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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第13章 中学生 前編
630/633

第572話 らのくんはお好きですか? 1



 ミーンミンミンミン。


「……」


 夏――

 入道雲がもくもくと、空を押し広げていく。

 青い絵の具を散らしたかのような真っ青な空に、もくもくと雲が立ち込めている。

 夏を代表するセミの声が、赤石の家に響いている。


「暑い」


 赤石は自室のベッドで天井を眺めていた。

 セミの声がうるさく、朝にも関わらず満足に寝ることが出来ない。


「暑すぎる……」


 頭をかく。

 ミンミンと、セミの鳴き声が聞こえてくる。布団をかぶってみるが、セミの声が弱まることは全くない。

 窓を貫通して、大音量で赤石の耳まで到達する。


「うるさすぎる」


 夏休みに入り、赤石はぐうたらと毎日を過ごしていた。


「悠~」


 階下から、少女の声がした。

 赤石の部屋に、唐突に三千路が入って来る。


「ノックして」

「良いじゃん、私らの仲なんだから」

「俺が裸だったらどうするつもりだったんだよ」

「写真撮る」

「なんでマスコミ側のスタンスなんだよ」


 赤石はベッドに寝ころびながら三千路と会話する。


「っていうか、勝手に家入って来るなよ」

「ちゃんとお母さんに許可取ったよ?」

「お母さん今家いないだろ」

「いや、さっき道端で会って」

「なしすぎるだろ、そんなの」


 三千路は赤石の母から鍵をもらい、部屋に入り込んできていた。


「もうこんなの窃盗犯だろ」

「ぐへへへ、おい兄ちゃん、良い体してんじゃねぇか」


 三千路は指をわきわきとさせる。


「物を取らない代わりに、兄ちゃんの大事なものは奪われちゃうかもねぇ~」

「キモい窃盗犯」


 三千路は赤石のベッドにとすん、と座る。


「遊ぼ?」

「いや。暑い」


 赤石はゴロゴロとベッドの上で転がる。


「お前家閉めたんだろうな?」

「ちゃんと鍵くらい閉めたよ! 私を非常識だと思って、失礼しちゃうな!」

「勝手に人の家に上がってくる奴は非常識で間違いないだろ」


 赤石は三千路とは逆の方向に体を向け、布団をかぶる。


「そういえば、さっき須田君が家の前にいたよ」

「そりゃ誰だってどこかしらにはいるだろ」

「何それ。情報量なさすぎない?」


 でも分かる、と三千路は謎の納得を見せる。


「誰がどこにいても良いってことだよね?」

「そう」


 面倒になった赤石は、適当に返事をした。


「まだいるんじゃないかな?」


 三千路は赤石の部屋の窓から、階下を覗く。


「なんか悠に渡しにきた、って言ってたよ」

「何を?」

「さぁ? 忘れ物とかじゃない?」


 心当たりがなく、赤石は小首をかしげる。


「白い貝殻の小さなイヤリングとか落としたんじゃない?」

「クマが届けに来るだろ、それ」


 赤石は三千路と共に窓からのぞく。

 須田は赤石の家の前でおろおろとしていた。


「入ってきたら良いのに」

「入ってきづらいだろ」


 赤石は階段を下りる。


「呼ぶの?」

「とりあえず話だけ聞いてみる」


 赤石は玄関を開けた。


「あ、ちょうど良かった! この前落とし物してたから」


 ドアが開いたことを確認し、須田は赤石の下まで走り寄って来た。


「どうしたんだ、そんなところで」

「いや、あ~……」


 須田は頭をかく。


「返そうと思って、これ」


 須田は赤石に五百円を手渡した。


「え?」


 赤石は財布を取りに、一度部屋に戻った。


「新聞代?」

「新聞取ってないんだよ」

「カツアゲされてんの?」

「金払いに行くんじゃないんだよ」


 赤石は財布の中身を見て、確かに五百円がなくなっていることを確認した。

 玄関に戻り、再びガラガラと引き戸を開ける。


「本当になかった。多分俺のだと思う」

「うん、前ポケットから落としてるところ見たから」


 須田は赤石に五百円を手渡した。


「別に俺のものである証明が出来ないんだから、お前がそのままもらってても良かったのに」

「いや、こういうのはちゃんとしないとダメだから」


 須田は赤石にノーを突き付けた。


「律義なやつだな。ありがとう、助かった」

「いや、全然。俺、律義だけが取り柄みたいなところあるから」


 そう言い残すと、じゃ、と須田は素早く帰って行った。


「……」


 赤石は引き戸を閉め、部屋へと戻る。


「あれ?」


 三千路は赤石の手にある五百円を見た。


「もしかしてカツアゲする側だった?」

「する側でもないんだよ」


 赤石の夏休みは、まだ始まったばかりである。






「――から~……」

「いえええぇぇぇ~~い!」


 夏休み――

 赤石が夏休みを空費する一方、夏休みに入るや否や休みを謳歌している少女がいた。


「いやぁ、もう本当イケボ。イケボすぎて耳が妊娠しそう」


 暮石三葉、その人である。

 ボイピクと呼ばれる音声通話サービスで知り合った推しと二人で、カラオケに来ていた。


「まぁ別に、これくらい普通だけどね?」


 暮石の推しであるらのくんは、暮石に言われるがままに何曲も続けて歌を歌っていた。

 採点機能を切り、自分の思うがままに自由に歌っていた。


「なんて言うか、この歌ちょっと平坦なんだよね。だから俺、物足りないところで俺なりのクセとか入れちゃったりしてる」

「さすがにプロすぎない?」


 本当すごい、と暮石は拍手する。


「はぁ……」


 歌い疲れたらのくんは、ドサ、と暮石の隣に座った。


「お疲れ様です!」


 お肩をお揉みしますよ、と暮石がらのくんの肩を揉む。


「あぁ~、気持ち良い」

「へへへ、らの様が気持ち良いなら何よりでごぜぇます」


 暮石は下手に出る。


「……」

「……」


 そのまま無言で、暮石はらのくんの肩を揉み続ける。


「あぁ~、もっと気持ち良いことしてもらいたいなぁ~」

「なんでごぜぇましょう!」


 暮石は揉み手でらのくんに尋ねる。


「自分で考えて?」


 らのくんは首を軽く曲げ、暮石にそう甘くねだる。


「う~ん……」


 暮石は小首をかしげる。


「あんさぁ」

「え?」


 らのくんは暮石の頬に手を当てた。


「ふたばちゃんって、意外と可愛い顔してるよね」

「そ、そうでしょ~?」


 ふふん、と暮石は上機嫌になる。


「……」

「あっ」


 らのくんの指が暮石の指をそっと撫でる。

 暮石は小さな声を、漏らす。


「かわいい」


 らのくんは暮石に、接近した。




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― 新着の感想 ―
>別に俺のものである証明が出来ないんだから、お前がそのままもらってても良かったのに さあ……五百円の話だけで終わるのかどうか…… あらゆるものの、所有の証明は何をもって説得力を持たせられるのか
解釈違いでカエル化
三千路ちゃん、負けヒロインの幼馴染みたいだね。
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