3-1 三男坊 成人する
レオンは成人します。これからは成人したレオンが大陸中を駆け回って活躍する予定です。
今回は実家での成人の儀の様子です。
三年生への進級試験を受けた、俺・エリーゼ・エイトであるが三年生に進級できたのは俺だけだった。
そんな中、年が明け、15歳になった俺は成人の儀を迎える。
古来この国では15歳に成る年明けに成人の儀が行われる。貴族に置いてはその屋敷内にて行事が行われるが、今までのイエーガー家では長男・次男・長女は低位貴族の男爵だったし、辺境だったので庶民と変わらない儀式を行っていた。
レオンの母、マリア=イエーガーは悩んでいた。
小さな傭兵団の団長であるフリードリヒと結婚した時には、こんなことになるとは思わなかった。
貴族になったといってもその実裕福な農家ぐらいの暮らしだったのが、いきなり高位貴族の伯爵になってしまった。
高位貴族に恥ずかしくない対面を守ろうと必死でやって来たが、夫も子供達も誰も解ってくれない。
特に三男のレオンはレベル1のミソッカスの癖に王族が用意してくれた廃絶伯爵家の復活に抵抗している。
せめて従者の獣人を人族に変えてあげようとしたら怒ってそれから姿も見せない。
試験休みに長女のレナと次女のリーナを説得に行かせたが、うまく行かなかった。リーナに至っては服を買って貰ってレオンの味方になってしまった。
しかもその服は金貨10枚は下らないだろう最高級品だ。あの子はどれだけのお金を持っているのだろう。学園に行ってから一度もお金を上げたこともないのにだ。
しかし今回はレオン本人の成人の儀だ。来ないと言うことは無いだろう。
そこへ夫が従来通りの簡素な儀式で良いと言い出した。他の高位貴族に儀式の内容を頭を下げて聞いて来たのに無駄になった。夫は高位貴族に習うのは、長男のルーカスの子供からで良いと言っているのだ。
レオンも従来の儀式なら来ると言っているので、私一人で頑張ったって仕方ない。
夫はレオンの事は放って置けと言うけど、身体強化レベルを高く産んであげられなかったのは私だ。
執事のヨハンに聞いてやって来たけどうまく行かなかったわ。どうしよう。
私が部屋で悩んでいると長女のレナがやってきた。この子はメイドのゲルダを通しなさいと言っているのにノックもしないで入ってくる。
「母さん、また辛気臭い顔をして、レオンの事考えているんでしょう」
「息子の行く末考えて、何が悪いの!」
「だから、あの子は自分で考えて、何とかするって言ってるでしょ。考えるだけ無駄よ」
「でも心配だし、私嫌われちゃったし」
「もうすぐ、成人の儀で来るでしょ。謝ったらどう?いくら何でもコトネちゃん達を捨てようとするなんてちょっとひどいと思うよ」
「でもヨハンがそうした方が高位貴族らしいって言うんだもの」
「私、あのおっさん嫌いよ。私達はどうしたって、成り上がりなんだから開き直ってたらいいのよ」
私の座った椅子のひじ掛けに腰掛けて、レナはツンと上を向く。
「そうなのかしら?でも他の貴族にお父さんを馬鹿にされるのは絶対に嫌なの」
「お父さんは武骨で、脳筋な方が周囲から認められると思うわよ」
「こら!お父さんを脳筋だなんて、なんてこと言うの」
私の目の前にあったレナの尻を軽くたたく。
「いて!、でも少しは元気が出たみたいね」
レナは両手で私の頭を抱えるようにしてくれた。
その時、入り口のドアが勢いよく空いた。
「マリア!レナ!お前ら何やってんの?」
夫のフリードリヒが入って来た。
「もう!あんたもノックできないの?」
マリアは抱き着かれたままで、行儀の悪い子供を怒るように注意する。
「ああ、ごめん」
フリードリヒはシュンとうなだれた。
「もうお父さん、子供みたいね」
レナにからかわれて余計に小さくなるフリードリヒ。
全く王国一の実力者には見えない。
イエーガー家は基本的に仲睦まじい。貧乏男爵家で身を寄せ合うように生活して来たので、当然のことだともいえる。マリアのこないだのレオンへの振る舞いは高位貴族としての対面を保とうとしたのと元来の獣人差別との暴走であったらしい。
やがて年は改まり、成人の儀の日がやってきた。
レオンはイエーガー家からの迎えの馬車に乗った。従者は置いて来いと言うのでコトネとアンナは留守番だ。
レオンは母から謝罪の手紙を貰っていたが、屋敷内には獣人差別が蔓延っていると見て二人を残すのには賛成した。
朝からレオンは初めて新しく仕立てて貰った儀礼服を身に着けて馬車に揺られている。
「ああ、うちも俺の服が新調できるほど裕福になったのだな」
独り言をつぶやいた。今までレオンの儀礼服は兄達のお古だったのだ。
馬車は屋敷の車止めに入った。レオンが馬車を降りると執事のヨハンが先導して応接室に入った。
そこには両親とニコラウス兄を除く兄妹が揃っていた。
ニコラウスは近衛隊で、王室への年末年始の訪問客が多いので非常の勤務で休みなしだ。
ソファーなどを取っ払った部屋の奥の中心に父が居て、その後ろの壁際に家族が並んでいる。
俺は父の2m程前まで進んで跪いて頭を垂れる。
父は剣を抜いて前に出て抜き身の剣を俺の肩に置く。
「レオンハルトよ!汝は今日より成人となる。ヴァイヤール王国とイエーガー家の名を汚さぬように、より一層努力せよ」
父は剣を鞘に納め、俺の前に差し出す。
