会長編 おまけ
会長と想いが通じ合ったのが夏休み。そして今は夏休みが終わり、二学期が始まったところだ。
夏休み中に会長の両親のところに行き、私が紹介された。会長が言っていた通りに円城寺先輩と婚約は解消された。
だが、私は大事なことを聞いてなかったのだ。そう、会長と円城寺先輩の婚約は解消されたのだが、会長と私が婚約したことを。なぜか私の両親もその場に来ていて放心状態の私だけを残し、婚約をしたのだった。
因みに学校では円城寺先輩と婚約を解消したことは知られているが、私と婚約したことは知られてない。
「騙された……」
「人聞きが悪いな。私は騙してはいない」
人気がない資料室で机に頭を預けながらキッと隣に座っている会長を睨み付けた。
書類を書いている会長は手に持っていたペンで私の唇をツンツンと突く。それに小さくうめき声を上げると、クックと笑みをこぼされた。
その魔王笑いを格好いいとか思ってしまう私は重症なのかもしれない。
「会長だけじゃない。私は円城寺先輩にも騙されたんだー!」
うぁぁん、と顔を更に机にこすり付けた。
騙された内容が会長がヘタレなのかどうかだ。会長と想いが通じ合った後に円城寺先輩に会って「会長のどこがヘタレなのですか!」と問いただしたら「そう言えば、海砂さんは悠真にアプローチを自分からすると思ったのですわ」と言われた。
相手がヘタレだと自分から想いを伝えようと頑張るとか思ったらしい。
「過ぎたことはどうでもいいことだろう。今は麗奈のことより、私のことを考えなさい」
頭を優しい手付きで撫でられると絆されてしまいそうだ。いや、撫でられなくても私は会長が好きなんだ。
会長に触られると嬉しいし、胸が高鳴る。そして、もっと想いが募る。好きになってどうしようもない。
「かいちょー、好きです」
本当は会長の顔を見ながら想いを伝えたいけど、恥ずかしい。なにせ、初めて私は好きになった人なんだ。
前世で真剣にしていたゲームで一番好きだったキャラである会長。彼に最初に目を奪われたのはゲームの中でだったのかもしれない。それでも、今は現実の彼を好きになっている。
それはもうゲームとか関係なしで、彼に惚れているのだ。
「海砂」
甘すぎる声に顔を上げると一つの陰が落ちてくる。その陰から逃げれないように会長は私のあごを掴み、顔を固定した。
チュッとわざとらしくリップ音を付けて触れるだけのキスをする。
「私も好きだ」
さっきから赤かった顔に更に全身の熱が集まった。熱くてどうにもできない。
胸が高鳴るほど息ができないくらい苦しい。だけど、この苦しさは辛くはない。幸せで苦しいのだ。
「うー、会長の女の趣味って悪いですよ……」
「君も十分に男の趣味が悪いと思うが……こんな私に捕まったのだから」
私みたいな女に惚れた会長も、会長みたいな男に惚れた私も、どっちも趣味が悪いということか。確かにそうかもしれない。こんな魔王に惚れるなんてどうかしている。
「そう、そうなんです。最近のゲームとかは敵キャラが格好いいのが反則なんですよ!」
「何の話をしている?」
「会長が魔王で、魔王は敵キャラだからイケメンってことですかねぇ?」
意味が分からんといった顔をしていながらも必死に分かろうと考えている会長。意味が分かったのか、彼はいつものような魔王笑いを浮かべた。
「私が魔王か。では君は囚われのお姫様ということになるのか?」
「そんなガラじゃないですよー」
「それもそうだな。君がお姫様なら君を助けにくる勇者がいるはずだからな」
「誰も魔王から助けようとかそんなこと考えませんって」
この魔王様は最強なんだし、勝てる気がしない。そんな言葉を呟く前に会長は私に再度キスをする。
「そうだな。魔王に惚れてるお姫様なんか誰も助けに来ない。来ても魔王はお姫様を手離すわけはないのだから」
あぁ、反則だ。こんなことを言われては会長の側を離れることは出来ない。いいや、元から私は離れることはしなかった。
だが、お姫様はヒロインだ。私はヒロインでない。お姫様になりきれなかった村娘は魔王に見初められ、魔王に囚われた。そう言った方が合っている。私はお姫様というガラじゃないのだから。
「お姫様が本当のお姫様じゃなくても魔王は側にいてくれるのでしょうか?」
「お姫様じゃなかったら障害もなく魔王と幸せになれるだろう。そもそも、魔王はお姫様とか関係なしに惚れたのだから」
私はその言葉が嬉しく思う。だけど、こんな馬鹿みたいな会話をする私達はバカップルじゃないのかと疑ってしまった。
意外に会長は馬鹿なのか。頭がよすぎて馬鹿になったのか。
「会長って馬鹿なんですね!」
「……君と一緒にされたくないな」
「ひどいですよー」
しくしくと泣き真似をする私の頭を撫でながら会長は笑みをこぼした。その笑みは子どものように無邪気で楽しそうな笑みだった。
その笑みに更に心が高鳴ったのは私だけの秘密にしよう。