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11・四元竜クオテリオン

「地域、風習が変わればルールも変わる。ナラハトは、そう言いたいの?」

「さすがは魔物学部の俊英たるロディ・セリア。理解が早くて良いじゃない」


 僕が俊英かどうかは知らないけど、ナラハトの言いたいことが少しは分かったような気がする。


「それだけに惜しいんだよな。ロディ、お前は世界の広さを知らなすぎる」

「世界の広さ……」

「お前は本で読んで知った気になっているかも知れないが、現場に行ってみないと分からないことは沢山あるんだ」


 反論する気も余地も無い。

 10代前半から故郷イシュラッドを出てリエッダに移り住み、この1年半もの間、冒険者として大陸を巡ってきたナラハトの言葉は重く、説得力がある。


「ロディも一度、リエッダを出ると良いよ。そうすれば世界の見方も変わるさ」

「リエッダを出る……」


 考えたことも無かった。

 王都リエッダは大陸有数の大都市で、王立魔導院は大陸全土の英知と情報が集まる場所。そこにいれば世界の全てを……ドラゴンの全てを知ることが出来ると思っていた。


「何ならオレが付いてってやっても良いんだぜ」

「それは気苦労が絶えない道中になりそうだね」

「お、いつもの調子が戻って来たんじゃない?」

「……まだ完調ではないけどね。さあ、竜の調査の件、聞かせてもらおうか」

「ロディって、たまに口調が高圧的になるよな。どんな育ちをしたんだか」

「それはこっちの台詞だよ。どう育てられたら、そんな軽い性格になるんだか」

「ははっ、言うじゃない。そのシニカルっぷりこそ、オレの好きなロディの真骨頂だ」

「はぐらかすなよ。約束だ。話して貰うぞ」

「ほーら出たよ、高圧口調」


 ナラハトは大袈裟に肩を(すく)めて溜め息を吐いた。

 そして、これまた芝居掛った仕草で指を一本立てて突き付けてきた。


「ここは一つ、取引といかないか?」

「この期に及んで何の取引?」

「オレだけ話すのもフェアじゃないだろ? お前の話も聞かせろ」

「僕の話だって? 僕には話して面白いネタなんて一つも無いよ」

「お前が左腕を失った時の話を聞かせてくれ」

「ドラゴンに喰われた。以上です」

「いつ、どこで、どうして?」

「……そんな事を聞いて、どうするの?」

「こんな機会がないと聞けないだろ。それに、友だちの事を深く知りたいと思うのは、それほどおかしな話じゃないと思うんだが」


 僕は再び足を止め、辺りを見渡し耳を澄ませた。

 徐々に昇ってきた太陽が、静かな湖畔の全景を浮かび上がらせる。耳に届くのは微かな水音、乾いた葉擦れの音。

 世界には僕ら二人以外、他には誰も居ないような気さえしてくる。

 ふと、ナラハトになら全てを打ち明けても良いのではないかと思った。


「ナラハト、僕は……」


 喉まで出かかった言葉を、結局飲み込んだ。

 僕の問題は、僕だけの問題ではない。


「言えることと言えないことがある」


逡巡した結果、ようやく絞り出すようにして言えた言葉がそれだ。

だけど、僕の返事を聞いてナラハト満足げに頷いた。


「ここはイシュラッド式でいこうぜ」

「イシュラッド式?」


 一瞬、蒸し風呂が頭に浮かんだ。


「イシュラッドではな、互いに打ち明け話をするときに、言いたくない事とか言えない事を一つだけ伏せて良いんだ。ただし、それ以外は正直に答えるってルール。どうだい? これなら話しやすいだろ?」

「確かに……」


 それなら話しやすいかも、と言い掛けた途端に、ナラハトは「じゃ、オレからな」と、話し始めてしまった。なんかハメられたような気がしないでもない。


「昨日、思わず口が滑っちまったが、ここ1年半の間、オレはザナドゥという組織で竜の調査をしていた」

「そのザナドゥというのは、竜の調査機関なの?」

「それがオレにも良く分からないんだよね」

「ちょっと、それはズルくない? 言いたくない事には”分からない”って答えれば良い事になっちゃうよ」

「それが、このゲームの面白いところさ」

「ゲーム? 僕はゲームをしているつもりは無いんだけど」

「はははっ、相手が答えざるを得ない質問をするのが勝利のカギだぞ」


 勝利って……だけど、これは少し頭を捻らないといけなさそうだ。

 

「組織の目的は? 何の目的があってドラゴンの調査をしていたの?」

「それも良く分からないんだ。オレはザナドゥの人員と組んで、与えられた調査をこなしていただけだ」

「ザナドゥのトップはどんな人? 名前は?」

「おっと、それは伏せさせて貰うよ。その人の事については答えられない」


 なるほど。そうやって”言いたくないこと”を伏せるのか。

 だが、待てよ。”その人の事については答えられない”ということは、逆にナラハトは”その人”の事を知っている、という事か。

 

「どんなドラゴンの調査をしていたの? 昨日の話では、ユグドラハとイシュラッドに行っていたんだよね?」


 僕の質問に、ナラハトは難しい顔をした。

 伏せて良いのは一つだけだぞ、ナラハト。


「ザナドゥが調査しているのは四元竜(クオテリオン)だ」

「クオテリオンだって!?」


 よりによって最も手を出してはいけないドラゴンを……


 西方ユグドラハの神樹の頂きに棲む『嵐竜王ブレイズヴェル』

 南方イシュラッドの大砂漠に潜む『砂竜王イシュラト』

 東方ヒィズルの群島のいずれかに眠る『水竜王ミルティーネ』

 そして、焔竜禍を引き起こした末にリエッダ全軍をもって討伐された『焔竜王ナァル』


 それは、地水火風の四元素を体現する大いなる竜。

 領土拡大の野望に燃えていたリエッダの先代王ゲオルグが、大陸制覇の切り札として焔竜王の力を欲したのが未曽有の大災害『焔竜禍』の原因だ。

 13年前、リエッダを包んだ炎は、数万を超えるリエッダ軍の犠牲の末にようやく鎮火した。

 東西南北の四大国が『不可触竜の協定』を結んだのは、国を滅ぼしかねない四元竜(クオテリオン)の力を恐れたからだ。

 それなのに、どこの馬鹿が今さらクオテリオンに手を出そうとしているんだ!?

ロディの性格に矛盾が発生してしまいそうだったので、第15部・『5.自由人ナラハト』の一部を修正しました。

読み直さなければならない程の変化はありませんが、ロディは法や決まり事には頑固なまでの姿勢を貫く方が自然だろうと思いました。


やはりプロットは出来ていても、1話分を全て書き切ってから投稿する方が良さそうです。

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