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友に宛てた手紙

午後になってからもしばらくテレビを付けたままにしていると、昔のテレビドラマの再放送が流れ始めた。2000年から2010年位の、古さと新しさが入り混ざったような害のない恋愛ドラマ。画質は今見ても十分綺麗なのだが、脚本がクサくて、今見ると思わず笑ってしまうような内容だった。でも、よく考えたらこの位の時期のドラマが僕は一番好きだったような気がする。今のドラマは妙に脚本が美しくまとまりすぎていて、人間の不完全さとか駄目さのような要素が欠けているように思えてしまう。


しかしそれはあくまでも無責任な一視聴者である僕の意見であって、何かあれば常にクレームが飛んで来るテレビ局のスタッフからすればそんな意見は知ったこっちゃないのかも知れない。そんなことを考えながら僕はソファーに横になって、ドラマがベタベタな流れ通りに進んで行くのを眺めていた。主人公とヒロインが勘違いによって大喧嘩をするのだが、二人は運命の場所で再会し、やがてとても幸せなゴールを迎える。


昼の再放送のドラマって何話も連続でやってくれるから続きが気になることもなく最後まで一気に見れる。僕は途中で冷蔵庫の奥に賞味期限切れのポテトチップスが輪ゴムで留めてあるのを見つけて、時々炭酸の抜けきったコーラを飲みながらぼりぼりとかじっていた。やがてドラマが全部終わってニュースに切り替わったので、僕はテレビを消して手についたポテトチップスのかけらを皿の上でパンパンと払った。


その後しばらくぼんやりしているうちに、田村に連絡してみることを思いついた。でもラインなんて当然知らなかったし、メールアドレスもどこかへ消えてしまっていた。そこで古いけれど手紙を書いてみることにした。15年も前の住所しか知らないから、実家が引っ越していたら届きはしないだろう。それでも別に良いような気がした。僕はやかんでお湯を沸かして紅茶を淹れると、大学の卒業式の時に貰った万年筆を手に取り、机に向かって手紙を書き始めた。


「田村へ 

久しぶりだね。もう何年ぐらい会ってないかな?10年以上は会っていない気がするよね。今になって急に田村に手紙を書こうと思ったのはさ、コロナの濃厚接触で10日間も隔離されてしまって、何となく昔の事を思い出したからなんだよね。

田村は気が付かなかったかも知れないけれど、あの頃自分は本当にどん底にいて、田村と空想の話を話す時間が自分にはただ救いでした。自分は文学の話をして、田村は哲学の話をして、まるで僕らが将来の世界を変える天才であるかのような気持ちでいたね。でも現実はもちろんそうはならなくて、自分は田舎で会社勤めをしているし、風の噂だけれど田村はフリーターを続けていると聞きました。進学校出身だから周りの奴らはエリートコースを生きるのが当たり前で、僕らのことを批判的に噂しているのかも知れないけれど、今になって自分はどう生きたっていいじゃないかと思うのです。きっと大事なのは、自分が今生きているんだという実感を持って生きることなんだと思うのです。眩しい夏の日差しを見上げて目を細めたり、ふとした風にあたって心が安らいだりとか。きっとこんなの当たり前なことなんだけど、僕らは長い間そのことを忘れたまま、ただやみくもに夢とか目標を追い求めて生きてきたんじゃないかな。コロナが来て世界が変わって、隔離されて一人になって、僕はようやく自分が今生きているという根本的なことに気付いたのです。不思議だよね。でもそのおかげで僕は、田村に対する感謝の気持ちを思い出しました。君がいなかったら僕は、きっともっと酷いことになっていたと思うし、ほとんど完全にダメになっていたと思う。今更だけど、本当にありがとう。だから、田村が今どんな状況にいるのだとしても、僕は君のことが大好きです」


書き終えてから僕は、口笛でLe Coupleの「ひだまりの詩」を吹きながら手紙を読み返してみた。一気に書いた割には悪くないような気がしたので、書き直すことはせずにそのまま封筒に入れた。それから少しぬるくなった紅茶を飲みながら、日が暮れてゆくのを窓から眺めていた。


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