3-3 三男坊 新学期そうそう大事件
新学期そうそうにいろんな事件に巻き込まれるレオン。
俺は新年を実家やアキラさん宅で過ごした。
いよいよ、三年生の三学期に編入する。
朝、寮を出てもエイトもエリーゼも居なかった。二人がいない登校は初めてだった。
三年生の三学期は1月と2月の二月だけなので寂しさも我慢できるか・・。
始業時に担任が俺を伴って教室に案内してくれる。
担任の後ろに着いて教室の中に入った瞬間だった。
ぞわっとした感覚が体を駆け巡った。
これは何だ!!
教室内から俺に向かうこの感覚。
それは教室内に居る生徒全員から俺に発せられる悪意だ。
『成り上がりが!!』
『ミソッカスの癖に!!』
そう言った妬みや恨みが俺を包む。
俺自身の相手の強い感情を読み取る能力が、この時ばかりは嫌になった。
しかし、なぜ俺がこれ程の悪意に晒されなければならない?
相手が俺の存在が高等部への昇級の当落に関わるのならわかるが、それはクラスの20%に満たないはずだ。
大体、中等部の進路としては高等部に優先入学する優等生が約20%、試験入学を目指すものが約30%、残りが就職などの高等部以外を目指すもの約50%となる。優先入学と就職については2学期までの成績で決定しており、俺が居ようが居まいが進路に変更はないはずだ。
関係があるのは、3月頭に実施される高等部の進級試験の当落線上にいる者達だけと言うことになる。
従って俺に敵意を向ける奴はそいつらだけのはずだ。
それなのになぜクラス全員が俺に敵意を抱くのだ。
とりあえず我慢するほかはない。
エリーゼとエイトが居てくれればとこの時はしみじみと思った。
教室で自己紹介を終えて三学期のスケジュールなどを確認して、始業式の為に講堂に向かった。
一時間ほどの式が終わって、教室に戻ろうとすると一人の男が話し掛けて来た。
「やあ、レオンハルト君、本当に一年間でここまで来たんだね」
「あ、これはグリューズバルト先輩。お久しぶりです」
ハインリッヒ=グリューズバルトだ。相変わらず隙のない笑顔で俺の正面に立つ。俺達の周りに人垣が形成される。朝からの悪意の垂れ流し状態のままだ。
グリューズバルト侯爵家は貴族派の反乱の際、開始前に資金集めに横領しているのがバレ、拘束されるが王室派への恭順を示した弟により侯爵一族は粛清された。
その弟が今のグリューズバルト侯爵でハインリッヒ先輩はその長男である。
「先輩はよしてくれ。もう同学年じゃないか」
この男に話し掛けられるとすごく緊張する。なぜだろう、敵意も何もないのに。
「いえいえ、先輩は私に比べると人間が凄く大きいように感じます。敬意を感じて当然です」
実は敬意ではなく警戒心だ。この男には寸分たりとも油断を見せる訳には行かない。そう強く感じるのだ。
「君とは高等部でも同学年になるわけだから今度は僕に協力して欲しいもんだな」
「また、生徒会の業務をなされるのですか。私も今度は、学年の勉強だけですので、お手伝いできることがあれば何なりとお申し付けください」
あれ、逆らうのは得策でないとへつらったら周囲の悪意がすっと和らいだ?もしかして一年生の時、先輩の要請を断ったのがこの悪意の原因だった?
とすればこの男はすでに三年生全員を篭絡しているのか?思った以上に恐ろしい男の様だ。
ヴァイヤール王国も王太子の時代には、ルカ兄と先輩で凄まじい政争をやって居そうな予感がする。
俺がこのままいれば二人のパシリになりそうな感じだ。それで恐ろしいのか?
幾分過ごしやすくなった学園生活を2週間ほど過ごした頃の話だ。
「帝国の使者が現れて、この学園に来る」
噂が走った。
俺はすでに使者の情報をヤヌウニさんから得ていたので驚きはしなかった。しかし、ヤヌウニさんの情報はここまでで、使者の目的までは解っていなかった。
数日後、俺は唐突に学園長室に呼び出された。
学園長なんて入学式に見たきりで直接会うのも初めてだった。
三年生のこの季節に呼び出しと言うのはなかなかビビるものがある。
学園長室の大きな扉の前で息を整えてからノックをした。
「三年、レオンハルト=イエーガー、参上しました。入室を許可願います」
なるべく騒がしくなく、通る声で室内にいる学園長に許可を願う。
少し間があって女性職員によって内側から扉が開けられる。
大きな学園長の執務室が見える。一番奥に大きな執務机、これが学園長の物だろう。
しかし、そこに学園長は居らず、机の前に並べられた豪華なソファーに客と思われる三十台半ばの男性と座っていた。
女性職員に学園長の真向いの椅子に案内される俺。
いくら俺でもいきなり着席することはしない。椅子の脇に立ち挨拶をする。
「レオンハルト=イエーガー、お呼びにより参上いたしました」
学園内の礼儀については軍隊式のものが採用されており、所作に雅さのかけらもない。
「着席しなさい」
初老の女性である学園長は、その小さな姿に似合わず威厳のある声で言った。
「はい、ありがとうございます」
俺は所作が間違いないか確認しながら椅子に腰かける。
「早速だが、君にリヒトガルド帝国からハイデルブルグ学園留学の打診が来ている。もちろんこの話は王家、イエーガー伯爵にはすでに話は通っている。この方はその使者として帝国から来られたロンメル少佐だ」
王家や両親はすでに了承しているのか。まあ、帝国のハイデルベルグ学園は大陸の最高峰だからな。しかしなぜ俺が選ばれた?
