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1-8 三男坊 修羅場を経験する

エリーゼに追い立てられて、王都に引っ越してきた両親に挨拶に向かうレオン。

そこでとんでもないことが起きた。

 貴族派の反乱が収まり、俺は、学校生活に戻った。


 反乱の後始末は結構かかっているが、参戦した俺と姉のレナには学生であるため、学費と寮費が本年度無料になった。

 少ないってそれがそうでもないんだ。俺達の武勲は親父の功績となって王都の北西にある旧ウェーバー伯爵領が親父の領地となってイエーガー伯爵となった。旧イエーガー男爵領は次男ニコラウスが子爵になって引き継ぐことになった。もちろん王家に借りていた借金は棒引きされた。


 旧イエーガー領の代官には従者のペーターが就任した。

 王室に反抗していた貴族派は大きく粛清された。生き残ったのはグリューズバルト侯爵が前侯爵一家を処刑して恭順を現したので侯爵のままだが北部方面軍の指令は解任された。

 新イエーガー領も代官管理で、両親は王都に屋敷を与えられ、親父が北部方面軍の指令となった。

 これは、最強兵器を王都防衛の為に集めたと言うことである。

 もう貴族派は王室に反旗を翻すことは出来まい。

 国王陛下は二十年来の願望が実現して、ほくほく顔であると言う。


 ニコラウス兄は第五王女19歳、レナ姉は第七王子21歳との結婚が進められている。ともに王妃の腹だ。この二人の子供にも最強一家の血が流れるので期待されるだろう。

 恐らく二人は結婚すれば公爵家となるだろう。

 ニコラウス兄は恐らく一生王都に居ることを強制されるだろう。

 とにかく王室は最強兵器イエーガー家との結びつきを出来るだけ強化することを考えている。


 俺にも父を通じてエリーゼを嫁にして伯爵家を起こせと言って来ている。

 これは思っていたのと違う。俺は自分の力で大きなことをしたいのであって、これでは両親や兄姉のお陰になってしまう。

 他の人が見ればミソッカスが贅沢言うなである。



 俺達は無事、学年十位以内、進級試験合格を経て2年生の2学期に編入出来た。

 夏休みは両親の元に帰ろうと思っていたけど、王都にいるので馬車も不要だ。

 問題が起きた。エリーゼが俺の両親に挨拶したいとか言ってる。あれだけ降嫁したくないと言っていたくせに。


 今日も朝からエリーゼが来て騒ぎ出す。

「なんで行っちゃいけないのよ?」

「だって、あなたは降嫁したくないって言ってたじゃないですか?」

「良いの!」

 顔を真っ赤にしながら俺に力説する。


「挨拶なんかしたら、結婚を認めたことになってしまいます」

「だから、それでいいの」

 もう訳が分からん。


 寮費はタダになっているので、帰省する必要ないのだが、同じ王都で顔も合わせないのも問題だ。

「一回帰って、両親にも聞いてみますから待ってください」

 少し顔が明るくなる。

「明日もお昼過ぎに来るからちゃんと聞いておいてね」

 エリーゼはどうしてしまったのだろう。

 コトネが俺を見て呆れているのはどういう事だろう。


 仕方が無いのでコトネとアンナを連れて、両親の屋敷を目指す。

 歩いて30分ほどで両親の屋敷に到着する。

 デカい、それが第一印象だ。辺境伯の屋敷には負けるが、宿場長の屋敷よりはるかに立派だ。

 屋敷は一周鉄の柵に囲まれて、門番が居るよ。


「ここがイエーガー伯爵の家だよね」

「何だ、お前は!」

 門番に誰何された。そりゃ会った事無いから分かんないよね。

「俺はイエーガー伯爵の三男のレオンハルトだ。両親は居るか?」

「はあ、伯爵の御子息がそんな恰好で、獣人の小間使いを連れてるはず無いだろ。帰った、帰った」

 門前払いかよ。格好は兄の古着だから仕方ないけど獣人って俺の事説明してないのかよ。誰かいないか。

 ちょうど従者のカールが馬を引いて玄関に向かっていた。


「カール!入れてくれないから、説明してよ」

「・・・ああ、坊ちゃん。ちょっと待ってくださいね」

 カールはすぐに分かってくれた。助かったよ。


 カールの助言で中に入ることが出来た。

「ヨハンさん。伯爵の三男のレオンハルトさんです。」

 玄関のドアを開けると執事が居た。

「レオンハルト様ですか。お初にお目にかかります。執事長をしておりますヨハンと申します」

「アリストス学園に在籍している三男のレオンハルトです。両親は在宅ですか?」

 無駄に詳しく説明してやった。執事なら門番に説明して置けよ。


「伯爵様は王城にお出かけですが、奥様はいらっしゃいます。ゲルダ、奥様にレオンハルト様がお越しだと連絡を」

 ゲルダと呼ばれたメイドが一人駆けて行く。

 俺達はヨハンの後を着いて母の元に行った。

 ドアをノックして母に聞いた。

「レオンです。入っても宜しいですか?」


 前だったらいきなりドアを開けて「母さんただいま」と叫ぶところだが、執事が居るから貴族らしく振舞う。

「入りなさい」

 ドアの奥から母の声が聞こえる。

 ドアを開け、中には懐かしい母が座っている。

「母上、ただいま戻りました」

「こっちに来て顔を見せておくれ」

 俺が入るとコトネ達がついて来ない?


 ヨハンがコトネ達の前に立ち、通せんぼしている。

「ヨハン、何をしているんだ」

 ヨハンが通せんぼする意味が解らなかった。

「獣人を奥様の部屋に入れる訳にはまいりません」


 え、俺は気が遠くなりそうだった。うちが獣人差別をするのか?

