終幕
なかなか更新できませんでした。
ひとまず完結とさせていただきます。おまけを気まぐれに更新しようと思います。
「どういうこと?」
継母が私の命を狙っていた?なぜ?そこまで憎まれるようなことはしていないはず。あの女は、私が彼に捨てられたのを見て、溜飲を下げたとばかり思っていた。じゃあ、私がこのアパートを出たときすごく危険だったのでは?
「混乱するのも無理はないだろう。でも、これは事実だ。咲弥子、お前には母親の遺した財産がある、総額で2億くらいだろうか。これは、お前の父親には渡らず、お前の名義になっていた。継母はそれを狙っていたんだ。」
「そんなお金のこと聞いたことない!それにいくら私に遺産があったって、父親が持っているでしょう?!」
「お前の父親の会社は表向き順調だが、無理な急成長によって経営はかなり厳しいんだ。お前自身そんなに贅沢した記憶はないだろう?」
「じゃあ、継母は当てが外れて、私の財産を狙っていたってこと?」
「そういうことだ。…咲弥子、これを聞いても気をしっかり持てよ。」
彼の前置きが怖い。これ以上にショックなことはあるのだろうか。
「お前が父親だと思っている人物は本当の父親ではない。つい最近、君の戸籍を見て気づいた。」
「え…?」
ホントウノチチオヤジャナイ??
嘘じゃないの?でも彼が私にそんな嘘をつく必要はない。
これは真実なの?
これまで自分の信じてきたものが、ガラガラと音を立てながら壊れていくのを感じた。
でも、心の片隅ではあの人の自分に対する態度に納得がいった。あの人は私のお母さんを愛していた。でも、お母さんは自分の子供でない私を宿していた…だから私を愛せなかった。
それなら…
「私の本当の父親は誰?」
「お前がこれまで父親だと思っていた男、白島の社長の弟だ。お前の母親は、もともとこの弟と結婚する予定だったんだ。しかし、婚約した直後、彼は不慮の事故で無くなっている。そして…彼は、社長にとても良く似ていたそうだ。」
そんな人物が存在するなんて初めて知った。正直亡くなっていると聞かされても悲しみは薄い。それでも、自分と血のつながった父親がもうこの世にはいないことに漠然とした喪失感を覚える。
私が父親によく似ているといわれていたのは…本当のお父さんに似ていたから?
彼は続ける。
「これは、俺たちの婚姻届けを書いた秘書から聞いたんだが、白島の社長とお前の母親は婚姻関係を結んでいなかった。だから、社長は遺産を相続できなかった。でも、姪であるお前が亡くなれば、叔父である彼のもとに遺産がいくだろうということ。最も、お前の継母は遺産の所有者がお前であるとしか知らないだろうがな。」
「私が父親だと思っていた人は、この計画を知っていたの?」
彼は沈痛な面持ちで頷いた。
「あの男は、つい最近会社の経営が苦しくなって自分の周辺を調べるうち、お前の母親の遺産に気づいたそうだ。そして、手放したことが失敗だとわかり、この計画を立てようと思いついたんだろう。離婚して、俺の手を離れれば警備の手も薄くなるし、習い目だと思ったんだろう。俺が、お前を見つけたとき先は越せたものの、かなり周囲は危険だったんだぞ。」
さらなる衝撃だ。そんなに危険な状態だったなんて。まったく気づかなかった。
…ああそうか。私は長年騙されてきたわけだ。そして、金のため、命を狙われていた。
全てを知ると同時になんか腹が立ってきた。
「あいつら、私はモノじゃない!そんな好き勝手されてたまるか!!」
彼は私の立ち直りの速さに目を見開いた後、愛し気に微笑んだ。
「それでこそ俺の見込んだ咲弥子だ。安心しろ、お前を殺す計画は実にお粗末だったから、証拠をまとめて警察に突き出した。久我の親戚筋の警視庁のお偉いさんが、今頃お前の実家に向かっている。俺が、お前を傷つける存在を許すわけないだろう?」
と、とてもいい笑顔で言われた。
「ちなみに、白島の会社は会社ぐるみで脱税をしていたらしく、かれから、税務局のご厄介にもなるらしいぞ。」
彼らの残念さにため息が漏れる。
それから、彼がこちらをうかがってきた
「…だから、おまえを閉じ込めていたのは危険だったからだとわかってくれたか?怖がらせてはいけないと、活着がつくまで事情を話さないことにしていたんだ。…もちろん、俺から逃げられないようにするのが一番の目的だったんだけど…。勘違いして傷つけたことも悪かったと思っている。許してくれるか?」
クールな雰囲気の彼の捨て犬のような目に心を撃ち抜かれる。先までの理路整然とした説明をしていた彼との落差にキュンとする。これがギャップ萌えか!
「じゃあ、これからは大切にしてください。旦那様。」
彼に自分から抱き着いてみる。私は、真っ赤になっている自信がある。彼も、大胆な私の様子に驚きつつ、ほっとしながら嬉しそうに抱き締めてくれる。
これまで、散々すれ違っていた彼と、心を通い合わすことができるなんて夢にも思わなかった。
「咲弥子、愛している。ずっと大切にする。」
「私も愛しています」
というわけで、とある事情によって出会った私たちは、今はとても幸せです。
ここまでお付き合いいただいてありがとうございました!!