「我々が君に注目したのはある方の推薦があったからなのだが、一つは並々ならぬ向学心、もう一つが自身の身体強化レベルが1なのに拘わらず、すでに学園では3以上の実力を発揮し、実際内乱での敵のレベル5の攻撃を退けている。これは大陸中の低レベルの者たちの希望ともなっている」
俺の実績が大陸中に認められているのか。まだ身近ではミソッカスと言われ続けているのに・・。
俺の努力は間違っていなかった。
間違っていなかったのだ。
涙が出そうだ。いやまだ早い。まだよく頑張っていると思われているだけだ。
「ぜひ、お願いします。大陸の最高峰で勉強できるなんて身に余る光栄です」
「そうか、私も40日かけてヴァイヤール王国に来た苦労も報われるというものだ。これが入学要綱になる」
封筒に入った書類を貰った。40日・・4月頭に帝国に着くには中等部は卒業できないのでは?
「心配は要らない。あなたはすでに卒業に必要な単位は取得している。これは卒業証書よ。明後日に卒業入学に関する連絡をするから今日と同じ時刻にいらっしゃい」
学園長は微笑んでくれた。
俺が部屋を出た後、二人の会話は続いた。
「彼の腕は試さなくて良かったのかしら?あの方はそれを望んでいるのでしょう」
「実は、・・・試していたのですよ。薄い殺気をいろいろな角度から放ってみたのです」
「はい?・・・」
学園長は何のことかわからない様だ。
「我々は殺気で疑似的な攻撃を仕掛けることが出来るのですよ」
「それを彼がすべて躱したと?」
「それならよかったんですけど・・・」
どうも歯切れが悪い。
「どうしたんですか?」
「こちらの攻撃がすべて外れてしまったのです」
「意味が解りかねますが?」
少佐は大きく息を吐くと上を向いた。
「こちらが当てに行った殺気が、放ってみると外れているのです。もう訳が分かりません」
「どういうことなのでしょうか?」
「彼は私よりかなり上の段階に居るのではないかと推測しています」
学園長は思っていたことを口に出した。
「一度立ち会って見ればわかるのではないですか?」
「これでも私は剣術の教導者です。戦わなくても解りますよ」
「でも、”首狩り”にも会ったのでしょう。それに比べれば・・・」
「あれは人間とは思えませんでした。帝国にも強い人はいっぱいいるのですが、あそこまで恐ろしい人は初めてです」
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俺は喜び勇んで寮に帰った。その様子を見たコトネが首をかしげる。
「どうされたのですか?いつになく明るい様子です」
新学期を迎えてから鬱々と楽しめずにいたので、明るい様子に驚いたのかもしれない。
「俺は帝国に留学するぞ。今日帝国の使者と学園長から要請があった」
「帝国に行くのですか?・・あの私達はどうすれば?」
「もちろん一緒だ。お前達が独立できるまでは、俺が責任を持つといつも言っているだろう」
「レオン様はどうして嬉しそうなの?」
アンナも出て来て話しかけてきた。
「そうだな、俺はこの国に居る限り、縛られることを恐れて暮らさなければならない。帝国に行けば俺はずいぶん自由に暮らせるんだ」
10歳に成ったばかりのアンナには難しかったのか、首をかしげている。
俺はこの国で強さを示せば、決戦兵器として拘束されると思っている。そのため高等部に居るうちに国外に逃げるつもりだった。だから、この留学の話は降って湧いた幸運と言えるだろう。
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
コトネが扉を開けるとジュリアが立っていた。
その非常に焦った様子に取敢えず中に入れてお茶を飲ませる。
ジュリアは金字教の聖女候補生で中等部の二年生に在籍している。
「済みません。助けてください」
ジュリアは俺に縋ってきた。
「どうしたんだ?」
「私は貴族に売られることになりました」
「君は聖女候補生じゃないのか?」
「獣人や貧乏な方を差別するのか、しつこく聞いたのが教義を冒涜すると言われてしまい、破門となりました」
「治癒魔法を使うものを民間に放すわけにはいかないから貴族に売ると言うことか?」
「その通りです。でも私は神にこの身を捧げた者です。貴族に売られるのは耐えられません」
ここは、金字教の奴らに知られている。逃がすなら別の場所に運ばなければ・・。
しかし、ここで金字教に逆らってしまうとまずいか?
考えていると扉が激しくノックされる。
もう来たのか!?
保護を求めてきたジュリアを助けることは出来るのか?




