099.ディグとアンシィ
「パドラ!!」
「ピギィ!!」
アルマの指示に、パドラが再びオレ達を乗せて飛び立つ。
目指すは遥か上空に浮かぶ、鋼帝竜。
しかし、もちろん、簡単にその元まで行かせてくれる奴じゃない。
鋭い牙の生えた口を開くと、衝撃波が飛んできた。
空気を伝う衝撃の波に、パドラでも回避が敵わず、オレ達はそれを諸に受ける。
「くっ……!?」
耐えられないほどじゃない。
だが、明らかに飛翔ペースの落ちたパドラの元に、今度は、あの槍が降り注ぐ。
回避するのは不可能。迎撃するために、スコップを構えたオレだったが、まるで、何かの壁に押されたかのように、槍が途中で軌道を変えた。
シトリンのエアウォールだ。
さらに、奴の頭の上、遥か天空に光が満ち満ちた。
「スターライト!!」
おそらく最後の魔力を使ったフローラの強力な魔法が奴に向かって降り注ぐ。
しかし、奴は大きく羽ばたくと、身を捻って、それを見事に回避してみせた。
身体が二回り小さくなった上に、羽を得た鋼帝竜。機動力は今までの比じゃない。
そのままさらに上空へと飛翔する。
その背を追って、パドラが飛ぶが、オレ、アルマ、コルリを乗せてることもあってか、その速さに追いつくことさえできない。
「パドラ! 頑張って!!」
「ピ、ピギィ!!」
そうして、こちらが追い付くよりも早く、鋼帝竜が太陽を背にして振り向いた。
いつの間にか、奴の口元にはエネルギーが充満している。
「ブレス!? 避けて!!」
コルリが叫び、パドラが何とか急制動をかけ、身を捻る。
しかし、間に合うわけもない。
「えっ!?」
やばいと思ったその瞬間、パドラがオレ達を振り落とした。
いや、違う。その身体が一気に巨大化したのだ。
今までもパドラは胸の谷間に収まるサイズから、馬車を引っ張るときの馬の2倍ほどのサイズまで自由にその大きさを変えてきた。
今回の大きさは、ほとんど屋敷一軒分くらい。
今の鋼帝竜に比べても、遜色ないほどの大きさまで膨れ上がると、ブレスを真っ向から受け止めた。
もふもふの毛が、ブレスに焼かれ黒ずんでいく。
「ピギィイイイイイイイ!!」
「パドラ!!」
悲鳴を上げるパドラだが、それでも空中のオレ達を守るように壁となる。
やがて、ブレスが収まると、パドラは力尽きたように小さくなり、海へと落ちていった。
同じく、空中に投げされたオレ達も海へと落ちていく。
「くそっ、パドラ……!」
オレ達を守るために傷ついたパドラ。
その仇を討ちたいところだが、パドラという翼を失ったオレ達は、空中で無防備な姿をさらすばかり。
そこへ、再び鋼帝竜が突撃してきた。
身動きの取れないオレ達を空中でしとめるつもりだ。
「ディグ様!! コルリ様!!」
「えっ……」
アルマが大剣を構えると、オレとコルリをその刀身の腹に乗るように促した。
「私が、お二人をもう一度奴の上まで打ち上げます!!」
「そんなことしたら、アルマが……!」
「パドラちゃんも身体を張ったんです! 私だって……。それに、身体だけジアちゃんから借りてる私は、攻撃面でもお二人ほど役には立てません。だから……」
そんなことを話している間にも、鋼帝竜はものすごい早さで迫っている。
「さあ、早く!!」
判断する暇もなく、オレとコルリはアルマの構える大剣へと乗る。
すると、アルマは思いっきり大剣を振りかぶった。
「行ってくださぁああああああい!!」
ジアルマの剛腕で、オレとコルリの身体が上空へと吹き飛ばされる。
次の瞬間、大剣を構えたアルマに鋼帝竜が衝突した。
二回りほど小さくなったとはいえ、人間とは比較にならないほどの巨体。
その上、飛行による加速で勢いを増したその突進は、アルマをまるで弾丸のように、港へと吹き飛ばした。
「アルマァ!!」
「ディグ、今!!」
一瞬アルマに気を取られたオレ。
だが、そのアルマが作ってくれたチャンスを、オレが無に帰すような真似はできない。
オレはアンシィを構えると、その刃の上に、コルリを乗せる。
やることはアルマと同じだ。
一瞬動きの止まった奴の元へ、コルリを吹き飛ばす。
「行け!! コルリ!!」
「はぁああああああ!!!」
全力でアンシィを振り抜く。
すると、コルリは雷の如く、鋼帝竜に向かって飛翔した。
マグナム弾のように身体を捻り、勢いを増しながら、コルリが双剣を振り抜く。
