090.極東武神イーズマジン
「極東武神イーズマジンのうた」
唄 ササニシキ イサヲ
花魁坂46(コーラス)
(1番)
イーズマズマズマジンゴー!
イーズマズマズマジンゴー!
遥か東の平和な都 荒ぶる悪が牙を剥く
逃げ惑う人々 飛び交う悲鳴(キャ~!)
だが、待て、奴がいる! 我らが防人!
(イーズマジーン、ゴー!!)
唸れ、剛腕!! トタンインパクト!!
放て、剛脚!! ベニヤブレイカー!!
ああ、奴こそ! 奴こそ、我らの!!
無敵の守護神!!
(2番)
イーズマズマズマジンゴー!
イーズマズマズマジンゴー!
諸行無常の──
「なんや、この大音響の歌はっ!?」
「ふふっ、あの坊主が"巨大ろぼっと"には"てーまそんぐ"が必須やと言うとったからのぉ。ちょっと仕込んでおいたんじゃ」
こんなもん用意する暇あるなら、もっと用意するべきもんがあるやろう……。
「っていうか、花魁坂46まで勝手に巻き込みよって」
「だって、わしお得様じゃしー。優待札持ってるしぃ」
くっ、このネコじじい……。
職人としての腕が良くなかったら、国外追放にでもしてやりたいくらいや。
「まあ、歌は置いとくにしても……」
作戦室の窓から、件の"ろぼっと"の様子を眺める。
鎧を着た武者を巨大にしたようなその見た目。赤くカラーリングされた装甲。
確かに見様によっては強そうではあるが……どことなく信頼できない。
それに、一応歩いてはいるのだが……遅っ。
「ジャスパー。あれ、使いもんになるんか」
「無論じゃ。あれの歩みが遅いのは搭乗者の問題じゃ。おいっ! ブルート! ちまちま物にぶつからんよう歩かんでいい!! 敵はもう来とるんじゃぞ!」
『で、でも、親方ぁ!』
さっきから、都の家々を壊さぬようにと、抜き足差し足で歩いていた"ろぼっと"の搭乗者が泣きそうな声を上げる。
うん、明らかに慣れていない感じが凄いんじゃ。
「鋼帝竜に上陸されたら、街なんて一瞬で粉微塵じゃ。多少の被害には艶姫嬢も目をつむってくれる。とにかく走れぇい!!」
『うっ、わ、わかりましたぁ!!』
巨大な"ろぼっと"が、一瞬ビシッと直立したかと思うと、ぎこちない姿勢で、走り出す。
一歩が人間の数十倍あるだけあって、さすがに速い。
しかし……。
「なあ……ちょっと勢いありすぎじゃ……」
『お、親方ぁああ!! 止まりませーーーん!!!!』
ほら、やっぱり。
「止まらんで構わーん!! そのまま鋼帝竜までジャンプじゃ!!」
『ええええええっ!!?』
港まで、メインストリートを走り切った"ろぼっと"は、その勢いのままにジャンプをした。
「補助ブースター点火!」
『うわぁああああああああああああああ!!!』
そのまま沖合3km付近まで到達していた鋼帝竜に向かって、背中から火花を散らしながら、ものすごい速度で飛翔する。
「今じゃ! "例のアレ"を叫べぇ!!」
『ええええ!? えっと……ご、剛脚、ベニヤブレイカー!!』
搭乗者であるブルートの言葉と共に、今までのどことなく情けない動きから、美しいキックの形へと"ろぼっと"の姿勢が変わる。
どうやら、音声認識というやつらしい。
「説明せねばなるまい!」
いや、突然、どうした。ジャスパー。
「剛脚! ベニヤブレイカーとは、ベニヤ板127枚を一撃で粉砕するイーズマジンのスーパー必殺技である」
「いや、威力がわかりにくいわ」
とにもかくにも、あれだけの質量を持つ物体の飛び蹴りや。
その破壊力には多少期待できる。
『うぁあああああああああああああああ!!』
搭乗者の悲鳴を響かせつつも、"ろぼっと"の飛び蹴りが、鋼帝竜の胸の辺りに直撃した。
せやけど……。
『ひぎゃああああああああああああああ!!』
「弾き返されとるやないか!」
「くっ、やはりベニヤ板127枚を貫く程度の威力では、アダマンタイトでできた奴の鱗を砕くことはかにゃわんか!」
想定内かい!!
