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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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091.2人の魔法使い

「わわっ、本当に撃てちゃいましたね……」

「どうやら、ボク達が眠っている間に、いろいろあったらしいな」


 シトリンが、自らの冒険者カードを改めて確認するように眺める。

 そこに表示されているレベルは92。

 聖塔の攻略でそれなりにレベルが上がったとは言え、まだ、60を超えるか超えないかというところだったはずだ。

 かく言う私もシトリンと同レベル帯だったはずなのに、いつの間にかレベルが94に到達していた。

 気が付けば、冒険者カードのスキル欄にも、見知らぬ魔法がいくつか追加されている。

 今放ったのは、天空から聖なる光の帯を降らせる攻撃魔法「スターライト」。

 高レベルの失われし神の回復術士(ロストヒーラー)のみが扱えるらしい伝説級の魔法を、私は撃ててしまった。

 どうやら、本当に、私たち、寝てる間に強くなってしまったらしい。


「ディグ達、大丈夫でしょうか?」

「わからない。少なくとも地下シェルターというところにはいないようだったし。とにもかくにも……」


 シトリンが真っすぐに正面を見据える。

 そこには、同じくこちらを……イーズマの都をまっすぐと見据える鋼帝竜の姿があった。


「都を守り抜かないと。話はそれからだ」

「ですね。きっと、ディグだって、同じ状況なら、必死に都を守ろうとするはずです」


 シトリンと頷き合うと、私たちはウエスタリアで手に入れたそれぞれの武器を構えた。

 その時、私たちの背後から、巨大な火球が一直線に鋼帝竜へと飛翔した。

 火球は鋼帝竜の胸の辺りに直撃すると、大きな爆発が起こる。


「これは……?」

『フローラはん! シトリンはん!!』

「この声は……艶姫か?」


 シトリンが神視眼を輝かせ、振り返った。

 都の中でも一層高い建物、その物見やぐらのようにせり出した部分に、艶姫さんが立っていた。

 どうやら、今の大火球は、艶姫さんが放った魔法であるらしい。

 同時に、港の各所に冒険者達が現れる。ほとんどは魔法使い系の職業だが、中には弓や砲などを構えたものもいる。

 冒険者達は、ある者は火球を作り出し、ある者は風を操り、また、ある者は疾風の如き弓で、鋼帝竜へと波状攻撃を開始した。

 総勢100名ほどの一斉攻撃。ここまで大規模な集団戦闘を見るのは初めてだった。

 状況がつかめずにいると、私たちの元に、艶姫さんが何やら大きな紙の羽をつけて、滑空してきた。

 近くまで来ると、その翼を取り外して、私たちのすぐそばに着地する。


「艶姫さん!」

「お二人さん! 身体は大丈夫なんか!?」

「ああ、問題ない。随分寝て、むしろスッキリしてるくらいだ」


 シトリンが答えると、艶姫さんはホッと息をついた。

 どうやら、私たちのことを相当心配してくれていたらしい。

 今も、目を覚まさなければ、私たちは地下シェルターというこの都の中で一番安全な場所へと連れて行かれるところだった。

 もしかしたら、私たちが意識を失っていたのは、自分のせいだ、なんて思っていたのかもしれない。

 気にしないように伝えようと思ったが、今は、そんなことを話していられる状況でもない。


「状況はあまりよくないと見える」


 冷静に冒険者達の攻撃を分析するシトリンがつぶやく。

 100名を超える冒険者達の波状攻撃も、すべて鋼帝竜の強固な鱗に阻まれてしまっている。

 進む速度こそ遅くはなっているが、あまり長い時間は保たないだろう。


「ああ……あいつの鱗はアダマンタイト製。今の戦力で貫くのは正直厳しい」


 艶姫さんの苦虫をかみつぶしたような顔。

 確かに、失われし神の回復術士(わたし)の大魔法でも少し怯んだ程度で、大きなダメージには至らなかった。


「そやけど、"今の2人"の助力があれば、あいつを足止めするくらいはできるかもしれへん!」

「なるほど、何か切り札があるのだな」


 艶姫さんの言葉にシトリンが頷きながら言う。


「ああ、とびきりの切り札がやってきてくれるはずや」

「わかった。ならば、今はボクの役目をこなすのみ」


 シトリンが弓に光の矢を番えた。

 レベルアップの影響か、はたまた神視眼を全開にしているからか、普段の光の矢よりもずっと大きく、激しい光を放っている。

 紫電すら纏った弦を引き絞り、放つ。

