53.旅立ちへの備え ーふたつ先の季節へー
このお話で第一章は完結となります。
ギル兄様が王都の学園へと旅立ってから、1ヶ月が経って少し気持ちが落ち着いてきたマリーナです。
兄様が乗った馬車が見えなくなるまで見送って、寂しさからお父様に抱きついて泣いてしまった私でしたが、実はゆっくりと感傷に浸っている暇はありませんでした。
お兄様の見送りの後、お仕事に向かわれるお父様やお祖父様、鍛錬をするヴォルフ兄様はそれぞれ出かけていったので、気持ちを落ち着かせるためにお母様とサロンでお茶でも飲みましょうって事になったんだけど・・・。
紅茶を飲んで一息ついた後、お母様がキラッキラの目でこちらを見ている事に気付いて、「あ、ちょっとマズイかも・・・。」と思ったけど、遅かったのよね。
「ねえ、マリーナ。お母様も綺麗なサンキャッチャー欲しいわ~♪」
作ってくれることを少しも疑わないお母様の言葉は、ある種の圧を感じました。
「あ、はい。作らせて頂きます・・・。」
そこからは、どんなイメージでとか、色はこんな組み合わせでとか、サンキャッチャーに対する要望をガンガン伝えられて、ギル兄様の出発を悲しむ余韻も無く、サンキャッチャーの作成に入ることになったのだった。
しかも、お母様の要望で作ったサンキャッチャーを見た他の家族も当然欲しがって、さらには家族が行く先々でそれを自慢して回るものだから、作って欲しいって依頼が山のように届いてしまって・・・。
最終的にはアクセサリーなどを手がける工房にデザイン等を渡して、製作を委託することになってやっと落ち着いた時間が取れるようになったのよ。
ここまで1ヶ月・・・お陰でギル兄様が居ない寂しさは紛れたけど、もう少しだけゆっくりと兄様が居ない、という状況を飲み込んでいくプロセスを経ていきたかったなとも思ってしまうわね。
◇◇◇
さて、ギル兄様が居ないことを悲しんでばかりは居られないわ。
私も現在は8歳、淑女教育の基礎部分は終わっていて、後はお茶会などで実践的に覚えていくことばかりになるみたい。
そのために実践の場として、10~14歳までの近隣領地の同年代の子ども達の交流を目的としたお茶会などが、年に数回行われていて、そういったお茶会にお母様と参加することになるんですって。
でも私には野望がある・・・。
お父様とお母様に2人が出した条件を達成出来たら「船で外国へ行くことを許可して欲しい」とお願いしたの。
神様から賜ったスキルを存分に発揮出来る環境に自分から触れに行ってみたいこと、学園に入学してしまうとそういったことは難しいと思うので今しかないと思っていること、を誠意を持って伝えたわ。
お父様もお母様も、女の子の身で船に長期間乗ることが大変なこととか、外国では何があるか分からないし、簡単に助けてあげられないって心配してくれたが、最終的には10歳までに条件をクリアするのならば、船での旅を許可すると言ってくれたの!
お母様の条件は、10歳までに「淑女教育の基礎」の完全習得と、年に2回は戻ってきて必ずお茶会などで実践を学ぶこと、旅をするのは14歳の誕生日前日まで。
(どうも子ども向けのお茶会も14歳の参加は大きな意味があるらしい。学園入学準備やそのための交流目的のお茶会などがあるので、学園入学予定者は参加必須って事みたいね。最初からぼっちは嫌だから・・・って事なのかな?私はあまり気にしないけどっ・・・て言ったら、お母様に怒られそうだから言わないけどね。)
お父様の条件は、10歳までにお祖父様監修のもとで「基礎体力の向上」と「護身術の会得」、「学園入学前までの貴族教育」の完全習得。
もちろん私は条件を受け入れたわ。でも、あと2年も無いし、ぐずぐずしてる暇は無いわ!
10歳までの完全習得に向けて、全力で動き出さないと!!
