、立派な『リーダーの器』だよ」
俺がニッと笑って言うと、レオンはハッと息を呑み、そして顔を真っ赤にして俯いた。
「……敵わないな。君のその『知恵』にも、仲間を信じる『心』にも。それに……」
レオンはチラリと、俺の後ろで「腹減ったー!」と騒いでいる規格外の大人たち(イグニス、キャルル、ルナ)を見た。
「あの強すぎる大人たちをまとめ上げている、君の『忍耐力』にもね」
「あはは……そこは本当に、毎日胃薬が手放せないよ」
俺の苦笑いに、レオンもようやく、毒の抜けたような清々しい笑みを浮かべた。
「ありがとう、アレン君。君こそが、僕たちの命の恩人であり……真のリーダーだ」
深々と頭を下げるレオン。その後ろで、傷が癒えた『白銀の翼』のメンバーたちも、俺たち問題児パーティーに向かって心からの感謝の礼をした。
プライド高きエリートたちが、俺たちの強さを完全に認めた瞬間だった。
◆
数時間後、城塞都市アイギスの冒険者ギルド。
枯れ森からの帰還を報告する場は、水を打ったような静寂に包まれていた。
「――以上が、枯れ森での一部始終です。オークの異常繁殖の元凶は、未知の鋼鉄の魔獣群でした。僕たち『白銀の翼』はそれに全く歯が立たず……そこを救ってくれたのが、アレン君率いる彼らです」
ギルドのホールの中央で、レオンがよく通る声で高らかに宣言した。
周りを囲むベテラン冒険者たちは、信じられないものを見るような目で俺たちを見つめている。
「お、おい嘘だろ……? あの『白銀の翼』が手も足も出なかったバケモノの群れを、あんな子供が率いるパーティーが全滅させたっていうのか!?」
「でも見ろよ、あの『白銀の翼』の連中が、あの少年に心底惚れ込んだような顔をしてるぜ……!」
ざわめきが、次第に『驚愕』から『称賛』へと変わっていく。
ギルド長が重々しく頷き、俺の前に進み出た。
「アレン・鍵田。そして君の頼もしい仲間たちよ。城塞都市アイギスを代表して、君たちの規格外の活躍に心から感謝する。これは特別報酬だ」
ドンッ!とカウンターに置かれたのは、目玉が飛び出るような額の金貨が入った皮袋。
「よっしゃぁぁっ! 今夜は街で一番高い肉を食うぞ!!」
イグニスが雄叫びを上げ、ギルド内が一気に歓声と拍手の大爆発に包まれた。
レオンたちに見下されていた『アンバランスな問題児の集まり』は、たった一つのクエストで、この街で最も尊敬される最強パーティーへと名声の階段を駆け上がったのだ。
◆
その日の夜。
俺たちは、アイギスで一番の高級宿屋の特別室で、豪華なディナーを囲んでいた。
「むぐむぐ……こっちの街のお肉も最高ね! アレン、もっと頼んでいいかしら!」
「ダメだよキャルル! それもう5人前! イグニスも骨まで食べないで!」
「あらあら、果物も甘くて美味しいわよ〜」
相変わらずドタバタと騒がしい仲間たちを見ながら、俺は懐のポケットに手を入れた。
指先に触れる、小さな『黄色いアヒルの玩具』。
最初のハズレアイテム。でも、俺のすべてはここから始まった。
(ギアンの奴、今度は完全に『殺し』に来ていた。次はもっと恐ろしい手段で、僕たちの前に立ちはだかるはずだ)
死蟲王サルバロスの潜む【天魔窟】。
そこに至るまでの道のりは、今日のような絶望の連続かもしれない。
だけど、恐怖はない。俺の頭の中にある地球の『知恵』と、この最強で最高の仲間たちがいれば、どんな困難だってぶち破れる。
「よし! 明日は装備を整えて、さらに東へ進むよ! みんな、準備はいい!?」
俺がジュースの入ったグラスを掲げると、問題児たちも満面の笑みで肉や果物を手にしたまま応えた。
「「「おうっ(わよ)(ねぇ)!!」」」
窓の外には、満天の星空が広がっている。
13歳の少年アレンと、問題児だらけの大人たち。
彼らが紡ぐ、笑いと知恵と奇跡の冒険譚は、新たな大陸の果てへと向けて、勢いよく加速していくのだった――!