瞬間、鋼帝竜の左右の羽に、一筋ずつの亀裂が入る。
「ゴォオオオオオオオオ!?」
だが、さすがは竜の帝王とでも言おうか。
傷の入った翼で強引に羽ばたくと、そのまま海へと落ちていくコルリに、追い打ちとばかりに、槍を放った。
大量の槍が降り注ぎ、海の至る所で水しぶきが上がる。
「くそっ……これでも無理なのか……」
と、次は、奴の赤く光る瞳が、上空のオレの姿を捉えた。
再び奴の口内にエネルギーが溜まる。ブレスだ。
パドラがいない以上、オレには、もうそれを回避する手段も、防御する手段もない。
「万事……休すか……」
いや、まだだ。
オレが来るまで、フローラも、シトリンも、アルマも、ジアルマも、コルリも。
パーティの仲間達は、みんなボロボロになるまで頑張ってくれたのだ。
リーダーのオレが、こんなところであきらめていいわけがない。
「オレは……オレは……」
アンシィを強く強く握り込む。
「絶対に……負けない……!!」
ブレスが発射される。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
迫りくるブレスに向かって、オレはスコップを構えた。
その瞬間だった。
【条件が揃いました。<概念スキル「ほる」>を獲得しました】
「えっ……?」
突然脳内に響くシステムアナウンス。
瞬間、まるで時間が止まったように、周りの風景がゆっくりになった。
白い光の帯がオレへと迫ってくる。
圧倒的なエネルギー量を誇る、鋼竜帝のブレス。
それに焼かれれば、人間なんてひとたまりもない。
けれど、オレにはその暴力的な光の奔流の中に、一筋の道が見えた。
オレは自然とその道をまっすぐにつらぬように、スコップを突き出す。
すると、次の瞬間。
周りの景色が、普段と同じように戻る。
一瞬で通り過ぎる光の帯。
そして、オレは、その光が過ぎ去ってなお、無傷のまま空中に佇んでいた。
えっ、今、オレ……ブレスを"掘り抜いた"のか……?
「さっすが、アタシの相棒ね!」
「…………えっ……?」
声が聞こえた。
システムアナウンスの無機質な声とは全然違う。
耳に馴染んだ、明るい、あの声が。
「アンシィ……?」
「はぁ、やっと喋れるようになったわぁ。ようやく自分の身体って実感できてきた気分ね」
「お、お前……!!」
ぶわっと、目に涙が湧き出た。
「なによ。再会はもうとっくに済んだ後でしょ」
「け、けど……お前の声聞いたら……」
感極まってきちまったんだよ。
「もう、泣き虫ねぇ。とりあえず、アタシも喋れるようになったら、まず、伝えたいことあったから、言っておくわ」
と、アンシィはわざわざ人間の姿になると、最高の笑顔で言った。
「ありがとう!」
それは、試練の時にも見せた彼女の"楽しい"の表現。
オレがこの世界でずっと見続けてきた、彼女の心からの気持ちの表出。
何物にも代えがたい、オレにとっての最高の宝物。
ドクン!
心臓が跳ねた。
どうにかなってしまいそうな高揚感。
求めていたものが、返ってきた実感。
そして、これからも、彼女の笑顔を見続けていきたいという願望。
すべての感情がより合わさり、手綱のように強く、強靭になっていく。
ああ、今のオレは……いや、オレ達は。
「無敵だ!!」
「えっ!? 何よ、突然?」
「お前が"大好き"だってこと!!」
「はぁ?」
わけがわからない、という顔をしつつも、アンシィは笑っている。
ああ、そうだよ。オレは、この笑顔を見続けたい。
だからこそ、その障害は2人で一緒に取り除く。
右手と左手、それぞれの手を握りながら、オレ達は高エネルギーのブレスを連射し、動きを止めた鋼帝竜へと、緩やかに落下する。
「オレ、なんかさ。凄いスキルをゲットしたみたいだ」
「うん、アタシにもわかる。なんとなくだけど」
「そっか。じゃあさ、そのお披露目といこう」
「そうね。おあつらえ向きに、めちゃくちゃ目立つ場所だしね」
港の上空、数百メートル。
きっとみんなもオレ達の事を見守ってくれているんだろう。
アンシィが、再びスコップの姿へと戻る。
「オレは、スコッパー」
「アタシは、スコップ」
「オレに」
「アタシに」
『ホレないモノはなし!!』
嵐帝の加護を身に纏い、オレとアンシィは、鋼帝竜へと一直線に降下した。




