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言の葉の家へようこそ ~異世界の言葉がわかる転生令嬢、各国を巡る~  作者: 菖蒲月
第一章 幼少期編 ー芽吹くことば ー

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50.検証と実証 ②

 船員達の命を危険にさらしてまで、検証を行っていた事実に愕然としたマリーナ。


 検証内容を知って、怒りと恐怖に顔を青ざめさせていた私を見て、何を考えているのかを察したのだろうお父様が、


「マリーナ。君が思っていることは分かる。確かに、人命を損なうリスクのある検証で、非常に危険な行為だったことは間違い無い。仮にこの検証で亡くなってしまった者がいた場合は、バイエルン商会として遺族にできる限りのことをするつもりだった。だからと言って、決して彼らの命を軽んじた訳では無いよ。船医だってこれまでたくさんの助けられなかった『航海病』の患者を看ている。その彼が患者を死なせないために、しっかりと状況を見極めて対応をしてくれたからこその、この結果なんだよ。」


 穏やかな口調でそう言った。


 そうか・・・お父様は事前に知っていたのだ・・・。

 私に知らせなかったのは、彼らの優しさなのだろう。それは分かっている・・・。


 もちろん、お父様が言っていることは頭ではちゃんと理解出来てる。でも気持ちが着いてこないのだ。

「恐怖」「疑問」「憤り」「悲しみ」「安堵」それらがグチャグチャになって胸に詰まっている気がする。



「お父様、分かってます。分かってますが・・・何て危険な事を!!!今回の長期航海で『航海病』の患者が出ない、もしくは軽い症状で済めば予防効果は十分に実証出来たはずです!!!」


 グチャグチャな気持ちに引きずられて、叫ぶようにそう言った私に、静かな声で船医が語りかけた。



「お嬢様、今回の検証に関して事前にご相談せずに申し訳ありません。ですが、これは必要なことでした。お嬢様が教えて下さった『薬食同源』の考え方と、新しい保存食が予防効果を発揮する・・・もちろんそれだけでも、十分に素晴らしい結果であることは間違いありません。」


 船医は私の目をしっかり見ながらゆっくりと、本当にゆっくりと話していく。


「・・・ですが、医者としてそれでは不十分だと感じたのです。これまでたくさんの仲間を『航海病』で助けられずに見送ってきました。医者としては治せるかどうか・・・そこが一番重要なのです。今回危険にさらしてしまった者達がもし亡くなっていた場合、私も責任を取る覚悟でおりました。もちろん簡単に死なせるつもりは全くありませんでしたが。・・・ですが、結果として誰も死なせずに帰って来られました。お嬢様のお陰です。これでたくさんの船乗り達の命が救われます。ありがとうございます。」


 そう言って深々とマリーナに頭を下げた。



「・・・・・・・・・う、うわぁ~~~~~ん!!」



 マリーナは船医の強い信念と覚悟に何も言えなくなったが、最後に深い感謝を伝えられて、とうとう気持ちが決壊してしまい、お父様に抱きついて声を上げて大号泣してしまった。


「マリーナ。私は今回の検証をすることを事前に知っていた。船医から検証の方法を打診されて、私も必要だと判断して許可をしたんだ。それがマリーナの考えとは違うことも、もちろん分かっていた。これを知ればマリーナが思い悩むであろう事も・・・。」


 お父様は私をキツく抱きしめてまるで懺悔の様にゆっくりと話し始めた。


 これから先の『航海病』を待つより、同じ船に同じ期間乗る者が、食事改善だけでどれだけ違いが出るのかを比較した方が、検証としてはより正確なものとなると判断したこと。


 一度の検証で、ここまでハッキリと結果が出ているので、今後はすぐに実践レベルでの投入が出来ること。

 

 それによって今度はたくさんの船乗りを助けられること。


 私を抱きしめながら、お父様の手が少し震えているのを感じた・・・。

 そうか・・・お父様も恐かったのかもしれない・・・。


 ある程度の効果が見込めることは想定していても、一度発症した者への対処にはどれだけ効果を発揮するのかは、やってみなければ分からないレベルだったのだから。


 それでも、国で唯一の貿易港を有するバイエルン伯爵家の当主として、商会を運営する商会長として、船で一緒に航海をする船員の1人として、この方法でどこまでの効果が得られて、どこまでが助けられるのかを明確にしなければならなかったのだろう。