外国に行けるチャンスは学園入学前か、卒業後じゃないと難しいもの。
しかも卒業後は結婚とかの話も出るだろうし、相手によっては船に乗るなんて「はしたない!」とか言いそうじゃない?許して貰えない可能性が高いものねぇ。
(何故かマリーナの中では、カルロと結婚する想定が無いらしい・・・カルロが聞いたら暴走しそうだな。by天の声)
◇◇◇
【マリーナから手紙が来たフェレーリ家 Side カルロ】
マリーナから手紙が届いた!
いつもの如く、ウキウキで手紙を読み始めるカルロ。
最初はふんふんと楽しそうに読み進めていたが、次第に怪訝そうな表情に変わっていった。
へ~、10歳までにご両親の出した条件をクリア出来たら、自分から外国に行けるんだ。
僕も一緒に行けるように準備しなくちゃね。
マリーナがご両親から出されている条件なら、もう僕はクリア出来ている。
これからすべきことは、あと2年でさらに知識を集めて、マリーナを守れるくらいの鍛錬もしなくちゃいけないな。
僕も連れて行って貰えるようにすぐに返事を書かなくては!
父上の方からもバイエルン伯爵に僕の同行を後押しして貰わなくちゃいけないな。
婚約者として同行すれば、行く先の国で変な虫が付くことも無いし、マリーナを守る人間も必要になるだろうから、その辺りをプッシュして貰おう。
あとは『海の愛し子』のスキル持ちを探さないと!
そうすれば、マリーナが乗る船が安全に航行できるもの。
手紙の続きを読みながらここまで考えて、ふと手が止まった。
*****<手紙 後半部分抜粋>********
だって、外国に行けるチャンスは学園入学前か、
卒業後じゃないと難しいでしょ?
でも、卒業後には結婚とかの話も出るだろうし、
相手によっては船に乗る事を許して貰えない可能性が高いしね。
そうそう、その話で思い出した!
可愛い子を見つけて婚約したくなったらすぐに教えてね。
必要ならすぐに婚約は解消するからね!
カルロならそちらの学園でも大人気だろうし、
学園入学前に解消した方が邪魔にならないと思うわ。
その頃なら虫除けも必要無いだろうし。
じゃあ、しばらくは鍛錬と勉強で忙しくなるから、
少し手紙の頻度が少なくなるかもしれないけど心配しないで。
カルロも身体に気をつけてね。
マリーナ。
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え???マリーナは僕以外の誰かと結婚することを考えてるの?
しかも僕との婚約が、お互いの虫除け目的だけで結ばれた婚約だと思ってる??
だから、学園の入学前には解消した方が良いなんて言うの???
可愛い子なんてマリーナ以外にいる訳ないじゃない!!
これまでにも婚約者として精一杯アピールしてきたつもりだったけど、全然足りて無かったってことか・・・。
そうか・・・足りて無かったのか。ふふふふふふっ。
(手紙を持ってきたカルロの専属侍従が不穏な笑い声にビクッと身体を強張らせる)
分かったよ、マリーナ。
何が何でも2年後の旅には同行して、その旅の中で嫌と言うほど分かって貰うことにするよ。
僕と一緒に居ることが当たり前、僕がいないとおかしいと思うレベルまで、アプローチをさせて貰うから覚悟していてね。ふふふっ。
(カルロの専属侍従は、「マリーナ様、お手紙に何を書いたのですか!?カルロ様は何か絶対ヤバイ事考えてますよ。マリーナ様、逃げて!」とガクブルしているのだった)
◇◇◇
その後、カルロから返信が来たんだけど、一緒に行きたいから僕も色々と準備するね、絶対に置いていかないでよ!っていう内容の手紙が、筆圧強めに届いたのよね。
そっか、カルロも多言語マスターだから、自分の知識が通用するか実践して確かめたいんだね。
わかる~♪やっぱり新しい言語を勉強した時とか、現地の人と話してみたくて仕方ないもの。
前世では世界中の人が利用している多言語話者の為のコミュニティサイトがあったから、ビデオチャットでリアルタイムに世界中の人と話が出来たけど、この世界では自分がその国に行かなきゃ、なかなか外国の人と話をする機会は無いものね。
