0-8 三男坊 歓喜と絶望に会う
レオンに良い知らせと悪い知らせがあります。
合格発表を見に行ったレオンだが、彼の受験番号の有るはずの位置に番号が無く、著しく落ち込んだ。
その時、後から肩を叩く奴がいた。俺が振り向くとエイトが居た。
「おお!お前凄い顔してるぞ」
彼は俺の顔に驚いたようだ。仕方ないだろう。俺の将来の可能性の殆どが潰れたのだ。
「お前の番号があっちだ」
彼はにこやかに受験番号の最初の方を指差した。
俺は恐る恐る顔を上げ、エイトの指さす方を見た。補欠合格とかがあったのか?
他の番号の上に赤枠で囲んだ番号がある。・・・・俺の受験番号だ。
「なぜ俺の番号が最初に?!しかも赤で囲んで?」
一体どうなっているんだ。
「レオンも状元(首席合格者)なのね」
後から女性の声がした。姉のレナだ。
「姉さん、何でここへ」
「今日は私の発表もあったのよ」
そう言えば姉は俺達の次の日に高等部の試験を受けたのだった。
「おい、この人は?紹介してくれよ」
エイトが真っ赤な顔で俺に言う。
「ああ、すまない。俺の姉でレナって言うんだ」
「お姉さん!僕、レオンの友達でエイトリッヒと言います。シュバルツバッハ辺境伯の騎士の子です」
「あら、うちの寄親じゃない。よろしくね」
貴族には寄親、寄子の制度があり、簡単に言うと親分、子分の関係だ。
「姉さん、この状元ってなに?」
「この試験の一番の合格者って意味よ。おめでとう」
「へえ、俺の番号が無いって焦ったよ。こんなことしなくていいのに」
「ああ、入学式に代表で挨拶させるからよ」
「ええ、面倒臭いな。うん、さっき俺もって言ったよね」
「当然、私も中等部、高等部連続で状元よ」
「すごいね。姉さんもおめでとう」
「まあ、ルカ兄も状元だったからイエーガー家としては伝統って所かしら」
「ニコラ兄は」
「ニコ兄は同級生に天才が居てね。勉強では勝てなかったわ」
「いっけない。ゆっくりしすぎちゃった。行かなきゃ。合格受付に行って手続しなきゃダメよ。じゃあね」
慌てて駆けて行った。
エイトを見ると目をハート型にして、姉の後ろ姿を見送っている。
こいつ惚れたか。まあ、恋愛は自由だからな。
「お前はどうだったんだよ」
ハッと俺の方に振り返った。
「エ、何?」
「お前は合格したのかって事」
「ああ、もちろん合格したさ」
「お前の姉さん美人だな」
「まあな、性格ががさつだから近寄らない方が良いぞ」
「爆轟の二つ名を継ぎそうな人だろう。俺みたいな一般人じゃ相手にされないさ」
爆轟の二つ名を持つのは俺の母だ。爆発魔法が得意で魔獣退治やクーデターでの活躍でこの二つ名がついた。
姉は母に似て爆発魔法が得意なので爆轟の二つ名を継ぐともっぱらの評判だ。
魔法が得意な女性は子供も素質を継ぐことが多い為、高位の貴族に嫁ぐことが多い。
エイトは切り替えたようだ。
「合格手続きに行こうぜ」
「ああ、あいつの番号が無くてホッとしたぜ」
グリューズバルト侯爵の次男の番号は無かった。
合格手続きが済むと今度は寮だ。
俺は従者が二人いるから従者部屋の付いた部屋が居る。
幸い、今年は従者の居る高位の貴族は王都に家を持つ者が多かったらしく、部屋に余裕があった。
部屋はすでに開いているようで、明日からでも入れるらしい。
エイトも初等部の寮から中等部の寮に移る手続きをした。
高位の貴族ではこんな手続きは執事とかがやるんだろうなと思う。
ホテルに帰って俺は考えていた。
エイトの学園の費用は、すべて親から支給されると聞いた。
俺の家は男爵なのに辺境伯の陪臣よりも貧乏らしい。
取敢えず、一年分はこの間の報奨金や交換所での金で賄えるが、一年で中等部三年分を飛び級出来ても高等部へ行こうと思うと全然足りない。
父も後4~5年は借金の返済が中心になるって言ってた。
姉は高等部の費用は魔法省で働いた金を使うので、俺を支援する余裕はない。
と言うか、後二年経つと妹が初等部に上がる。俺も支援する側に回らないといけないのか?