「ヨハン、構いません。入れてあげてください」

 ホッとする。母が差別している訳ではないのだ。

 コトネとアンナが恐る恐る入って来る。


 ドアが閉まると俺は母さんに抱き着いた。母さんも抱き返してくれた。

「ごめんね。あなたの所までまだ手が回らないのよ。服も出た時のままなのね」

「私は別に困ってませんから今まで通りで構いません」

「いいえ、私達はもう高位貴族です。侮られる真似をしてはいけません」

 母は人が変わっていた。勿体ないまだ着れますと言っていた母は、もういないみたいだ。


 母はコトネとアンナを見て言った。

「この娘達はうちで引き取ります。小間使いが必要なら新しく雇いましょう」

 どうしたんだ?厄介払いみたいに俺に世話させてたくせに。

「なぜですか?この娘達はよくやってくれてます」

「高位貴族の子供の専属メイドが獣人なんて、人様に笑われます」

 こんな冷たい声は聞いたことが無い。母さんどうしたんだ。

 こんなことを平気でこの娘達の前で、言う人ではなかったはずだ。


「母さん、なんてことを言うんだ。謝ってくれ」

「何を言ってるの。貴族は弱みを見せちゃ駄目なの。もう貧乏貴族じゃないのよ」

 母はヒステリーを起こしたように責めてくる。

「こんなことなら俺は貴族になんてならなくていい」

「何言ってるの!あなたも王女様と結婚したら伯爵になれるのよ」

「コトネとアンナを切捨てるくらいなら平民に落ちてもいい」

 もう涙が出そうだった。

「馬鹿言わないで!実力の無いあなたが貴族になれるチャンスなんてもう無いのよ。あなたはお兄ちゃんたちとは違うの!」


「・・・母さん、本気で言っているんだね。分かったよ。俺はこの家を出る。ただ王女様を1年で卒業させないといけないから、中等部卒業してからになる」

「駄目よ!許さないわ」

 母は目を吊り上げて怒っている。

「もう決めたんだ。母さんは変わってしまった。コトネやアンナに優しかった母さんはもういないんだ」

「コトネ、アンナ行くぞ」

「レオン様!お母様の言うことを聞いて」

 コトネは泣きながら縋る。


「駄目だ!命令だ。お前達の面倒を見るのは約束だ。それを反故にしたらもう俺は人でいられない」

 俺も泣いていた。コトネ、俺を悲しませるなよ。

「さよなら」

 俺はコトネとアンナの手を引いて玄関から外に出ようとした。

 後を追ってきた母が外に居たカールに必死になって言った。

「レオンを捕まえて!うちを出て行こうとしてるの」


「済みませんね。レオンさん。大人しく捕まって下さい」

 カールは自信満々で俺に向かって来た。

「カール、俺はこれでもレベル5に勝ってる。やめておけ、怪我をするぞ」

 俺は無性に腹が立っているので手加減できないかもしれない。

「何言ってるんですか?レベル1が俺に勝てる訳無いでしょ」

 俺を捕まえようと右手を伸ばしてきた。

 油断しすぎだ。


 俺はカールの右手を取り、くるりと回って相手を腰に乗せ、右手を引きながら腰を跳ね上げる。

 てこの作用でカールの体は俺の上で回転して背中から落ちた。一本背負いだ。

 カールはグハッと息を吐き出すと呼吸が困難になったようで咳をして立ち上がれない。

 生きてる。俺はホッとした。

「レオン、貴方何をしたの?なぜレベル1のあなたがレベル2のカールに勝てるの?」

「母さん、レベルだけが強さの基準じゃない」

 母も俺に対して魔法は使えないだろう。おさらばだ。

 俺は家を出た。もともと金銭的に頼っていた訳ではないので、問題はないだろう。


 流石に屋敷の外に出ると流石に追いかけて来なかった。誰かに見られると恥になるからな。

 帰り道、誰も話をしなかった。コトネが心配そうに時々俺の顔を見上げる。でも言葉は出ない。

 アンナは言われたことが良く分かってないのか、俺達の雰囲気に押されているのか、ずっと下を向いてる。


 寮に戻るとコトネが半分泣きながら俺の正面に立った。

「レオン様、どうなさるおつもりですか?」

 この子達にはまだ自分で自分の道を切り開く力はない。

「言ったように中等部を卒業するまで、ここにいるつもりだ」

「その後はどうするのですか?私達が邪魔になりませんか?」

 俺は二人をテーブルの席に着くように促した。


「漠然としか考えてなかったのだが、高等部を卒業したら旅に出ようと思っていた」

「旅に?」

「そうだ、この王国に居ても俺が兄達より大きくなることはないと思っている。旅に出たらお前達を温かく迎えてくれる国があるかもしれないだろ」

「私達を奥様にお預けになった方が、自由になられるのではないですか?」

 俺は渋面を作った。


「やめてくれ!お前達を差別するところに置いて、俺が自由になれる訳無いだろ。心が縛られる」

「私レオン様と一緒に居たい」

 唐突にアンナが俺に言う。

「それは私だって」

 コトネも言う。


「王室も関わっているからどうなるか分からん。最悪この国を脱出することも考えないとな。取り敢えずこの話は終わりだ」

「分かりました」

「分かった」

 俺はエリーゼにどう言うか考えながら昼食を食べた。まいったなあ、怒られる未来しか見えない。

母親と喧嘩したレオンに父親が会いに来る。

父親が言い出した解決策とは?

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