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0-9 三男坊 北に行く

アンナの思いを叶えるためウエルフェルト村に行きます。

 アンナの家族が死亡していることが分かったが、レオンにはこのことを伝える勇気が出て来ない。


 俺はホテルに戻るのがつらくて、何度も立ち止まる。だが・・・。

 俺は社会に出るために家を出たんじゃないのか?

 避けようのない事でこんなに悩んでどうする。

 アンナは俺が支えてやるしかないじゃないか。

 俺は自分を無理やり奮い立たせた。


 ホテルの部屋のドアをノックする。すぐにコトネがドアを開ける。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 部屋のなかのテーブルの椅子に座るアンナが見える。

 こちらに来ないということは、悪い予感でもしているのだろう。


 俺はアンナの前に座った。

「アンナ、よく聞いてくれ」

 俺の雰囲気からもう察しているのだろう。顔を上げられない様だ。

「・・・うん」

「ウエルフェルトの村は、お前を除いて、すべての人が亡くなっていたことが分かった」

「・・・」

 コトネがアンナに駆け寄る。

 アンナは立ち上がってコトネに抱き着き、泣いた。


 一時間ほど経ったであろうか。

 アンナは振り向いて俺を見た。コトネの服は右手でしっかり握ったままだ。


「・・私はどうしたら良いですか?」


 村の状況を調べに王都に来て、それが分かった以上、俺達と一緒に居て良いかと言う事だろう。


「アンナ、良かったらこれから先もコトネと一緒に俺の面倒を見てくれないか?」


「良いの?」


 そんなに裕福な村じゃなかったはずだ。保護者を失った子供がどうなったのか、見たのかもしれない。

 この世界に孤児を保護する優しい施設などない。


「もちろんさ。俺達3人で暮らして行こう」


 昼食後、俺達は学生寮への引っ越しを終え、と言っても収納庫があるのでほぼ手ぶらだった。

 ホテルのチェックアウトで後一週間分の払いがされていたが、返金を俺が貰って良いと言う事だったので、予想外の収入があった。


 学生寮は3階建てで部屋は3階、東南角で約8畳ほどの部屋と従者用の約3畳の部屋があった。

 備え付けの家具はベッド二つと洋服ダンス、それに勉強用の机と椅子、小さなテーブルと椅子が二つ、3人が住むには狭いが仕方が無い。当然トイレは別だ。


 部屋の掃除をして一息ついた頃には夕方になっていた。

 え、3階だと水を持ってくるのが大変だろうって、いや収納庫に樽で3個くらい入ってるから心配ない。

 寮の食堂は十日位しないと始まらないし、外のかまども許可が下りないので、外に食べに行かないといけない。


 夜、さあ寝ようかと言う時、アンナが言った。

「あの、いつでも良いけどウエルフェルトの村に行きたい」

「アンナ、無理を言ってはいけません」

 コトネがたしなめる。節約生活をしなければならないのでコトネが言うのも当然だ。

「そう遠くないんだよな。不便なだけで」

「レオン様。行くのですか?」

「行ってくれるの?」

「幸い、二週間休みがあるし、安い馬車で薬草が取れれば元は取れるさ」

 俺は思い付いたことがあった。


 次の日、俺は近衛兵の詰め所に行った。

「あのう、弟なんですが、ニコラウス=イエーガーに会えますか?」

「何か、証明するものはありますか」

 受付のお姉さんが聞いて来た。

「はい」と俺は貰ったばかりの学生証を出した。


「少々お待ちください」

 受付嬢は書類を何枚かみて、兄の所在を確認した。

「後20分程で休憩に入りますが5分位しか面接できないと思われますが」


「大丈夫です。ちなみに近衛兵の関係者なら安く馬車が借りられると聞いたのですが」

「はい、そういうことはやってますが、来週になると引っ越しが多いので、予約が詰まってます」

「では今週いっぱいなら借りれますか」

「来週の頭までなら借りられます。お兄さんのサインが要りますが・・あ、そう言うことですね」

「はい」


「チゼッテ!BD1にいるイエーガー少尉に弟さんが面会に来ているって、呼んで来て」

「はい」とチゼッテと呼ばれた犬獣人の娘が敬礼をして走っていった。

 獣人でも下働きなら雇って貰えるんだな。

 場所は外部の人間が解らないように符号化されているらしい。ちょっとカッコいいと思った。


 受付嬢は一枚の紙を出して言った

「こことここに名前と続柄、借りる日付を書いて、馬車は一頭立ての荷馬車で良いわね」

 兄がサインしたら出来上がるように書類を準備する。流れるような段取りだ。

「8日間ね、大銀貨1枚、小銀貨6枚よ。お兄さんに払って貰う?」

 破格に安いなあ。

「いえ、払います」

「期日までに返さないと超過料金が発生するから気を付けて」


 十五分後、兄が来た。

「なんだ、レオン何の用だ」

「馬車を借りに来ました。ここにサイン願います」

「うん、ああ。金は良いのか?」

