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あたしとお兄ちゃんのお店

「お兄ちゃん行ってきまーす」

「おう、気をつけろよ」

「もちろん! お兄ちゃんもお店頑張ってね」


シュティと呼ばれた14歳になったばかりの少女は元気良く兄に返事をすると振り返らずに走り去って行った。

 兄であるソールはその姿に苦笑いをしたまま見送ると『ソール魔素材店 買い取り受付中』という看板を出して開店準備を始めた。




「フンフン♪ そりゃ!」

「おっ、シュティちゃんだいぶ慣れて来たんじゃないか? そろそろ八級への昇級試験受けてもいい頃かもな」

「ほんと!? やった!」


 冒険者のランクは十級から一級とその上の最上級でもある特級の十一のランクがある。特級へ向かう道は険しく、シュティはまだまだ入口に入ったばかりだが、やはりと言うかなんというか、シュティも特級になる事を目指している。


 初心者向けのクエストの野ウサギを捕まえたシュティは初心者向けクエストの監督でもあるノルディバーグに褒められ嬉しそうにしていたが、ノルディバーグが他の初心者の様子を見に行ってしまったので捕まえた野ウサギを絞めて腰にぶら下げていた大きめのポーチにしまった。


「そろそろ帰るぞー」

「えー! 何でだよ。まだまだ俺らはやれるぞ!」

「そうだそうだ!」

「何言ってやがる! そろそろ夕方だぞ! いくらここが初心者向けの場所だって言ったって夜になったらおっかないのが来る事もあるんだ! ほら、クエストが終わってない奴らは明日朝から頑張れ!」


 ノルディバーグが言ったとおり空を見上げれば、いつの間にか日は沈みそうになっていた。シュティは持っていた薬草を丁寧にポーチにしまうと帰り支度をして一人また一人とノルディバーグの周りに集まっていく子どもたちの輪に加わった。


「よし、全員集まったな。それじゃあ戻るぞ」


 ノルディバーグの合図で数人ずつが転移の魔法陣に入っていく。


この陣は日中しか使えず、夜には封鎖されるのが決まりで、それまでに入れなければ野宿するしかなくなってしまい、危険度がぐっと上がってしまうのは子供でも知ってるが、「たまにこういう無鉄砲な馬鹿が現れるんだ」とノルディバーグに大声で注意されてる。


もちろんまだ冒険者として駆け出しのシュティたちにはそんな危ない真似はさせてもらえないし、こうやって初心者向けのクエストをする少年少女たちには監督が付き取りこぼしがないか確認してから帰宅するのが義務になっている。


「ねえ、聞いた?」

「何が?」


また来たと内心げんなりしながら声の主を確認すれば、シュティが嫌いな奴が順番待ちの列をかき分けてやってきた。


「あんたんとこの店、火の車だって」


またか。肩までの緩く巻いている髪を掻き上げる仕草に鬱陶しいなと半眼で見やれば、ニヤニヤと嫌味ったらしい笑みを顔に貼り付けている。


 こいつはミルフと言って、シュティと同い年で、シュティの足を引っ張るのが生き甲斐だとでも言うかのように、いつもシュティに嫌がらせをしてくる。今のところ暴力を振るって来る事はないが、それも時間の問題だと思っている。


今日は突っかかって来ず、静かだったから何かあるんじゃないかと警戒していたけど、ノルディバーグさんに誉められ嬉しくてミルフの事なんてすっかり忘れていた。


「そうなんだ」


 苦々しく思いながら平常心を心掛けて返事をしたが、ミルフの返事にまたカチンとくる。


「そうなんだじゃないわよ。あんたが冒険者なんかになるからお兄さんにまた負担になってるんじゃないの?」

「そうかな? お兄ちゃんはあたしが冒険者になるのを反対なんかしなかったし、というか、あんただってここにいるって事は冒険者になったんでしょ? よくご両親が納得してくれたわね」


我慢我慢と心の中で呟きながらミルフに言い返してやる。シュティの両親は兄と同じように魔素材屋を営んでいたが、素材を取りに行く途中土砂崩れに遭い、何年も前に亡くなっているが、ミルフの家は違う。


 ミルフの事を溺愛しているのは村中が知っている事だ。もし、ミルフが冒険者になりたいと言い出したのならば、泣きすがってミルフの事を止めにかかり、それが無理ならばミルフの事を部屋に閉じ込めるんじゃないかって村ではもっばらで、大騒ぎになりそうだと村では笑い話の一つとなっている。


 それなのにこんなところでこんな事してて平気なんだと逆に言ってやればミルフは小さく唸っただけで何も言わなくなってシュティは内心ガッツポーズをする。


 どうやらミルフは両親に言ってないらしい。後で噂になったら笑ってやろうと思っていたら、ノルディバーグに呼ばれてしまった。どうやら魔法陣に入る番が来たらしい。


「あんたね……」

「あたしたちの番よ。話は後にして」


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