俺は剣を受け取り正面に掲げる。剣を貰ったわけであるが兄達と同じ安物である。
兄達は自分の稼ぎでもっと良い剣を身に着けている。
「私レオンハルトは、王国とイエーガー家のため、不惜身命の覚悟で努めます」
家族から拍手が起きる。
俺が立って、剣を腰に着けて、お辞儀をする。これで成人の儀は終了である。
成人になって何が変わるのかと言うと
〇結婚が出来る
〇家の代表者になれる
〇公的な仕事ができる
〇国や家の兵役が義務となる
主なことはこの四つだ。
色々な権利が貰えるが、貴族派の時のレナの様に戦争に引っ張り出されることもあると言うことだ。
その後は歓談となった。
初めて会う、ルーカス兄の嫁と生まれたばかりの甥っ子。
ルーカス兄なら母親も子供も幸せにするだろう。
俺が人差し指を出すと赤ん坊は強く握る。この子がイエーガーを名乗る伯爵になる頃には、俺は何をしているのだろうか。
結論の無い事を考えていると後ろから俺を呼ぶ声がする。
「レオン!」
「母上、何でしょうか」
母に呼ばれた俺は振り返った。
「あなたには苦労を掛けるわ。私が高レベルに産めなかったばかりに・・。本当にごめんなさい」
「私は気にしてませんよ。ヨシムネ先生に身体強化レベルを克服できるだけの力を貰いましたからね」
「そんな、無理をしなくて良いのよ。私が必ず良い所で働けるようにしてあげる」
母はいつもの通りミソッカス扱いだ。流石にこんなところで、俺の実力を披露する訳にもいかず困ってしまった。
「母さん、心配は要らないよ。レオンはすでにレベル3の刺客やレベル5の兵士を倒している。放って置いても高等部で頭角を現してくるよ」
ルーカス兄が俺をフォローしてくれる。
「そんなはずがないわ。古来レベルが2違えば絶対に勝てないものよ。傭兵時代にそのことはさんざん見て来たのよ」
母が俺の実力を認めないのは傭兵時代の経験が元だったのか。たくさんの例を見て来たので認められなくて当然か。
それならば実例を示すしかなかろう。母親の過剰接触は思春期の若者にはうっとおしいものだと教えないとな。
「では兄を打つわけには参りませんので、従士の中でレベルの高いものを呼んで頂けませんか。私の今の力をお見せします」
俺は普段着に着替えて、木剣を持って庭に出た。母は心配していたが父が面白いと言って、今は引退した仲間の長男の従士を呼んでくれた。
その若者は年は十六・七、身長が俺より20cmは高く、革鎧を着て、かなり鍛えられた体をしていた。
「従士のアルベルトです。レベルは4です」
「イエーガー家の三男坊のレオンだ。遠慮はいらない。全力で来てくれ」
「でも坊ちゃんはレベル1でしょう。けがをしますよ」
優しい男らしい。しかし父が言った。
「遠慮はいらない。カールがやられたのは知ってるだろう。そいつは強いぞ」
父の言葉にアルベルトは本気になったようだ。彼の全身に力がみなぎって来た。
俺は彼の正面に立つと正眼の構えを取る。精神を集中して内気功を練る。力が湧きだすのを感じる。
彼は八双から上段に構えを変えて、すぐに踏み込んできた。少し俺を馬鹿にしているようだ。
俺は左に一歩避けると凄まじい速度で、木剣が今まで俺が立っていたところを切断して行った。
「どうした、そんな攻撃では、俺には一生当たらないぞ」
俺は少し彼を煽ってやる。彼は力はあるが剣が素直過ぎる様だ。
「グヌー!」
アルベルトは凄まじい速度で木剣を振り回すが俺を捕えることは出来ない。
カールの時は相手が実力を出す前に倒してしまったから、近接戦闘に詳しくない母は解らなかったのだろう。
今度は母に解るように決着を付けなければならない。
俺が木剣を肩に担いで彼の攻撃をすべて躱しているので、頭に血が上ったアルベルトは俺に向かって来ながら上段から木剣を振り降ろした。
「ダー!!」
俺は彼の木剣が振り降りるその前に懐に入り、逆胴を抜いた。
彼の鎧は胸と腰しか保護していなかったので、脇腹を押さえて蹲った。
「レオンの勝ちだ」
父はそう宣言した。
母や姉が驚いた表情をしている。レベル1が4に勝つなんてこの国の常識では考えられない事なのだからそうなるのも仕方が無い。父や兄は予想していたので驚きも少ないがこうまで実力差が出るとは思わなかったみたいだ。
俺はアルベルトに駆け寄り、けがを確認した。
彼のけがは結構ひどいものだった。すぐに治療しなければ!!
収納から治癒の魔法陣を出し、魔力を込める。
悶絶していたアルベルトは、スッと立って自分の脇腹を確認していた。
「あれ、痛く無くなったんですけど?」
「レオン、今のは治癒魔法よね。なんで男のあなたが魔法を使えるの。どういうこと?」
しまった!つい魔法を使っちまった。アルベルトを押しのけて母が騒ぎ始めた。
「それより、魔法陣を描くのが早すぎるわ。あんなの誰も出来ないでしょ」
レナ姉まで騒ぎ始めた。どうしよう????。
「ごめんなさい。詳細はまだ練習中で完璧とは言えないので、秘密にしておいてもらえますか?」
俺は慌てて自分のフォローをする。
「そうね。種明かしをすると父上と戦う時に不利になるものね。仕方が無いわ。さっきの事は皆秘密にしてちょうだい」
何とかこの場は収まったみたいだ。そして、やっと母が俺の事を認めてくれたみたいだ。
父は母が俺の味方をするのが気に食わないのか仏頂面をしていた。
次回はアキラさんちでお正月です。




