第3話 『鬼って何? そして私、思ったよりヤバいやつに狙われてるらしい』
「——伏せろ」
冬真の声。
次の瞬間。
ドンッ!!!!
桃華の頭上を、
黒い影が吹き飛んだ。
「きゃあああああ!?」
道路標識へ激突したそれは、
人型の“何か”。
赤黒い肌。
異様に長い腕。
濁った黄色の目。
そして口元には、
獣みたいな牙。
「……鬼」
藍が低く呟く。
いつもの軽い雰囲気はない。
桃華は震えながら後退した。
「ちょ、待って、
今までのやつよりキモいんだけど!?」
「そりゃ“飢鬼”だからね」
「えぎ?」
鬼は低く唸る。
そして、
まっすぐ桃華を見た。
ゾワッ。
全身に寒気が走る。
「っ……」
「桃華、下がって」
藍が桃華を庇う。
その瞬間。
鬼が跳んだ。
速い。
人間じゃ見えない速度。
でも——
「遅ぇよ」
ドゴォッ!!!
冬真の蹴りが、
鬼の顔面を叩き潰した。
同時に藍の翼が広がる。
バサッ!!!
小柄だった身体が、
一気に大人の姿へ変わる。
金髪が揺れる。
鋭い目が、
鬼を冷たく見下ろした。
「桃華狙いとか、
マジめんどいんだけど」
「ちょ、ちょっと待って!?」
桃華は叫ぶ。
「説明!!
まず説明して!!!」
冬真は鬼の首を踏みながら言った。
「鬼には階級がある」
「階級?」
藍が指を折る。
「最低ランクが“餓鬼”」
「今まで出てきた雑魚ね」
「雑魚って言うなよ可哀想に」
「可哀想なのは襲われた私なんだけど!?」
藍は笑いながら続ける。
「次が“飢鬼”。
今のこいつ」
「飢えてる鬼って意味?」
「うん。
人間食べ始めるライン」
「怖」
冬真が淡々と言う。
「さらに上に、
“鬼人”と“鬼将”がいる」
「待って。
なんでソシャゲみたいにランク増えるの?」
「鬼将クラスになると、
街一つ壊せる」
「日本終わるじゃん」
藍が桃華を見る。
「で、問題は」
「?」
「なんで鬼が桃華を狙うか」
冬真が舌打ちした。
「“桃印”のせいだ」
「桃印万能すぎない?」
藍は真面目な顔になる。
「桃印持ちって、
鬼からすると“力の塊”なんだよね」
「は?」
「喰えば強くなれる」
桃華の顔が引きつる。
「……え?」
冬真は冷たく言った。
「だから狙われる」
「怖っっっ!!!」
藍は肩を竦める。
「しかも桃華、
たぶん歴代でもかなり強い方」
「なんで!?」
「手作り団子の効力、
異常だったし」
冬真がボソッと言う。
「普通、
契約は一匹だけだ」
「え?」
「でもお前、
俺と藍を同時契約した」
「待って。
それヤバいやつ?」
二人は無言になった。
「なんで黙るの!?」
その時だった。
潰れたはずの鬼が、
突然起き上がる。
「グ、ァァァァア!!!」
「うわまだ生きてた!?」
鬼の身体が膨れ上がる。
筋肉が裂け、
角が伸びる。
藍の顔から笑みが消えた。
「……嘘」
冬真も目を細める。
「変異種か」
「へ、変異種?」
鬼は桃華だけを見ていた。
濁った目が、
異様な執着を帯びる。
「桃……印……」
桃華は後退する。
「なんかめちゃくちゃ狙われてるんだけど!?」
鬼が咆哮した。
その瞬間。
ドンッ!!!
巨大な影が空から落ちてくる。
地面が砕けた。
「……は?」
そこに立っていたのは、
長い黒髪の男。
二メートル近い巨体。
着流し姿。
そして頭には——角。
男は鬼を見下ろし、
低く言った。
「下級鬼ごときが、
勝手に“桃印”へ触れるな」
冬真が舌打ちする。
藍は顔をしかめた。
「……最悪」
桃華だけが状況についていけない。
「え、誰!?」
男はゆっくり振り返る。
金色の目が、
まっすぐ桃華を見る。
そして。
「ようやく見つけた」
男は笑った。
「俺の花嫁」
「は?????」




