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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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098.斬れ、砕け、掘れ!!

 港からわずか数十メートルの海中。

 その底からさらに数メートルの海の下の地面の中に、オレは大穴を掘った。

 海水の圧力だけではギリギリ陥没しない程度の厚みを残した地面。

 鋼帝竜はその地面を見事に踏み抜いた。

 その瞬間、大量の海水と共に、鋼帝竜が穴へと沈み込む。

 100メートル近い巨体の首を残してすべてが海へと浸かり、狭い穴に加え、大量の水による水圧を受けた奴は身動きが取れない。

 そうして、唯一海面から突き出した頭に向けて、オレは、港の突堤から跳躍した。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 気合を込め、最強最硬となった"アンシィ"を振りかぶり、叩きつける。

 確かな手ごたえ。先端が、頭頂部へとめり込んだ。 


「ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!?」

「まだまだ!!」


 勢いのまま、奴の頭を滅多打ちにする。

 もし、昔のアンシィのままだったら、そのまま刃の部分がひしゃげてしまっていただろう。

 しかし、3種の伝説的金属の合金でできた新たなるアンシィの器は、まったくびくともしないどころか、一振りするたびに、鋼帝竜の頭の方が、どんどん陥没していく。

 圧倒的な剛性と攻撃力。今のアンシィは、まさに無敵。

 と、さすがにやられっぱなしだった鋼帝竜が、頭を振った。


「うわっ!?」


 大きく振り落とされるオレ。

 このままだと、海に投げ出されると思ったその時、何かに首根っこを掴まれた。


「えっと、あれ……誰?」


 オレの首根っこを掴んだ人物。

 それは、つつじ色の長い髪をした少女だった。

 背は高く、胸も大きい。スタイルは抜群だ。

 そんな彼女が乗っているのは、アルマに預けられているはずのミナレスさんの精霊鳥パドラ。

 首根っこを掴まれたオレは、そのパドラの背へと乗せられた。


『ディグ様、無事で何よりです……このやろー!!』

「えっ、あっ、その声……アルマ? いや、ジアルマ?」


 まるで、アルマとジアルマの声が重なったような声。

 あれじゃん。ドラ〇ンボールのフュー〇ョンした時のあれじゃん。


「何、もしかして、2人合体してんの?」


 そういえば、かなりくたびれてはいるが、着用しているのはアルマのメイド服だ。


『ユニオンです! 2人の人格が融合して、超絶パワーアップするのです! ……こんちくしょう!』


 会話の最後に口の悪さが出るのは、ジアルマの影響なのか?