「あー、コルリ!! なんで通信繋がらんのや!!」
「待てい!! まだ、負けたわけじゃにゃいわい!!」
「そないなこと言うても」
弾き返された"ろぼっと"は盛大な水しぶきを上げて、海に落下するも、ようやく膝下辺りまでを水に浸かりながら、立ち上がった。
しかし、改めて見てみると……サイズ感が微妙だ。
いや、街中にいた時は、なかなかの巨体だと思ったのだが、鋼帝竜と対峙すると、随分と小さく見える。
っていうか、せいぜい鋼帝竜の膝くらいまでの大きさしかないやん。
「無理じゃね……」
「無理じゃにゃい!! ブルート、次の技じゃ!!」
『えっ!? あ、そうだ……えーと、ご、剛腕! トタンインパクト!!』
「説明せねばなるまい! 剛腕! トタンインパクトとは、トタン板83枚を──」
「もう、それはええ」
轟音と共に、"ろぼっと"の両腕の肘から先の部分だけが、鋼帝竜に向けて、発射された。
いわゆる"ろけっとぱんち"というやつだそうだが、果たして鋼帝竜に効果があるのか……。
そもそも当たるんやろか……。
と、そんなうちの不安をよそに、必殺の"ろけっとぱんち"は見事に鋼帝竜の首の根元辺りに命中した。
しかし、やはり鋼帝竜の硬い鱗は貫けない。
「やっぱ無理やー!!!」
「ふん! 目的を見失うにゃ!! 貫けずとも、要はこれ以上"進ませなければ"いいんじゃ!! ブースター!! フルパワー!!」
ジャスパーが何やら手元の操作盤をいじると、腕の後方から出る、火花が一層激しくなった。
そして……。
「ゴォオオオオオオオオオオオオ!?」
港に、初めて、鋼帝竜の咆哮が響き渡る。
パワーを全開にした"ろけっとぱんち"は、あの鋼帝竜の巨体を押し戻しつつあった。
「す、凄いやないかっ!!」
「当然じゃ!!」
「このまま街から遠ざけるんや!!」
「任せろ!!」
ジャスパーがさらに操作盤のつまみを絞った。
すると、火花がさらに激しく迸り、鋼帝竜を押し返す速度も上がる。
やっぱ、凄いやないか、ジャスパー!!
……と思ったのもつかの間。
「あれ、火花が……?」
ぴたりと止まった。
「ああああああ!! パワーを上げすぎた!! オーバーヒートじゃああ!!!?」
「やっぱダメやないか!!!」
勢いをなくし、あえなく海へと落下する2つの腕。
再び前進し出す鋼帝竜、そして、前には、肘から腕を失くし、おろおろする"ろぼっと"の姿。
『親方ぁ!! どうしたら!!?』
「えーい、うろたえるにゃぁ! まだ、そいつには武装が残されている! マニュアルは読んだじゃろう!!」
『あ、そ、そうだった……えーと、確か、ドリルクラッシャーっていう武装が……』
「そいつはまだ、開発途中じゃ」
『えっ、じゃ、じゃあ、大斬剣イーズマジンブレード!』
「それもまだ未実装」
『えー!? そ、それじゃ、ば、バーニングイーズマビームは?』
「年貢ジェネレーターが安定してないので、撃てにゃい」
『全部、ダメじゃないですかぁあああああ!!!』
「まあ、待て! まだ、そいつには強力な技が残されとる!」
『きょ、強力な技……?』
「そうじゃ、その名も、イーズマジンボンバー!」
『イーズマジンボンバー!! そ、それは一体……!!』
「説明せねばなるまい! イーズマジンボンバーとは……ただの体当たりである。当たって砕けろぉ!!」
『そ、そんなぁ!!!』
と、親方と弟子の不毛なやり取りをしている間に、もう"ろぼっと"のすぐそばまで鋼帝竜はやってきとった。
そして、大きく口を開く。あの体勢は……。
「お、音波が来んで!!」
「にゃ、にゃんだと!? ブルート、耳を塞げ!!」
『えっ!?』
慌てて耳を塞ごうとする搭乗者だったが、時すでに遅し。
咆哮とともに振動波が放たれ、"ろぼっと"は目の前でそれをもろに受けた。
「ブルート!! ブルートォオ!!」
「あかん……あの距離は……」
眼前で強烈な振動波を浴びせられた"ろぼっと"は膝から海へと倒れ伏した。
あの様子だと搭乗者は意識を失っとる。
そんな"ろぼっと"を踏みつぶさんと、鋼帝竜が一歩足を踏み出す。
「起きんかい!!」
「起きるんじゃ、ブルート!!!」
うちとジャスパーの叫びも空しく、"ろぼっと"は立ち上がる気配もない、
そもそも通信装置すら破壊されてしまったのかもしれん。
巨大な脚が、踏みつぶすように"ろぼっと"へと大きな影を落とした……その時。
「スターライト!!」
煌々と女性の声が響き渡った。
すると、空から巨大な光の柱が鋼帝竜へと飛来した。
圧倒的な光の奔流が、鋼帝竜の全身を灼くように蹂躙する。
「ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!!?」
さっきの"ろけっとぱんち"の時以上に、叫び声を上げる鋼帝竜。
「こ、これは……」
うちが用意した魔法遊撃部隊は、街の最終防衛ラインとして、まだ、市中で待機しとる。
やとしたら……。
気が付くと、港の埠頭の先に、2人の女性の姿があった。
白と緑の神官着に身を包んだ少女と、額に第3の眼を持つ、小柄な少女。
「フ、フローラはんとシトリンはん……?」
東冒険者組合の医務室で、寝ているはずの2人が、杖と弓を手に、真っ向から鋼帝竜と対峙しようとしとった。
 




