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1-9 三男坊 決心する

レオンは父の申し出を受けることを決めた。

 明らかに獣人を差別し始めた実家に別れを告げた俺は、エリーゼに結婚できないと報告するしかない。


 お昼過ぎ、エリーゼが来た。エイトは帰省しているので来ることはない。

「どうなったの?」

 俺の表情を見てすんなり行かないことは理解したようだ。

「理由は言えませんが、母と絶縁してきました」

「それじゃあ結婚しないと言う事!」

 エリーゼの顔が大きくゆがむ。


「はい、今のところ平民になる予定ですから結婚は出来ません」

「あなたはどうするの?」

 エリーゼは半分泣いている。そんなに俺を心配してくれるのか。

「私はあなた達が中等部を卒業したら、国を出ようと思います」


「訳を聞かないと済まないわ」

「心配して頂けるのは有り難いですが、まだ母と話しただけなので、まあ父も恐らく同じではないかと思います」

 エリーゼがテーブルに突っ伏して号泣し始めた。

 護衛のお姉さんが驚いて駆け寄って来てエリーゼの肩に手を置く。そして俺をキッと睨む


「エリーゼ様、もしかして・・・いや、・・何でもないです」

 もしかしてエリーゼは俺に惚れているのかとも思ったが、貴族に恋愛は許されない。家の都合が優先されるのだ。それが嫌なら貴族をやめる他無い。

 エリーゼは泣きながら帰って行った。もうここに来ることはないかもしれない。


 その日の夕方、父が来た。

「やあ、レオン、久しぶりだな」

 父は疲れているようだった。言いたいことは大体わかる。

「お久しぶりです。狭い所ですが座って下さい」

 父はテーブルの席に座った。


「本当は、こんな話はお前が酒を飲めるようになってからしたかった」

 いきなり、父が何を言おうとしているのかが分からなくなった。俺を宥めてエリーゼと結婚させるつもりじゃないのか。

「良い部屋だ。俺がお前くらいの時は、屋根のある所で寝る方が珍しかった」

 若い頃の武勇伝でも語るつもりか?


「俺はな、驚いている。俺の・・いや、王室の頼みを断ってまで獣人の子を保護しようとすることに。なぜだ?」

「父上は俺の為にコトネとアンナを着けてくれたのではないですか?」

 少し警戒しながら話す俺を見もせず、彼の視線は虚空を彷徨う。

「まあ、それもあるが母さんが獣人が嫌いなんだ」

「え、今までそんなこと聞いたことが無い」

 俺は驚き父を見る。


「今まではそれどころじゃなかっただろ。ヨシムネ殿がコトネを連れて来て、俺も初めて知った。だからお前に預けて外に出したんだ」

「でもたまにしか会ってなかったけど結構優しくしてた」

「ヨシムネ殿は俺達の恩人だろ。いやな顔は出来ないよ。アンナにはほとんど会わせてない」

「そうだったのか。俺は新しく雇った人が差別してて、影響を受けたのかと思った」

「それもある、だから今後あの屋敷にはあの子達を連れてくるな。捨てられるかもしれない」

 そうかお母さんがコトネ達を部屋に入れたのは俺と別れさせるためか?


「いいよ、俺はこの国を出るよ。コトネ達を幸せに出来るのは、この国じゃないと分かったから」

「なぜだ!このままエリーゼ様と結婚すればあの子達も引き取れるだろ。彼女は獣人を差別しない、お前の好きなように出来る」

 俺は本音をぶちまけた。

「それは出来ない。俺にも野望がある。それは何でも良いから父さんや兄達に勝って見返したい。エリーゼと結婚したらそれはかなわない。何時までも兄達の下に居なければならない」


 父は驚く。俺をまじまじ見ながら言った。

「お前がそんなことを考えているとは、初めて知ったよ。昔から大人しくて、レナの後ろを追いかけていた子がなあ。しかし、それではあの子達の未来の可能性をつぶすことにならないか?」

「それを言われると辛い。でもあの子達は付いてくると言ってる。金を稼ぐ算段も付いたし、何とかするよ」


「そうか、兄二人は素直で堅実だ。俺の子とは思えない位にな。まさか武の才能を継がなかったお前が、俺の無鉄砲さを引き継ぐとはな」

 父は少し嬉しそうに言う。

「そうでもないさ。俺がカールを倒したことは聞いただろう」

「カールは油断したと言ってたぞ」

 まあ、レベル1に負けたとは言えんわな。


「今だったらカールとペーターが同時に掛かってきても負けないよ」

「王太后様を助けた時にレベル5を倒したのは本当なのか?」

 父は俺の自信に驚いたようだ。

「倒したのはコトネだけど。負ける気はしなかったよ。あと三年もしたら父さんより強くなるかもな」

「俺はまだ、ニコラウスにも負けんぞ。本気か?」

 父はニイと笑った。強者の笑いだ。心臓が縮み上がりそうだ。


「よし!よし!よーし!!お前は一年で中等部を卒業して、高等部へ行け。そして卒業までに強くなれ!俺よりもな!そうしたらどこへでも行くが良い。その代わり、俺に負けたら貴族になれ。いいな!!」