 まあ、とりあえず、なんだかよくわからんことになっているようだけど、戦力としては申し分ない。


「ディグ! やったね!!」


 と、その背にもう一人、音もなく、誰かが着地した。コルリだ。


「コルリ!!」

「うわっ……」


 思わず抱き着くオレ。

 ああ、よかった。彼女も無事だった。


「ちょ……ディグ、その……」

「あ、ごめん、つい!」


 神域の大空洞で別れてから、こうやって再会するまで、体感時間でおおよそ5日間。

 無事な姿を確認出来て、つい、感情が昂ってしまった。


「べ、別に、謝らなくても……いい」


 耳が垂れ、少し顔を赤くしているコルリ。

 こんな時だけど、可愛いと思ってしまった。

 そして、そんな彼女が握りしめる、二振りの剣。


「その双剣……」

「うん、ヒヒイロカネから鍛えてもらった、私とお姉ちゃんの剣。ディグも……」

「ああ」


 オレは右手に持ったスコップを強く握りしめる。


「アンシィの魂はちゃんとこのスコップの中に入ってる。でも、新しい身体に馴染むのに、少し時間がかかるかもって」


 だから、まだ、アンシィは喋れない。

 それぞれの竜帝からもらった加護の力も発揮できない。

 でも、彼女の魂は脈動として、オレに気持ちをしっかりと伝えてくれる。


「でも、大丈夫だ。今のオレと、こいつの気持ちは一つ」

「うん、だったら、ディグはきっと"最強"だね」


 お互いに頷きあうオレとコルリ、それを引き裂くようにユニオンアルマ(仮)が間へと入る。


『ディグ様!! 私にも! 私にもハグを下さい!! って、何言ってやがるこのやろー!!』


 なんかいろいろ渋滞してるぞアルマ、ジアルマ……。


「それはこいつをぶっ飛ばしてからにしよう」


 なんとか水中の穴からはい出そうとする鋼帝竜を眺める。

 首だけが無防備に海から飛び出した状態、その上で、前衛となるオレ、コルリ、ユニオンアルマ(仮)が揃った。

 今こそ、奴に止めを刺す、絶好のチャンス。


「一気に行こう!」

「うん」

『わかりました! ぶち殺す!!』


 それぞれの武器を構え、遥か上空から、鋼帝竜の頭に向けて、跳躍する。

 そんなオレ達に向けて、奴の頭頂部から角が伸びる。

 アダマンタイト並みの硬度を誇り、圧倒的なスピードで迫る角。

 だが、勢いよく伸びる角の数本が、真横から飛来した光の矢で砕かれた。

 シトリンだ。

 まったく、残り少ない魔力で無茶しやがって……。

 あとで、頭を撫でてやらないとな。 

 シトリンのおかげで、奴とオレ達3人を阻むものは何もない。

 しかし、今度は、頭そのものを硬化し、振り回す姿勢に入った。

 あの首の長さから、捻りを加えて繰り出されるその破壊力は計り知れない。

 しかし、次の瞬間、その首が四方八方から飛び出した光の鎖によって拘束された。

 フローラのホーリーチェインだ。

 首へと絡みついた鎖は、その動きを完全に捉え、強引に真っすぐ引き延ばす。

 生物の脊椎というのは、曲がることで、様々な衝撃を吸収し、力をある程度受け流すことができる。

 こんな風に、まっすぐになってしまえば、力を受け流すことができなくなり、与えられた衝撃は、すべて破壊力となって、その身体を苛む。

 さあ、お膳立ては整った。


「スコップドリル!!」

韋駄天閃(いだてんせん)!!」

破壊者が齎す(ワールドエ)……小間使いが誘う天国(メイドインザヘブン)!! だぁああああああ!!!」


 3人の攻撃が同時に奴の頭頂部に直撃した。

 インパクトの瞬間の、とてつもない手ごたえ。

 それぞれの武器で、斬られ、砕かれ、掘られた頭から巨大な罅が入り、その罅が、瞳へ、顎へ、首へと伝播していく。

 罅に沿って、まるで裂けるチーズのように首の半ばまでが分かれたかと思うと、胴体を残し、鋼帝竜の大きな首と頭が灰となって散った。

 攻撃を終えた、オレ達をパドラがキャッチする。


「やった……!!」


 喜びのあまりか、ユニオンアルマがオレに抱き着いてくる。

 が、いつの間にかその姿は、普段のジアルマに変わっていた。

 どうやらユニオンが解けたらしい。といっても、この感じは、まだアルマの人格のようだけども……うん、あとで詳しく聞いておこう。

 パドラが、オレ達を瓦礫まみれの港へと下ろす。

 すると、援護をしてくれていたシトリンとフローラ、そして、艶姫さんが駆け付けてきた。


「ディグ、やりましたね!!」


 フローラがオレの手を取って、心からの笑顔を向けた。

 ああ、癒しだ。

