契約
それは遥か昔、人とそれ以外の生き物がまだ一緒に暮らしていた頃人は他の種族からすれば脆弱な種族でしかなく、取るに足りない存在だった。
だけれども、人族は他の種族が羨ましいと思い、みんなみたいに何か自分たちにも得意な物があるのでは? と考えた。人族は手先が器用だった為、他の種族が苦手な物作りをすると、他種族は大いに喜び、人族を褒めたが、人族はそれに満足出来なかった。
鳥族みたいに空を飛んでみたいと願う者や、エルフのように長い寿命を願う者、妖精族のように可愛くなりたいだのと願うなんかも現れた。そして彼らのようになる為には何か方法はないだろうかと模索していた。
そして長い時間を掛け、辿り着いた結論では自分たちの力では到底彼らの力に追い付けるものなんかではなく、人族の多くが絶望した。
それに嘆き悲しんだ人族を見て心優しい妖精族が力を貸してあげてもいいんじゃないかと言った。そして他の種族も人族が悲しんでいるのに心を痛め、それに賛成していった。
それが、契約の始まりであり、人族以外の悪夢の始まりでもあった。
最初の頃の契約は、みながお互いを支えるような信頼し合い切ったようなものだった。だけれども、人の欲というものは際限なく増えていき、いつしか契約してくれた者たちを使役するようになってしまった。
当然人以外の種族は怒り、人族に契約を破棄するように求めたが、それは人族には出来なかった。
それは魂と魂の結び付き。どちらか片方が死ぬまで続く呪い。
「つまり……」
「つまり、俺とお前は死ぬまで一緒にいるしかなく。しかも、俺はお前の命令が絶対な訳で」
「つまりいい事しかない契約って事ね」
「よくねえに決まってるだろ! 何考えてんだ!」
ノエルの人間にとって都合のいい解釈でまとめようとしていたのが、気にくわず半獣の青年が叫んだ。
「ふ、ふんだ! あんたなんかもう怖くないんだからね! というかそんな便利な呪いがあるんだったらなんで人族はそれを知らないのよ!」
「知るかと言いたいが教えといてやる。人族以外の種族が徹底的にその事実を消して回っていたからだ。だが、こいつが持っていたこれのようにまだどこかにこの契約を知ってる人族がいるってこった。おい、お前これどこで手に入れたんだ」
「えっと、父さんが作ったけど……」
「お前の親父に会わせろ。このふざけた呪い解呪出来んだろ」
イヤリングの事を知りたいんだと分かるけど、シュティの持っている情報はこれぐらいでそれ以上の情報は持ち合わせてない。半獣の青年にこれ以上聞かれてもシュティが答えられる事なんて一つもない。
「この子のお父さんならもう亡くなってるの。というか、あなたの話しだと解呪出来ないんじゃないの?」
どうしていいか分からずに、シュティが押し黙ってしまったのを見て、変わりにノエルが答えた。だが、その情報は半獣の青年が期待していたものではなかった。半獣の青年は大きなため息と舌打ちをした。
「あっ!」
「シュティどうかしたの?」
「お兄ちゃんなら呪いの事はともかくとして、これの事何か知ってるかも!」
「ソールが? 知っててもあいつが何か言うかしら?」
「知ってても、解呪できないんだったら聞かなくてもいい」
借金の事も黙ってたし、もしかしたら他にもいくつも隠し事をしてるんじゃないかとノエルはやさぐれた気分になる。
それぞれの理由で、落ち込んでいる二人を見てどうしようかなと、迷っていたらシュティは今更だが、大事な事に気がついた。
「ノエル!」
「何?」
「この場合報酬どうなるの!?」
「報酬?」
半獣の青年が怪訝そうな顔をして見てきたが、シュティはそんなのに構っていられない。今はお金だ!
「お金は! 依頼達成になるの!?」
「えっと、どうだったかな……?」
シュティの勢いに若干押されつつもノエルは依頼内容を思い出す。
「確か、討伐ってあったから……」
「これって討伐になる……?」
「お前ら俺の討伐に来てたのか?」
二人の視線からようやく自分が狙われていたと気付き呆れていいのか怒ればいいのか分からないと半獣の青年はため息を吐く。
「とりあえずギルドに行けば分かるんじゃないかな」
「ねえねえ」
「なんだガキ」
「あたしシュティ。シュティリアって言うの。みんなシュティって呼ぶからあなたもそう呼んでね。あっちはノエル。それであなたの名前はなんて言うの?」
「……ロータスだ」