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その9


       3




 夕方ごろ、俺とドミニクは街についた。とりあえず文無しだし、今日は適当に野宿して、明日は何か仕事を見つけて金を稼ごうと思っていたんだが、ここでドミニクが予想外の発言をしてきた。


「ご一緒に食事をしませんか?」


 俺にむかって、嬉しそうに言ってきたのである。ちなみにドミニクはずっと俺と腕を組んでいた。歩きにくいから離れてほしいんだが。


「俺、いま金を持ってないんだけど」


「私の父がだしますので。まずは食堂に行きましょう。それから父を呼んできます」


 ということで、俺とドミニクは街の宿の一階の食堂へ行くことになった。


「ちょっと待っててくださいね」


 食堂のすみのテーブルに着いた俺にドミニクが言い、席を離れた。少しして戻ってくる。ドミニクと似た赤毛の、いい年したおっさんが並んでいた。


「いやいや、どうも。はじめまして」


 おっさんがテーブルの向かいに座った。ドミニクは俺の隣である。で、また腕をからめてきた。おっさんはドミニクの行動に何か注意するでもなく、笑顔を俺にむけてくる。


「私のことはジョージ・ギリアムと呼んでください。娘の件については、なんとお礼を言ったらいいのか」


「べつに礼なんかいらないよ」


「いや、そういうわけには。まずはお食事を」


 こんなやりとりのすえに、俺はメニューを開いた。――ポテトサラダがある。俺が前にいた世界の中世ヨーロッパにはジャガイモがないって聞いていたが、こっちは違うらしい。ほかにも、ハンバーグにアメリカンコーヒー、異国料理の欄には鮭茶漬けやてんぷらうどん、納豆定食まであった。たぶん、俺より先に転生した人間が広めたんだろう。やりやすい国だ。


 それはいいけど、一番安いのはパンとオートミールか。


「パンをひとつ」


 俺が女性の店員に言ったら、メニューを見ていたジョージが顔をあげた。


「それだけでいいんですか?」


「俺は小食なんだ」


「せめてワインくらいは」


「やめとくよ。飲んだことがないんだ。俺が前にいたところでは、あと三年は飲んじゃいけないことになってたし」


「はあ。禁欲的なんですな」


「腹が減ってないだけだよ」


 実際問題、俺は何も食べなくても平気だったのである。ドラゴンに生まれて五年くらいは普通に木の枝をかじったりしていたんだが、ある日、何も食べなくても問題ないってことに気がついた。


『そりゃそうよ。あなたたちは普通の動物とは違うから。神獣って呼ばれたりしてるけど、その通りでね』


 俺が不思議に思って話したら、そのときにサリー姉ちゃんが説明してくれた。


『だいたい、普通の動物と同じ理屈で、ドラゴンが自分の身体を維持するために食事を摂りつづけたら、一年で世界中の食料がなくなっちゃうわよ。あなたたちは何も食べなくても、身体のなかで魔力をつくれるから、それで生きて行けるの』


 あ、なるほどな、と俺も感心した。転生するなら飢え死にしない立場がいい、とサリー姉ちゃんに言ったが、確かに飢え死にはしなさそうだ。そういうわけで食事はいらなかったんだが、何も食わないで平気な顔をしていても怪しまれる。食ったって死ぬわけじゃないし。とりあえずパンがくるまで、俺はジョージとドミニクを観察した。ふたりも、なんか適当に注文している。


「実は、私の娘が、あなたのことを大変に気に入りましてな」


 注文を終えてから、あらためてジョージが俺に話しかけてきた。相変わらず、ドミニクは俺の腕と自分の腕をからめたまま、笑顔をむけている。


「それから。――いきなりこんなことを言っても信用されないかもしれませんが、実は、私は、それなりの地位にあるものでして」


 妙なことを言いだした。ちらっとドミニクを見たが、笑顔のままである。


「それなりの地位にあるって話が本当だって証拠は?」


 俺が訊いたら、ジョージがニヤッとした。


「これを見ていただけますか」


 ジョージがテーブルの上に袋を置いた。ごと、と重めの音がする。


「中身はこういうことになっております」


 封をあけて、俺にむけてきた。のぞきこむと、金貨、銀貨、銅貨がこれでもかと詰まっている。

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