 しかもうちの商船ということは、お父様とも何度も航海した事があるメンバーがほとんどだったのだろうし、そのうちの誰かを失っていたかもしれない決断だもの・・・恐くて当然よね・・・。


 恐くても、失うかもしれない覚悟を持って許可を出したお父様も、1つも無駄にしないで生かしてみせるという執念にも似た医者としての決意で行動した船医も、事前に知っていて症状が悪化していく仲間達を見守らなくてはならない状況で、何もしてやれない自分に悩んだであろう船長も、凄く凄く辛かったのではないかと思う。


 私はある程度の効果があるだろう事は、前世の知識から分かっていたから、「今回の長期航海では『航海病』で苦しむ人がほぼ出ないだろうし良かった」「アンカーの港で『航海病』の人が出たら助けてあげなくちゃ」と、身近な人から改善していければいいという考えで、楽観的に見てしまって居たところがあったのだろう。


 お父様達はもっと深いところまで見ていて、もっと広いところまで届けようとしていた。


 私は自分の考えの浅さに恥ずかしくなってしまい、お父様に抱きついたまま顔を上げることが出来なくなってしまった。大号泣もしてしまったし・・・(///)。


 

 こうして、内心で大反省しながらも、恥ずかしさで身もだえ中の私が落ち着くまで、少々時間をいただく事になったのでした。



◇◇◇



 ギル兄様に涙と鼻水で汚れてしまった顔を丁寧に拭いて貰い、何とか落ち着きを取り戻した私でございます。(お父様の胸元が汚れているのは、見なかったことにしましょう・・・。)


「みなさま、お疲れなのにお待たせしちゃってごめんなさい。もう大丈夫です。私の考えが甘かった事が恥ずかしくなってしまって・・・。必要な事だったのはよく分かりました。まだ気持ちは落ち着きませんが、いまは皆さんが無事に戻ったという結果だけを受け止める事にします。では、報告して頂いた内容について、少し整理しましょう。」


【第一段階】


 ここまでは、事前の『薬食同源』について学んで貰った際に、想定した内容と変わらないということもあり、深く掘り下げる必要は無さそうだった。



【第二段階】


 問題はここから。

第一段階で『航海病』の初期症状が出始めていたAグループを2つに分けての検証。


 分け方について聞いてみたところ、この時点で割と軽めの症状が出ていた者を[C]、重めに出ていた者を[D]に振り分け、早い時点で重篤な『航海病』患者を出さないように配慮したとのこと。


 確かにここで、振り分けが逆だった場合は、もっと重篤な『航海病』患者がたくさん出ていたはずなので、少しでもリスクを減らすよう努力してくれた船医のお陰で、全員が帰還できたのだと改めて実感した。


 バランスの良い食事に切り替えたDグループに関しては、歯茎からの出血が酷かった者などに止血剤の投与はあったものの、概ね食事療法のみで『航海病』の初期症状(重め)が改善出来る事が実証された。


 ここで、船医が疑問に思ったのは、ずっとバランスの良い食事を摂っていた[B]グループから、風邪と思われる症状や、ごく軽い『航海病』初期症状が出たことだ。


 これに関しては、私の中である程度の考察が出来ている。



 まず風邪に関しては、この世界にはウィルスという概念がないので、正確な説明は難しいけど・・・。


『航海病』が身体に必要な物が内部で不足することで起こる『内側からの病気』だとしたら、風邪は身体に害を為すものが外部(喉・鼻・口・傷口など)から入ってくることで起こる『外側からの病気』だということ。


 『外側からの病気』についても、基本的にはバランスの良い食事をして、健康的な身体が維持出来ていれば対抗することが出来るが、「疲れがたまっていたり」「寒い場所に長くいて身体が冷えたり」「強いストレスを感じていたり」すると、身体のバランスが崩れて、害を為すものを防ぐことが出来ずに風邪を引いてしまったのだろうと説明した。


