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40 黒夜を探して


 授業が終わるとすぐに黒夜は姿を消していた。それとなしに話しかけようとしていた伊丹が所在なさげに立ち尽くしていると、黒夜と入れ替わるように渋山と星姉妹が伊丹のクラスへと顔をのぞかせていた。


「黒夜は今日も……?」


 異界の扉が開いて以来、殻にこもるようになってしまった黒夜を心配して会いに来ている渋山と星姉妹であったが、あまり効果はなく、黒屋は一瞥するだけでその横を通り過ぎて行った。


「ああ。ここんとこ毎日図書室通いだな。図書室に行けば会えるけど、一心不乱に調べものしてるし、そもそも図書室であまり私語するのもな」


 渋山の言葉の続きを汲んで伊丹が答える。


「……何を調べているのかしら?」


「多分、異界の扉についてでしょう」


「異界の扉について……? そんなの調べてどうするのよ?」


「さぁ……どうするのかは黒夜さんではないので解りませんが。黒夜さんの使う魔法を考えれば少しは想像もつくんじゃないですか?」


 星姉妹の片割れ、姉である明の言葉に伊丹と渋山の頭の中には模擬戦で使用しているゾンビを召喚して戦っているところを思い浮かべた。


「異界の扉を開いて、雪音の亡骸を……?」


 表向きは行方不明ということになっているが、その場に居合わせた星姉妹から渋山と伊丹には雪音が命を魔力に変換して魔法を使ったという事は説明してあった為、伊丹はそんな言葉を口にしてしまう。


「黒夜さんが聞いたらブチキレますよ」


「そういう風に誘導したのはオマエだろ……」


「だけどあまり好ましいことじゃないわね……」


「ああ……アイツ、目的の為なら手段を選んでいられない、みたいな事考えているような切羽詰まった顔しているからな……何を目的にしているのかまでは解らないが、短絡的に異界の扉をまた開こうなんて思ったりしなければいいが……」


「そんな短期間で実行出来るような事じゃないでしょうから、時間が経って落ち着いてくれるのを待つしかないのかもしれませんね」


「時間が解決するしかないっていうの……?」


 渋山が悲しそうに呟き、それを機に沈黙が訪れた。


 黙っているとどんどん辛気臭くなってしまうのを嫌った伊丹がとりあえずなんでもいいから会話の糸口になるよう口を開く。


「実際異界の扉が開いたのは事実なんだろうけどさ。雪音と石神井先生がいなくなってるし。でも命を魔力に変換したとしても命全部魔力に出来るか? オレなら体力を1だけ残す、みたいなやり方すると思うんだが」


「実際その魔法を見たわけではないのでなんとも言えませんけど、解らない事を自分に都合のいいように楽観視するのはよろしくないと思います」


「そもそも体力を魔力に変換ってどういうこと? 筋肉鍛えて岩砕いたら魔法ってこと?」


「そういう事ではないのですが、素手で岩を砕けるのならそれは魔法といってもいいんじゃないでしょうか」


「それが魔法になるとすると、魔力を貯める作業が省けるんじゃない!? 筋肉に力が宿ってるんでしょ!?」


「攻撃するという一点に対してはそうですが……」


 話が脱線し始めたが、暗い雰囲気がなくなったのを微笑ましそうに見ながら伊丹は席を立つ。


「伊丹? どこ行くのよ?」


「図書室」


「時間が解決してくれるのを待つんじゃないの?」


「それはオマエの意見だろ。オレはウザいくらいアイツにつきまとってやるぜ!」


「自覚しているストーカーってウザさ倍増ね」


「なんとでも言えよ」




 覚悟を決めた伊丹は渋山達と別れて一人図書室に向かうつもりだったが、


「……ってオマエラもついてくるのかよ」


「別にアンタのためじゃないんだからね!」


「シヴさん、本当に伊丹さんのためじゃないのにそのセリフは伊丹さんがかわいそうです」


「……いや、別になんとも思わねーけど……」


「はぁ? シヴさんのツンデレ萌えセリフを聞いて何も思わない? 伊丹さんいっぺん死んでみます?」


「なんで死ぬの!? 目が本気っぽくて怖いよ!? それにツンデレ萌えセリフって、どこにそんな要素あったんだ……? 皆目見当つかないぜ……」


「アンタ達、図書室に着いたらそんな風に騒がしくしないで静かにしてなさいよ?」


 オマエがそれを言うか、と伊丹は思ったが口に出すと面倒な事になるのは目に見えていたのでなんとか思いとどまり、なんだかんだと騒がしい後ろを引き連れて図書室へと向かった。



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