まあ、入学式まであと二週間ほどあるから薬草の採集にでも行くか。
待てよ、俺とコトネは歩いて行けるとしてもアンナは一週間も歩けないよな。アンナが居ないと効率よく採取が出来ないから下手すると足が出る。
馬車を借りるか?これも足が出そうだ。
魔獣が出れば儲かるが、まずエリーゼの時みたいなことは起こらない。あれは本当に偶然だ。
あ、自分の事で精一杯で、アンナの事を失念していた。明日は王城に行こう。ウエルフェルトの事を聞かなくては。
早速、俺は手紙を書いてエリーゼに明日面会ができるか伺いを立てることにした。
王城の門で受付に手紙を渡し、返事を待った。一時間ほど経って職員が手紙を届けてくれた。
エリーゼが駄目ならルーカス兄に頼むしかないと思っていたのでラッキーだ。
手紙には”明日の十時に門に来て”と書いた紙と入門許可証が入っていた。
その夜、コトネとアンナがお菓子を買ってきてくれて、俺のささやかな合格パーティを開いてくれた。
「レオン様、おめでとうございます。イエーガー領を出る時には、どうなることかと心配しておりましたが、本当に良かったです」
「レオン様、おめでとう。良かったあ」
「ありがとう。お前達の支えがあって合格できたんだ。本当にありがとう」
ホテルなのであまり騒げないが、一時間ぐらい楽しく過ごした。
「レオン様、・・・聞いていい?」
アンナが真剣な表情をしている。やはり我慢していたのか?
「何だい?」
俺は出来るだけ優しく聞いた。
「私のね・・お父さんとお母さんがどこにいるのか分かった?」
泣いている。やはり俺の受験を気にして聞けずにいたのだ。
「済まない、まだだ。そのことをお願いしていたエリーゼ様に、明日会う約束が取れたから聞いてくるよ」
「本当、お姫様が判るの?」
「お姫様は部下を使って調べてくれているよ。今、ウエルフェルトには人は住んでいないそうなんだ。だからどこかに避難した人がいないか探してるから時間が掛かるんだ」
「じゃあ、王都に居るかも知れないの?」
「解らない。ごめんね。俺にはそれぐらいしか解らない」
「・・・・レオン様、ありがとう・・・・」
コトネが膝を着いてアンナを抱きしめる。アンナは静かに泣く。
九歳の女の子に我慢をさせ過ぎたな。でも良い知らせをアンナに持ってこれる可能性は限りなく低い。
その時俺はアンナに言えるのか?・・・・。
次の日、指定された時間に王城に行く。門にはルーカス兄が待っていた。
「ご苦労、王太子様が非公式で会いたがっている」
ええと驚く暇もなく、ルーカス兄は先に立って歩き始めた。
俺は慌てて門番に入門許可証を渡すと兄の後を追った。
今度は謁見室では無く、王太子様の執務室に迎えられた。
部屋には王太子とエリーゼが居た。
兄が王太子の向かいに座るように仕向け、俺はお辞儀をして座った。
王太子は機嫌が良さげで俺の方を向いて言った。
「状元だってな。おめでとう。推薦した俺も鼻が高いぞ」
「ありがとうございます。王太子様の御厚情のお陰です」
俺は当たり障りのない礼を言う。
「なんでお前がミッソカスなんだ?」
「はい、こ奴の身体強化レベルが1しかないため、そう言われるようです」
兄が助け舟を出した。
「イエーガー家は厳しいな。世の中身体強化レベル0の奴が半分だぞ。俺も2しかない」
「それはそうとグリューズバルト侯爵の次男坊をコテンパンに伸したんだって」
「いえ、負けを認めてくれませんでしたのでそれなりに」
「貴族派の奴は少し痛い目を見た方が良い」
「太子様!」
「解っておる。しかし、あ奴らは高位貴族であると言うだけで、何でも通ると思っていやがる」
ヴァイヤール王国も一枚岩ではないらしい。まあ、俺には関係ない事だ。
「レオンハルト、お前もイエーガー家に生まれた以上、王室派と見なされる。心せよ」
「はい!」
ここで質問する度胸は俺にはない。王室派ってなんだ?貴族派って?
「ルーカス!派閥について説明して置け」
「はい」
「俺の用はこれだけだ。お前が王城に来るのを楽しみにしているぞ」
「はは。」
王太子様は去って行った。
今度はエリーゼが俺の向かいに座った。
「合格、おめでとうございます」
「ありがとう。君も合格したんでしょう」
「はい、同級生ですね」
借りてきた猫の様に静かなエリーゼに違和感を感じた。
「あのウエルフェルト村の事は何か分かりましたか?」
エリーゼの方がビクッとなった。やはり。
「アンナさんを除く全員の死亡が確認されました」
「あ、・・・」
俺がかすかに持っていた希望も無くなった。
「そうですか。ご苦労をお掛けしました」
「いえ、そんな・・・」
俺は見た目からして大きく落胆しているのが判るのだろう。エリーゼは掛ける言葉を探せない様だ。
アンナの家系はウエルフェルト村で完結している。他の土地に親戚は居ない。アンナはまさしく天涯孤独となってしまったのだ。
「墓はあるのですか?」
「すいません。個人の墓標は無いそうです。確認は年恰好と性別位の記録しかなく、人口と死体を比較しただけです。行方不明者1名が女児であることが解っています」
恐らく隣の村とか行商人とかの記憶からたどったのだろう。
五十人に満たない村だから正確に分かったんだろう。
さてアンナにどう言えば良い?
次回、ウエルフェルト村に行きます。