第四話 1
朝起きたら、僕は病院のベッドの上で寝ていた。
「おお、目が覚めたのか! 良かった!」
目の前に、峰岸爺さんの顔があった。
「兄さんよ、あんた昨日の夜、急性アルコール中毒で死にかけて、救急車で運ばれたんだぜ」
「えっ?」
「夜中に目が覚めたら、公園の真ん中で兄さんが泡ふいて倒れてたから、ほんとに驚いたよ。あのまま、朝まで気付かなかったら、死んでたかもしれないってさ。もう、あんまり飲むなよ」
「……」
昨晩のことは、ぼんやり記憶がある。嬉しいんだか、嬉しくないんだか、何だか良く分からない感情が入り混じっていた。とにかく、この世には、瓜二つの人間が実際に存在するのだということだけは分かった。
峰岸の爺さんが知らせてくれたのか、暫くして病院に大家と浜本琢磨がやって来た。一応、大家が身元引受人ということらしい。半日入院して、何も起こらなかったら退院していいとのことで、午後二時に退院することになった。
大家は下宿の納屋にあったリヤカーに僕を乗せ、浜本琢磨に引かせて家に連れて帰ってくれるつもりらしい。リヤカーに折れ曲がって寝て、連れ帰られるくらいなら、病院のストレッチャーでそのまま下宿に帰るほうがマシと一瞬思ったが、せっかく迎えに来てくれた二人の好意を無碍にするわけにもいかず、僕はよろよろと座布団を敷き詰めたリヤカーに横たわった。
リヤカーに横たわって見上げる空は青かった。なんだか気分が晴れ晴れとしたが、頭はまだ、ガンガンしていた。浜本琢磨は今日はせっかくの休みの日だったのに、僕を迎えに来てくれたそうである。後で彼にはお礼をせねばなるまい。
しかし、リヤカーに乗っていて気付いたのだが、誰かが僕たち三人の後を付けて来ていた、途中、建物や電柱に隠れながら。僕は出来るだけ相手に気付かれないように、薄目を開けて確認したのだが、その人物はどう見ても、この間、下宿で見かけた髪の長い若い女の子で、三号室の真紀という女の子ではないかと思われた。同じ下宿に住んでいるんだから、こそこそしないで声を掛けてくれればいいのに、余程シャイな子なんだなと思った。それで、結局そのまま下宿に到着し、浜本琢磨が敷いてくれた布団に寝転んだら、病院で貰った薬のせいか、五分も経たないうちに、そのままぐっすり熟睡してしまった。