 すると船医が記録と付け合わせて、「確かに、夜番で夜通し外で見張りをしたものや、時化で長く船室から出られない状況が続いた時なので、該当しますね。」と納得していた。



 さらにごく軽い『航海病』初期症状が出た件に関しては、思い当たる事がある。


 恐らく、この件の該当者は『酒類』の摂取量が他の人に比べて多いのでは無いだろうか。


 アルコールは、ビタミンB1の吸収を阻害したり、アルコールの分解にビタミンCが大量に使われたりする上に、利尿作用によって過剰に排出してしまう栄養素もあるため、アルコールの飲み過ぎは良くないのだ。


 とは言っても、細かい栄養素についてはこの世界ではまだ通用しない知識なので、簡単にアルコールが持つ利尿作用で、折角食事で取り込んだ身体に必要なものが、過剰に体外に排出されてしまうと説明した。


 船での飲み物は「水」「ビール」「ワイン」などになる。

しかも、「水」は飲むこと以外にも料理などにも使うので飲める量は限られており、「ビール」「ワイン」などの酒類の摂取量が多くなるのだろう。


 一定までの酒量なら、毎日の食事がバランス良く摂れていれば、栄養が排出されてしまっても身体に残る分もちゃんとあるので問題ない。


 しかし酒量が過剰になると、食べた分だけでは身体に必要な栄養が賄いきれなくなり、『航海病』の初期症状へと繋がったのだろう。


 ここまでの話を聞いた船医は、「なるほど、確かに症状が出た者は酒を好む者で、尚且つレモンが得意では無かったようです。料理で使われている分には食べていました(船上で食事を残すことは死と同じことだから)が、他の者のようにドライレモンや蜂蜜レモンをビールやワインに入れたり、レモン水を飲む事がほぼ無かったように思います。」と言った。


 レモンは好き嫌いがあるから、やはり好まない者もいるか・・・。

 今回の検証で、前世の知識が割とそのまま応用出来る可能性が高い事が分かったから、ザワークラウトやピクルスなんかも取り入れてみようかな。


(ビタミンCが豊富な食材って、基本酸っぱい物が多いからな~。苦手な人は苦手だよねぇ。でも命に関わることだから、今後は何の為に食べるのかも含めて理解して貰って、『薬食同源』、苦手な人も薬だと思って食べるように頑張って貰いましょう。)


 加工の手間や保存期間を考えると、レモンなんかの柑橘系の利用が一番使いやすいのは間違い無いから、こちらも引き続き受け入れられやすい商品開発してみよう。



【最終段階】

 ここまで来ると船員の4分の3がほぼ健康で、残りの4分の1が重度の『航海病』となっている。


 重めの初期症状では速やかな回復が見られたが、さすがに重度まで進んでしまうと回復までには時間が掛かったようだ。


 それでも、この段階まで来ている『航海病』の患者であっても、段階を踏んでの食事療法を行えば、ちゃんと回復出来ることが分かった事は大きな成果だろう。



◇◇◇



 ここまでの結果を聞いて、船医は本当に一度でちゃんと比較することができる、無駄のない検証をしてくれたのだと感嘆してしまった。


 何度もこの検証をすることは想定していなかったのね・・・。

それだけ考え抜かれている上に、細かい所までしっかりと記録が取られているので、文句の付けようが無いもの。


 これからこの情報を公開する上で、この検証と実証の記録は大変重要となるわ。

これまで不治の病とされていた『航海病』が、バランスの良い食事によって予防・回復するとなれば、信じられないとの反発も当然出てくるよね。


 それでも、ここまでの詳細な記録を見ても信じない者については、出せる情報を提供する以上にこちらから出来る事は無いので、後は「この情報をどう使うか」が各国の上層部や船の持ち主などに掛かってくるのだと思うわ。


 この情報の公開の方法については、外交的な側面もありそうなのでお父様に一任することにして、今後の私は新しい保存食の提案などのアドバイス的な対応のみで携わることになりそうね。


 

 さて、それじゃあ淑女教育と、まだ見ぬ異国との出会いを求める日々に戻りましょうか。 


少し重ためのお話が2話続きました・・・みなさま、お疲れ様でした(^_^;)

もう少しで1章の完結が見えそうです。もう少しお付き合いくださいませ☆ミ


最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)

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