 父は満面の笑みを湛え、テーブルを両手で何度も叩く。


「そんな、エリーゼ様が可哀そうじゃないか」

「あれはお前に惚れてる。三年待てば、結婚できるとなればそれぐらいは待つさ」

「俺が勝ったらどうするんだよ」

「その時はお前の旅に連れて行けばいいさ。喜んでついて行くだろう」

「はあ」


 俺はため息を吐いた。どうやら父の脳筋スイッチを入れてしまったみたいだ。こうなるともう誰にも止められない。

 問題を力技で解決しようとする。それを脳筋と言うが、父はこれまでそれで生きてきた。領地経営以外は。

 次の日、なんと父は母、王室を説得した。

 まあ、俺が勝つとは小指の先ほども思ってない両者は、納得したようだ。

 俺自身は三年半の猶予を与えられた。但し個人の戦闘力と言う狭い範囲だ。

 今は戦闘力の向上ぐらいしか、能力を開発する手段を持っていないから、仕方が無いとも言える。


 二日後エリーゼがまたやってきた。

「首狩りに挑むって本当なの?」

「話の流れでそうなっちゃったんです。エリーゼ様はどうなされるつもりなんですか?」

「私?私はあれよ。もともと高等部へ進学するつもりだったから、高等部にいくわ」

 エリーゼは慌ててそう言ったが、俺は縁談の事を聞いたつもりだった。

 雰囲気的にあまり深く追求しない方がよさそうだ。


「では中等部の間は例の勉強会を続けましょう」

「そ、そうね。お願いするわ」

「それで今日はどういった御用でしょう」

 エリーゼは少し焦っているようだ。やはり縁談を意識しているのだろうか。


「え、え、あんたが首狩りに勝つことが出来るのかを聞きたいのよ」

「今だと瞬殺されます。でも高等部を卒業するころには何とか追付きたいと思っています」

「噂じゃあ、あのニコラウスさんよりも強いって聞いたわよ」

「はい、本人は幼いころから傭兵で培った経験で、個人戦なら次兄に負けないと豪語していました。まあ、破壊力では勝てないでしょうけど」

 そうだ俺の前に立つのはそう言う男なんだと改めて身震いがする。


「そんなのに挑むって馬鹿じゃないの。勝てっこないわよ」

「これは父が私に呉れたチャンスなんです。私は母を否定したことでイエーガー家からも王室からも疎まれて王国から追い出されるところでした。それが越えられそうにない壁を目の前に置いて貰ったことで、私にも未来が見えてきました」

「具体的にはどうやって強く成るつもりなの」

「まず外気功を獲得する事。それから経験値を増やす事。今はそれぐらいです」

「外気功って離れた敵を攻撃できるって言ってたやつね」

 エリーゼに聞かれて、これからやることが整理されてきた。


 結局エリーゼは結婚に関することは何も聞かずに帰って行った。まあ、現時点では聞かれてもまともに答えることも出来なかったが。


 夕食後、コトネ達に俺の目標を話す。

「お前達も聞いていたと思うが、俺は高等部に進学することになった。その後父と戦って勝たないといけない。そこで魔獣の出ている所に行って退治して、経験を増やしたい」


 コトネがすぐに乗ってくる。

「私も一緒に連れて行って下さい。私も強くなりたいです」

 レベル5に歯が立たなかったのが気に食わないのだろう。

「アンナも強くなりたい」

 アンナはいつも守って貰う自身に不満を抱いているようだ。

「よし、3人で練習もして強くなろう」


「そうだ、ロキ、何か意見はあるか?」

『久しぶりに呼んでくれたな。嬉しいぞ。強くなりたいのか。ならば魔法を覚えたらどうだ』

 アンナの体に憑依している精霊ロキが念話で返事をした。普段はアンナに負荷を掛けないように静かにしている。

「魔法?、攻撃魔法の事か?魔力が全く持って足りんぞ」

 俺はロキの言ってることに疑問を投げかけた。


『体に魔力を貯めようとするから足りないのだ。おまえは大きな袋を持っているだろう』

「大きな袋?・・・次元収納庫の事か!そんなことが出来るのか?」

『出来るだろうさ。うまく意識して貯めれば、魔力の出し入れが自由になるはずだ』

「良し、魔力溜りを探して、魔力を貯めればいいんだな」


「ロキさん、私はいつ変化が始まるの。怖いんだけど」

 コトネが神獣人の事を聞く。

『神獣人の事はよく分からんが、魔法に目覚めるのが、もうすぐじゃろうからその辺になるのではないか』

「・・・」

 コトネが怯えているのでロキがフォローする。

『そう怯えることはない。お前がお前でなくなるわけではない。レオン殿に縋っておればよいのだ』

「それで良いのですか?」

『レオン殿がそばに居れば、力をすぐにコントロールできるようになる』


「アンナも強くなれる?」

 アンナも不安そうにロキに聞く。

『アンナが魔法に目覚めるのは、まだ先じゃから詳細は解らんが、素質はあると思う』

「でも探索魔法を使ってるじゃないか」

 アンナは魔法を使ってるよな。

『まだ五感を使っているだけじゃ。目覚めればこんなもんじゃないだろう』


「狐獣人は皆こんなに探索できるのか?」

『そんなことがあるか!だからアンナは素質があると言っておろうが』

 どうやらアンナも特別らしい。高等部卒業まで三年半、コトネが16、アンナが14になってるのか。

 その頃でも俺の従者をやっていたら・・・考えるのが恐ろしい。


 まあ、明日馬車が借りられるか聞いて、経験値を高める旅をしようと思う。幸い、夏休みはまだ始まったばかりだ。

経験を重ねるため、魔獣退治に出発する一行。

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読まさせて頂いてます(^^) この手の話は大抵、親父が物分かり悪いものだが…母親とは意外でした。 しかも親父の脳筋プレイでチャンスをゲットとは面白い(*^^*)
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