 すると、目にも写らないほどの初速で放たれた矢が、鋼帝竜の鱗を"貫いた"。

 再び鋼帝竜の咆哮が港に響く。


「なっ……!?」

「ふむ、今のボクなら、ピンポイントで魔力を収束すれば、あいつの鱗を何とか貫けそうだ」


 感触を確かめるように弓を2、3度握りなおすシトリン。

 どうやら、私と同じく、シトリンも相当強くなっているようだ。

 確かに、今の私とシトリンなら……。


「艶姫さん、一つだけ教えて下さい。ディグは……ディグとアンシィは来てくれますか?」


 私の問いかけに一瞬、言葉を詰まらせた艶姫さん。

 でも、閉じた目が再び開いたとき、彼女は強い瞳で私とシトリンを見つめていた。


「うちは、信じとる」


 それは、信頼に足る言葉と顔つきだった。


「それだけ聞ければ十分です」

「ああ」


 私とシトリンは改めて、鋼帝竜に向きなおる。

 やることは一つ。

 2人の力を全部使って、ディグが来るまでの時間を稼ぐこと。


「シトリン、行きましょう!」

「ああ、フローラ。ボク達の力を鋼帝竜に見せつけてやろう!」


 ともに光の魔力を持つ私たちは、お互いの武器に、ありったけその力を込めた。


「スターライト!!」

「シャイニングアロー!!」


 大量に魔力を消費する感覚と共に、再び天空から光が降り注ぐ。

 同時に、シトリンの光の弓が、奴の鱗を粉砕していく。


「こ、この娘ら……」


 艶姫さんが再び驚愕の表情で私たちを見ていたが、すぐに、キッと向き直り、自身もさきほどよりも巨大な火球を鋼帝竜へと放つ。

 私たちの攻撃に鼓舞されたのか、周りの冒険者達の攻撃も一層激しくなりだした。

 そんな様子に、私もさらに気分が高揚してくる。


「もう1発行きます!! スターライトォ!!」 


 本日3発目。

 失われし神の回復術士(ロストヒーラー)である私の魔力量は常人の魔力量の数十倍は下らない。

 それがレベル90を超えた今、ちょっとした魔力タンクと言っても良いくらいの魔力が身体に満ち満ちているのを感じる。

 その上、正式な魔法には分類されないであろうヒールバーストを除けば、攻撃魔法を使うのは初めての経験だ。

 回復魔法と違って、ただただ魔力を全開にして放つだけのこの魔法は……正直、私と結構相性が良いようで。


「スターライト!!」


 矢継ぎ早にきらめく天の光に、さすがの鋼帝竜の鱗も、少しずつボロボロと剥がれ落ち出した。


「す、凄すぎる……」


 誰かがポツリとつぶやいた。

 周りの冒険者達も思わず手を止めて、呆然としている。

 若干引かれている気がしないでもないが、今は、そんなこと気にしている場合じゃない。


「スターライト!!!」


 さらに一発、今度こそ、かなりの数の鱗が粉砕された。

 うん、私いける!


「フローラ、無理はするな!」

「大丈夫です! まだ、魔力には余裕が──」

「ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!」


 大きなダメージを受けた奴が、再び叫びを上げる。

 いや、これは叫びじゃない。


「振動波か……!?」

「うわぁあああ!?」


 鋼帝竜の咆哮が空気を揺らし、私たちの身体を激しく揺さぶる。

 石造りの埠頭にもひびが入り、港の建物の一部が崩壊した。

 さらに、それだけじゃない。


「波が来るぞぉおおお!!!」


 近くにいた冒険者の誰かが叫んだ。

 振動に加え、鋼帝竜のストンプが生んだ波が、港へと押し寄せてくる。

 高さは優に2階建ての建物を超える。

 そのまま直撃すれば、港はもちろん、そこで戦っている100名を超える冒険者達への被害も甚大なものになる。


「安心しろ、フローラ。はぁあああ!!」


 シトリンの神視眼が金色の光を放つ。

 神視眼は、様々な特殊能力を有するだけではなく、彼女の魔力の源泉でもある。

 それが、これだけの光を放ったとすれば、私のスターライトに匹敵……あるいはそれをも超える魔力が集中しているということ。


「絶対にみんなを守って見せる!! はぁあああああああ!!!」


 瞳から腕へと伝った魔力が、今度は空気へと伝播し、周囲の空気を押し固める。

 シトリンの防御魔法の一つ、エアウォール。

 ただし、レベル60前後だった時とは、その範囲が違う。

 港全体を覆うほどに巨大化した空気の壁は、襲い来る大波と真正面からぶつかった。

 水の重さというのは、かなりのものだ。

 当然、津波となったその力は、人間、ましてや、個人が抗える者ではない。

 しかし、そんな圧倒的なパワーをシトリンは、衝突の瞬間、あえて、エアウォールを緩めることで、衝撃を受け流し、完全に防ぎきっていた。

 