私やカルロはまだ貿易港を有する領地持ちの貴族だし、自家で商会の運営もしているから外国の人と接する機会は多い方だけど、そうじゃなかったら限りなく0に近いと思うわ。
それでも、取引の無い国もまだまだたくさんあるし、新規開拓も目指さなくちゃね~。
あ~、考えただけでワクワクする~♪
ちなみに、ホンスーについて調べていた時に、ホンスーと同じ西大陸に前世の日本っぽい国があるのを見つけたのよね~。
そこも絶対に行ってみたいと思ってるの。
まあ、だからカルロが行きたがるのも理解出来るし、一緒に行けるようにお父様に話しておいてあげようかしらね。
アレッシ小父様の説得はカルロが自分で頑張ってね~。
そういえば、この手紙の最後に書いてある『婚約の解消は一切考えてないよ。僕の気持ちは旅の中で分かって貰えると思うから楽しみにしていてね。』っていう一文については、良く分からないのよね。
うーん、まあ今のところは婚約を解消するつもりは無いってことだと思うけど、一応婚約関係の話だから、この件もお父様にお伝えしておきましょうか。
◇◇◇
【 Side ライナー 】
マリーナから、「カルロも2年後の旅に行きたいって言っているので、フェレーリ家から要請があったら対応お願いします」と言われたが、それは想定内だった(カルロがマリーナについていかない訳がないだろう)ので承諾したが、問題はその後だった・・・。
「あ、それから・・・」とついでのような言い方で、手紙の最後にこんなこと書いてあったんですけど、これって「今はまだ解消しないよ。何時解消するかは旅の中で相談しよう。」って事ですかね?と聞いてきた。
意味が分からなかったので、手紙を見せて貰って、マリーナがどんな内容でカルロに手紙を送ったのかを聞いたのだが・・・。
思わずため息をつきながら、天を仰いでしまった。
(マリーナ・・・。この一文は『婚約の解消は絶対にしない。僕の気持ちがちゃんと伝わって無いようだから、旅の途中で分かって貰えるように頑張るからよろしくね。』って事だと思うぞ。何故、火に燃料をくべるような真似を・・・。)
「あー、まあ当分は婚約の解消はしないって事だろうね。旅の中でお互いに相談すれば良いと思うよ。」
まあ、カルロが本気で頑張ることは否定しないが、我が家の天使を簡単にあげたくない親心も根強いので、援護射撃は絶対にしてやらないぞ。
マリーナは、この手の事に凄く鈍そうだから、こちらから気付かせてあげるような親切は期待しないことだな。
きっと旅の間は、新しい知識や言語との出会いに意識が取られるだろうから、カルロの思うようにはいかないだろうと思うと、あのハイスペックなカルロを振り回すマリーナが最強だな、と苦笑が溢れた。
「なるほど。確かに手紙だけでは伝わらない事もありますしね!ちゃんとお話しますね。」
「ああ。そうしなさい。」
疑問が解消してスッキリしたのか、足取りも軽く戻って行くマリーナをやれやれと見送るのだった。
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さて、2年後の旅立ちに向けて行動を開始したマリーナ。
とうとう(やっと)、言語オタクが野(世界)に放たれます!!
ここまでを第一章 幼少期編 ー芽吹くことば ー として一旦完結致します。
2年後のお話からは第二章 邂逅編 ーひらかれる世界 ー となります。
マリーナが世界で何を見て、どう感じるのか。
一緒に体験出来る日を楽しみに、また第二章でお会いしましょう♪
※第二章はある程度書きためてから投稿を始めますので、それまでは
・神様への贈り物
・マリーナの前世の話(家族のその後など)
といった内容の短編をたまにあげようと思いますので、是非是非お立ち寄り下さいませ。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




