Dream.?『Eternal Days』
ジリジリジリ……とけたたましく鳴る目覚ましを殴るようにして止め、少女が2度目の眠りにつく。ハッとして起きた頃にはもう8時近くを時計の針が指していた。
「ややや、やっっば遅刻!?嘘でしょ!?」
少女は慌てて机の上に置いてある指輪を薬指にはめ、真新しい制服に袖を通し、スカートを履き、鞄を持って階段を転げ落ちそうな勢いで降りていき洗面台で髪を梳かす。
「アリス、やっと起きたの?今日は入学式じゃなかったっけ?」
「そうだよ!どうして起こしてくれなかったのー!」
アリスと呼ばれた少女が急いで髪をセットしながら女性に八つ当たりする。
「起こそうとしたわよ、でも全然起きなかったんだもの。カルミアはもう先行っちゃったわよ」
呆れながら女性は言う。
「見捨てられてたーー!?」
アリスが鞄を持ち、そのまま外へ出ようとすると女性がアリスを呼び止めて彼女の口に食パンを押し込んだ。
「朝ご飯はちゃんと食べて行きなさい。学校でお腹空かせてお腹鳴らしちゃったら恥ずかしいでしょう」
「わ、わかったよ〜。じゃあ、ナサ姉行ってきま〜す!」
アリスは1口食パンを飲み込んで手に持ち直してナサ姉と呼ぶ女性に挨拶をし、飛び出すように学校へ向かう。その後ろ姿を見守りながらナサ姉はアリスが見えなくなるまで手を振っていた。
いっけなーい遅刻遅刻っ!とアリスは食パンを口に咥えと路地を通り、学校への最短ルートを駆け抜けていた。アリスは今日、アーカム・アカデミー。通称A.Aと呼ばれる中高一貫私立学校への入学式へと急いでいた。
そして曲がり角で小さな黒い影と衝突する。弾かれたアリスは尻もちを着いていたたた……とぶつかってしまった誰かを見上げる。同じく飛ばされた食パンは幸運にも彼女の頭上に落下した。
尻もちを着いたアリスを心配して黒髪のツインテールにした黄緑色の瞳をした少女がアリスに手を差し伸べる。
「……だい、じょうぶですか?」
その手の薬指には、アリスと同じ指輪がはめられていた。
「大丈夫だよ!それよりあなたは?怪我ない?」
アリスの問いに首を振る。そして少女はアリスの付けていた指輪に注目した。
「その、指輪……」
「同じだね、何かの運命かな?」
そして次にアリスは少女の制服に目を向けた。
「それってA.Aの制服?私も同じ学校なんだ!やっぱり運命だ!私はアリス高等部1年だよ」
「わたしはイブ=ツトゥル。イヴでもいい。中等部1年」
「そっか、よろしくねイヴ!」
運命のような出会いを果たした2人の背後で、1台のトラックが坂道をゆっくりと下っていた。しかし、それは徐々に加速していく。運転手の配達員が荷物を付近の家に届けていた。サイドブレーキを掛け忘れてしまったようだ。
「イヴ、危ない!!」
アリスがイヴを路肩に押し回避しようとすると、トラックは2人を避けるように横転した。二人の身代わりに食パンを巻き込んで。
「……助かった?」
イヴはアリスの腕の中で驚いて横に倒れたトラックのその腕の隙間から覗いていた。
大きな物音で気づいた配達員が自らの失態を嘆いている。
「とりあえず、イヴが無事で良かった。あっちの荷物は致命傷みたいだけど……」
アリスは苦笑いで目に見えるほど落ち込んだ配達員の悲しそうな背中に視線を送る。
ふと、猫の鳴き声がしたような気がして後ろを振り向くが、何も無い。
「どうしたの?」イヴがアリスに尋ねる。
「ううん、ただの気のせいだったみたい。早く行かないと遅刻しちゃう!初日で遅刻はかなりキツい!」
アリスはイヴの手を引いて駆け出していった。
ーー男が最後の背景報告を読み上げ終わると、ふんわりとした高級感のある革製の椅子でくつろぐ少年がため息を漏らした。
「まさか、わから夢を奪うために内と外から同時に強襲し昏睡と覚醒を繰り返させ時間を稼いだとはね。オリジナルと同等の力を持たせたのが仇になったみたいだ」
少年は頬杖をしながらチェスの駒をマス上に置いていく。
「それで、如何でした?彼の見せた夢物語は」
黒衣の浅黒い肌をした男が同じくマス上に駒を置き、少年に伺いを立てる。
「まぁまぁかな」
「左様ですか」
「彼奴、わのこと阿呆とか抜かしよったからな……ん、チェックメイト」
黒衣の男がははと笑う。
「……何百億年振りの敗北でしょうかね。お目覚めになって以前のような知性が戻り始めましたか」
「寝ておったのだから頭が働かなくても仕方ないだろうに」
少年が頬を膨らませる。その時チャイムがなった。
「あぁ、そろそろ時間ですね。講堂へ向かいましょう。入学式ですよ。祝辞の内容は頭に入れてきましたか?」
「……面倒臭い、それはわでなくてはならないのかい」
遊びから現実に引き戻されて少年は顔をしかめる。
「そうですよ。あとわっていう一人称止めませんか?威厳が無い。魔皇らしく朕と仰るべきでは……」
「しかしそれでは、男のいん…………」
と、少年が言うのを黒衣の男が遮って「コラコラ」注意する。
「ナーサリーの乗っていたあの椅子いいな。歩かなくて済みそうだ。ナイアルラトホテップ、この椅子を押していけ」
少年はデスクを軽く蹴り、スペースを作ってくるくると回り始めた。
「いけません。自ら歩まれてください。それと、この世界ではナイ先生と名乗っております我が主」
少年は不貞腐れ肉親でもある従者に小言を零した。
「…………変な名前」