 兄はすらすらとサインする。


「ありがとう。もうお金は払いました。王女様の件でたくさん頂きましたので」

「どこかに行くのか?」

「ウエルフェルトまで行くつもりです」

 俺はアンナの事を簡単に説明する。

「そうか、気を付けて行け。あそこらは道が悪くてきついからな」

「わかりました」


「裏に廻ると厩舎がありますから、そこに居る者にこれを見せて、馬車を借りてください。返す時は返してからこちらにも知らせてください。気を付けてね」

 話を聞いていた受付嬢は少し涙目になっていた。

「さてと俺は戻らないと」

 兄が踵を返したので「ありがとう」ともう一度礼をした。

 兄は背を向けたまま片手を上げた。かっこいいなと思った。


 寮に馬車で戻ると買い物を済ませたコトネとアンナが待っていた。二人を乗せて出発だ。

 俺は門を出る前に交換所で薬草を売った。

 旅費には十分だろう。


 王都の門を出てひたすら北に向かう街道を進む。

 2日目朝に街道を逸れて山に向かう。街道沿いの土地には獣人は住まわせてもらえない。

 山を登っていくと川があり、日も暮れて来たので夜営する。

 明日は川の浅い所を探して渡らないといけない。


 次の日、コトネが川まで人の通った後を発見したので、その辺を馬に乗って瀬踏みしてみる。

 何とか行けそうだがコトネやアンナの身長では流される危険がある。

 取敢えず、馬車を収納庫に入れ、馬に一人ずつ乗せて、俺が引いて渡ることにした。

 まず、アンナを乗せて向こう岸に渡る。

 次に、コトネを乗せて渡った。


 ここからは馬車も走れないので、アンナを馬に乗せて俺が手綱を引き、コトネにその後ろを歩かせる。

 野生の獣が居るかも知れないので腰に刀をぶら下げる。コトネもアヤメさんに貰った脇差を手に持つ。

 十五分ほど歩くと集落が見えてきた。


 二十軒ほどのあばら家と狭い耕地があり、すぐ山が迫っている。

「ウエルフェルトの村です。ここが私の家」

 こりゃイエーガー領より貧しいな。生きていくだけで精一杯だったんだろうな。

 アンナが走って家に入る。事件からまだ二月経っていない。家が潰れることはないだろう。


 家が所々で崩れている、魔獣が崩したのだろう。

 魔獣は人間を食わない。いや、正確じゃないな、人間の肉は食べない。

 彼らが食うのは魂と魔力と言われている。本当の所は解らない。

 ただ魔獣が襲った遺体は、獣のそれとは違って、血すら流れていないことがある。

 と言うことで然程凄惨な光景にはなっていない。

 もちろんここに来る前にエリーゼから様子は聞いた。

 だからアンナを連れて来れたということだ。


 山側の少し高くなった所に大きめの石が置いてある。

 あの下に住民が埋葬されている。

 まだ草が生えそろっては居らず、土は整えられているのが良く分かる。


 アンナが出て来ないな?

「コトネ、家に入ってアンナを見て来てくれないか?」

 泣いているのかもしれないが、こんなところにそう長く一人にして置く訳にはいかない。

「分かりました」

 コトネはアンナの家に入って行った。


「アンナ!、大丈夫なの。アンナ!」

 コトネの声が聞えた。

 俺も急いで家に入ってみる。


 そんなに広い家ではない。アンナとコトネはすぐに見つかった。

 生活用品もほとんどない部屋の奥にアンナは居た。

 様子がおかしい。アンナは無表情にそこに立っているだけだった。こちらに反応しない。


「アンナ!、俺が解るか」

 コトネがアンナに抱き着いた。

「アンナ!どうしてしまったの?」

 気丈なコトネが泣きそうになっている。


「いやすまん。驚かしたか」

 アンナが呑気な声で言った。明らかにアンナの話し方じゃない。

「アンナ?」

 コトネはパニくってる。

「お前は誰だ!アンナはどうした」


 アンナは顎に手を当て、首をかしげている。

「わしが何者なのか。わしにも分らん。ここに住んでいた者の霊が集まって、わしの中に入って来た」

「なんで、アンナに取り憑いてるんだ?」

「元々は、ここの山に居た精霊のような物だ。ここの者が祈ってくれるお陰で徐々に自我を持った。この娘に憑いたのは、ここの者の霊がこの娘と話をしたいと望んだからじゃ」


「アンナは大丈夫なのか?」

「ああ、もう話は終わる。話をするために意識を内に沈めていただけじゃ」

 ・・・

「あれ、コトネさんどうしたんですか?」

 アンナが自分に抱き着いてるコトネに驚いている。

「ああ、アンナ戻ったのね」

 コトネの目に涙があった。


「そっか、私がお父さんとお母さんに話をしている時に来てくれたのか」

「戻ったのか。御両親と話が出来たのか」

「うん、私が生きていてくれて嬉しいって。レオン様やコトネさんにもお礼を言ってたよ」

『ところでわしは憑いていて良いかの?』

 頭の中でさっきの精霊?の声がする。

次回、旅の帰り道で事件に遭遇します。

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