第1話『川から桃じゃなくてイケメンフラグが流れてきた件』
「単位、終わった……」
大学二年生・桃華は、
現実から逃げるように祖母の田舎へ来ていた。
就活はまだ先。
彼氏なし。
推しソシャゲは爆死。
人生に疲れていた。
「しばらくネット断ちしなさい」
祖母にスマホを取り上げられ、
半泣きで川辺を歩いていた、その時だった。
どんぶらこ。
……どんぶらこ。
「いや本当にどんぶらこって聞こえることある!?」
川を流れてきたのは、
巨大な桃。
ただし普通ではない。
表面はガラスみたいに滑らかで、
うっすらピンク色に発光していた。
完全にSF。
「おばあちゃん!! 川からテクノロジー来てる!!」
恐る恐る触れた瞬間。
パカッ。
桃が開いた。
同時に、
桃華のスマホが勝手に起動する。
《適合者確認》
《鬼ヶ島鎮圧任務を開始します》
「待って待って待って」
《拒否権はありません》
「ブラック企業!?」
その瞬間、
背後で爆発音。
振り返った桃華の前に、
二メートル近い鬼が現れる。
赤黒い皮膚。
牙。
金棒。
「え、無理無理無理!!」
全力で逃げようとした瞬間。
黒い影が横を通り抜けた。
ドゴッ。
鬼の身体が吹き飛ぶ。
「……は?」
そこに立っていたのは、
黒髪の男だった。
高身長。
切れ長の目。
黒いロングコート。
夜みたいな黒髪を無造作に流し、
鋭い目つきのくせに、
どこか気だるそうな雰囲気を纏っている。
韓国ドラマにいそうな顔面。
しかもやたらデカい。
男は鬼を踏みつけたまま、
桃華を見る。
「お前、人間か」
「今そこ確認する!?」
男はじっと桃華を見たあと、
少し眉をひそめた。
「……桃の匂いがする」
「怖」
「あと、甘い」
「通報していい?」
男は小さく笑った。
その顔が、
無駄に良かった。
「犬飼冬真。
鬼狩りだ」
「いや急に自己紹介されても」
「きび団子ある?」
「桃太郎システム採用されてる!?」
冬真は当然のように桃華の荷物を漁る。
「おいしそう」
「人のカバン勝手に開けるな」
「じゃあ守らない」
「脅迫!?」
しかもこの男、
妙に距離が近い。
気づけば肩を抱かれ、
いつの間にか庇われ、
完全にペースを握られていた。
「……お前、放っておくと死にそう」
「好きで巻き込まれてるわけじゃないんだけど!?」
スマホは無慈悲に通知を表示する。
《鬼ヶ島へ向かってください》
「行かない!!」
《拒否権はありません》
「だから何なのこのクソアプリ!!」
冬真は面白そうに笑う。
「大変だな、お前」
「他人事!?」
最後、
冬真は桃華を見下ろして言った。
「……でもまあ」
「?」
「お前、結構タイプかも」
「最悪の巻き込まれ方したんだけど!?」