「おおおおおおおおっ!!」


 冒険者達から嬌声が上がる。

 だが──。


「また……!?」


 艶姫さんの呆然とした声。

 今までは、襲い掛かってくる者など、歯牙にもかけていなかった鋼帝竜。

 どんな攻撃をも無視して、ひたすら歩み続けてきた竜が、今、その足を止め、明確な殺意を持って、再び足を振り下ろす。


「どうやら、本気にさせてしまったようだな……!」


 シトリンの頬を一筋の汗が流れ落ちた。

 鋼帝竜は、私達2人をはっきり脅威の対象と認識したようだ。

 奴の足元から、再び大波が発生し、港を襲う。


「艶姫、他の冒険者を退避させてくれ」

「そ、そやかて……」

「そうすれば、ボクの防御魔法の範囲を狭めることができる」 


 頭の良くない私でも、シトリンの言いたいことはわかった。

 足手まといだと、そう言っているのだ。

 艶姫さんも、冒険者達による波状攻撃の有効性よりも、シトリンの負担軽減の方が、実際的に価値があると判断したのだろう。

 苦々しそうな、それでいて、申し訳なさそうな表情を浮かべると、振り返る。


「全員聞けぇ!! 退避する!! 市中の安全なポイントへ一旦身を退け!!」

「で、でも……って、うわぁああ!?」


 波がすでに近くまで迫っていた。

 シトリンがエアウォールでその波を受け止めるが、やはりそう何度もできることじゃない。

 冒険者達は、頷き合うと、一人、また、一人と港から街中へと走り去る。


「フローラはん、シトリンはん……すまん」

「大丈夫だ! 艶姫も一旦退避していてくれ」

「いや、うちはここにいさせて。これでも東の代表や。命を張る義務がある。それに……」


 シトリンの肩に、艶姫さんが手を乗せる。

 すると、触れたその場から光の粒子が、シトリンの身体へと吸い込まれていく。魔力が流れ込んでいるのだ。


「これでも魔力とその制御には多少自信があるんや。予備魔力とでも思うて、使こうてやって」

「ありがたい……でも、やばくなったら、本当に逃げてくれ」


 そんな会話をしているうちにも、鋼帝竜は3度目のストンプを繰り出そうと足を大きく振り上げた。


「させません! スターライト!!」


 後ろ脚だけで立った状態の鋼帝竜に、スターライトが直撃し、大きく体勢を崩す。

 そのまま倒れ伏すかと思った鋼帝竜の瞳の色が"赤"に変わった。

 獰猛な猛禽類に酷似した瞳。


「ブレスか!?」


 ドラゴンの真骨頂。

 今まで一度も使わなかったそれの発射体勢に入る鋼帝竜。

 圧倒的なエネルギーの奔流が、巨大な体の各所から口内へと集中する。


「くっ、これは、エアウォールでは……!?」


 物理的な攻撃を防ぐのに適したエアウォールであるが、エネルギーそのものを吐き出すような竜帝のブレス攻撃には効果が薄い。


「ホーリーチェイン!!」


 レベルが上がったことで、より太く強靭になったホーリーチェインが鋼帝竜を拘束しようとするが、あまりの巨大さに、その動きを拘束しきることはできない。

 艶姫さんも、暴発を狙ってか、鋼帝竜の首から上に向けて、火球を放つも、近づいただけで、エネルギーの余波を受けて爆発してしまう。

 これは……まずい。


「シトリン!!」

「ああ、退避するほか……」


 だが、その判断は遅かった。

 一瞬後、鋼帝竜のチャージされたエネルギーがその口内から発射された。

 圧倒的なパワーが銀色の帯となって、私達へと迫る。

 それはいつか見た嵐帝竜のブレス攻撃をも優に超えているように思えた。


「あかん……!!」


 防御も回避もままならない状況。

 シトリンがエアウォールを展開するが、このエネルギー量に対しては、とても……。

 万事休すか、と思われた、その時だった。

 鋼帝竜の放ったブレスが、まるで何かに断ち切られるように"真っ二つに裂け"霧散した。

 エネルギーの余波で蒸発した海水の蒸気だけがもくもくと空へと上がる。

 その白い霞の中を、海に浮かぶ壊れた船の残骸の上に、スタリと着地する影。

 ピンと立った耳にもふもふのしっぽがついたその影を見た瞬間、艶姫さんの顔に驚喜の感情が浮かぶ。


「待たせすぎやで……」


 風が吹いた。

 霞が晴れたその瞬間、まるで海に直接立っているかのように現れたその人物は、風にその長い裾をなびかせながら、2本の剣を構え、鋼帝竜と対峙していた。

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