女の子たちの帰り道
「グ・リ・コ!」
「勝ったあ、チヨコレイト!」
黄色い帽子をかぶって赤いランドセルを背負った女の子が3人、歩道でじゃんけんをしている姿があった。恐らく小学校からの帰り道なのだろう。車道の両側に一列に植えられた銀杏の葉は、彼女たちの頭上で綺麗な黄金色に色づいている。もし夢で匂いが感じられるとしたら、辺りには銀杏の実の独特な香りが漂っているだろう。3人はそれぞれに、勝った文字数と同じ数だけなるべく大股に歩を進めている。「グリコ」なら3文字、「チヨコレイト」と「パイナツプル」なら6文字。この遊びをする時に、グリコで勝ってもなぜか損をした気持ちになってしまうのは皆同じなのだろうか。
「グ・リ・コ。やった、また勝った!」
「私も!」
「え~、待ってよー。」
3人のうち一人だけ中々勝てない子がいて、それが彼女だった。何故かは分からないけれど、それが彼女である事は僕にはすぐに分かった。小学生になりランドセルを背負った彼女は、伸びた黒髪を三つ編みにしていた。他の2人はずっと前の方に進んで、声が何とか聞こえるくらいの距離にいる。あと何回か負けたら、彼女はこのまま置いてけぼりになってしまうかも知れない。その事は彼女も勿論分かっていて、少し泣きそうなのを必死でこらえているような表情だった。でもそのうちに痺れを切らしたのか前の子の一人が、メガホンのように口の横に手をあてて大きな声で叫んだ。
「ねえカホちゃん、帰ろー!置いてくよー!」
「うん、待って!」
そう言って彼女は、三つ編みをなびかせながら一目散に駆けて行った。そうか、彼女はカホっていう名前なんだと僕は夢の中で思った。漢字はどう書くのだろう。普通に考えたら、「高瀬 夏帆」だろうか。良い名前だ。そのうちに彼女は前の2人に合流して、3人で仲良くまた歩き始めた。そのうちに彼女たちの姿は、僕の視点からは豆粒のようにしか見えなくなった。
彼女たちが見えなくなった後も、夢はまるで余韻のようにしばらく続いていた。それは人通りの少ない、静かな午後だった。反対側の歩道を、セーターを着て手袋をはめたご婦人がチワワを散歩させて歩いていた。女の子たちが薄着だったから気が付かなかったけれど、本当はもう秋が深いのかもしれない。時折思い出したように車が通り過ぎて、車道の両端に積み重なった銀杏の葉をふわりと浮かせていた。扇形をしたその綺麗な葉は、一瞬太陽の光をきらりと反射したあとに、ひらひらと舞い降りて植え込みの上に積み重なった。