 とはいえ、さっきの攻撃魔法もよほど残りの魔力を振り絞ってくれたのだろう。

 その顔には憔悴の色が浮かんでいる。

 同じくシトリンも、重そうに身体を引きずりながら、それでも微笑を浮かべた。

 オレはその頭を優しく撫でる。


「シトリンとフローラの援護のおかげだ」

「……ああ、このために頑張れたのだな、自分は」


 シトリンが気持ちよそさうに目を細める。

 かわいい。


「ディグはん」


 続いて、声をかけてきたのは艶姫さん。

 その視線の先には、オレの新たなるスコップ。


「アンシィはんは無事復活できたみたいやな」

「ああ、まだ、喋ることはできないけど」

「良かった……」


 艶姫さんの瞳には涙が溜まっていた。

 彼女なりに、何か思うことがあったらしい。

 と、一歩踏み出したかと思うと、艶姫さんは、アンシィごと、オレを抱きしめた。


「ちょ、艶姫さん……」

「ほんまに……ほんまに、良かったぁ……」


 年上の美女に泣きながら抱き着かれるというこの状況。

 どう対応していいかわからないオレだったが、彼女の心底ホッとしたような表情を見て、なんとなくわかった。

 艶姫さんは、ずっとオレ達を巻き込んでしまった責任を感じていたのだろう。

 でも、そんなオレ達の力を当てにしてでも、イーズマの都を守り抜かないといけない、そんな立場にある彼女。

 気持ちの板挟みにあった彼女は、今、この瞬間、すべての重圧から解き放たれて、一人の女の子に戻った。

 だったら、オレがしてあげられることは一つだ。

 オレは、シトリンにしたのと同じように、艶姫さんの頭を優しく撫でた。

 バカンスの時は、潮風に流れるように艶々で、サラサラだった彼女の髪。

 今は、ほつれ、毛羽立ち、ほこりに塗れている。


「……あっ……」


 触れた瞬間、艶姫さんが、少しだけ驚いたように声を上げた。

 そうして、ほんのわずかな間だけ、嗚咽を漏らす。

 やがて、彼女は自ら、オレの元から離れると、目じりの辺りを指で拭った。


「ディグはん……ほんまにあんたは優しいなぁ……」

「変なところが優しいって、アンシィにも言われましたよ」

「ほんまにそうかも……。うん、今晩は、コルリやなくて、うちがディグはんの部屋に──」


 冗談めかした言葉を言おうとしていた艶姫さんの表情が突然固まった。

 同様にフローラも、シトリンも、アルマも、コルリも、海の方を見て、驚愕の表情を浮かべている。

 もはや、後ろを見ずともわかった。

 オレは、アンシィを構えて、振り返る。

 そこには胴体だけを残した鋼帝竜の姿があった。

 だが、その巨体が徐々に持ち上がり、空へと浮かぶ。

 空へと浮かんだ巨体から、損傷が激しかった身体の大部分が削げ落ちた。

 そうして、銀色の奴の身体が、まるでパチンコ玉のように球体へと変化する。

 じくじくと液状化した銀色の表皮は、金属同士をつなぎ合わせる半田のようだ。

 ながて、球体はさらに形状を変え、首が生え、手足が伸び、そして、羽が生えた。

 そうして変体が終わった時、現れた姿は、元々の鋼帝竜をよりシャープにしたような見た目だった。

 身体は二回り以上小さくなったが、以前はなかった鋭利な翼が、その背中から生えている。


「こいつ……まだ生きて……!?」


 瞬間、奴が、その大きな翼で羽ばたいた。

 突風が港の瓦礫を次々と吹き飛ばし、オレ達は、なんとか地面に踏みとどまるので必死だ。


「くそっ、こいつ不死身なのか……?」

「いや、奴は不死身じゃない!」


 そう言ったのはシトリン。


「今の身体の変化で、奴はかなりの魔力を使った。魔力は奴の圧倒的防御力の要。ボク達は確実に奴を追い詰めている」


 なるほど、見た目の上では完全回復したように見えるが、神視眼を持つシトリンには、鋼帝竜の残る魔力の量がわかる。

 シトリンがそう言っているのならば、勝機は十分。

 しかし、そんなオレの気持ちとは裏腹に、奴の翼に大量の突起物ができたと思うと、羽の振りと同時に、それらが港や街々へと飛来した。

 アダマンタイト級の硬度を持つ、槍のようなものが降り注ぎ、そこかしこで建物が倒壊する。


「ああっ! 都が!!」


 艶姫さんの悲痛な声。

 ここで手をこまねいているわけにはいかない。


「みんな……手を貸してくれ!」

「はい!」「ああ!」「わかりました!」「うん!」


 仲間たちの声がハモる。

 さあ、ファイナルラウンド。

 絶対に、オレ達は、奴を砕く!!

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