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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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077.理由・葛藤・すれ違い

「はぁ……はぁ……あいつ、どこ行ったんだ……?」


 アンシィを追って、岩場までやってきたオレだったが、その姿はどこにも見当たらない。


 ゴォオオオオオオオオオオ……。


「えっ……?」


 また、何か唸り声のようなものが聞こえた。

 森の中で一瞬聞こえた音と同じものだ。

 どこから聞こえてきているかはわからない。

 だけど、なんだろう。なんだか嫌な予感がする。


「アンシィ! アンシィ!!」


 急な不安感に襲われて、オレはアンシィの名を呼んだ。


「うるさいわねぇ……」

「うわっと!?」


 闇夜の中、突然背後から現れたアンシィに一瞬ビクッとなる。

 ど、どこにいたんだよ、こいつ……。


「どうしたんだよ。こんなところで……。スイーツ無くなっちまうぞ」

「別に……ちょっとね……」


 いつもの能天気な様子とは明らかに違うアンシィの態度。


「……ちょうど良い機会だわ。あんたに聞きたいことがあるの」


 いつになく真剣なその表情に、なぜだか背筋の辺りがビクッとなる。


「な、なんだよ……?」

「あんたさ。もしかして……戦うことにビビってるんじゃないの?」

「……はい?」


 それはオレにとってあまりにも意外な問いかけだった。


「いやいや、別にビビってなんか……」

「そうかしら。昨日といい今日といい、あんたは敵に攻撃するのを躊躇ったわよね」

「あ、いや、それは……」


 変な声が邪魔をするんだ。そう言おうとしてグッと言葉を飲み込んだ。

 アンシィにそれを伝えて良いものだろうか。

 変に心配をかけるだけじゃないだろうか。

 葛藤をしつつ、言葉を返せないうちにも、アンシィは続ける。


「聖塔でのジアルマとの戦い。そこでボロボロにされて、あんた戦うことが怖くなったんじゃない?」

「あっ……」


 確かにそうだ。

 オレはジアルマとの戦いで、この世界に来て初めて、心からの恐怖を感じた。

 今までも強敵と出会うことはあった。

 魔人と初めて出会った時は、シトリンがいなかったら死んでいたかもしれないし、レナコさんと一緒に立ち向かった嵐帝竜も決して敵う気はしない相手だった。

 だけど、それらはすべて人ならざる存在だ。同じ人間であるジアルマという個の力に、あれだけ蹂躙され、傷つけられた経験は、確かにオレの中に陰を落としている。

 ましてや、そのジアルマは、オレとの戦いでは大きく手加減をしていたことも明らかになった。

 オレは心のどこかでジアルマを恐怖している。

 その自覚はある。けど……。


「違う……違うんだ……」

「何が違うのよ?」

「違う……オレは……オレは……」

「あ、ディグ様ー! アンシィ様ー!!」


 アルマの声が聞こえ、オレはビクッと身を震わせた。


「ア、アルマ……」

「もう、何も言わずに言ってしまうんですから……。シトリンさんがこちらの方にお2人がいると教えてくれたので、呼びに来ました!」

「ああ、ごめん……」


 笑顔で、こちらへと歩いてくるアルマ。

 そんなアルマに対して、自分でも緊張をしているのがわかった。

 ジアルマではない、普段のアルマとは今まで、何の問題もなく普通に接してきた。

 だが、アンシィの指摘が的を射ていたのだろうか。確かに今、オレの身体は強張っていた。


「どうかしましたか?」

「なんでもないわ。さあ、戻って、スイーツを食べるわよ!」

「そうですよ。早く戻らないと、フローラ様にみんな食べられてしまいます!」


 さっきまでの様子はどこへやら、普段の調子で、アルマと共にペンションの方へと戻っていくアンシィの背中。

 その背に、今まで感じたことのなかった距離をオレは感じていた。




 ペンションに戻ると、それぞれあてがわれた個室で、就寝ということになった。

 バカンスは明日の午前中まで。午後には皆で、内地まで戻り、東冒険者組合の本部に顔を出す予定だ。

 しかし、そんな今後の予定のことよりも、オレの頭の中は、アンシィから言われた一言でいっぱいだった。


『戦うことにビビってるんじゃないの?』


 本当にそうなのだろうか。

 考えてみれば、オレは冒険者になってから……いや、もっと前、転生した直後から、戦う事を当たり前に行ってきた。

 武器がスコップだというイレギュラーなことはあったが、それでも、フローラやシトリンと共に、それなりの強敵にも立ち向かってきたという自負はある。

 この世界でのオレにとって、戦うことは当たり前のことだった。

 今でも、それは同じはずだ……。

 いや、でも、本当にそうなのだろうか。

 最近の自分を思い返してみる。

 畑づくりやスコップ料理、アパタイさん宅でのアンシィとのやり取り。

 そんなつもりではなくとも、オレは冒険者という生き方以外の他の生き方を心のどこかで探していたようにも思える。

 じゃあ、冒険者を止めたいのか、と問われれば、そんな気はまったくない。

 フローラ、シトリン、そして、アルマ。このメンバーで挑戦する冒険はとても楽しい。

 ウエスタリアで強く感じたこの気持ちは決して嘘偽りなんかじゃない。


「あー、もうわからん」


 心がもやもやする。

 すっきりしない。

 何かが自分の心を縛っているのはわかっている。

 でも、その何かがいくら考えてもわからない。


「アンシィ……」


 いつの間にか、言われた言葉そのものよりもアンシィの顔ばかりが脳裏に浮かんでいた。

 あいつは、いったい何を考えているのだろうか。

 オレは、あいつのことをいつしか相棒だと思っていた。

 戦いでは、常に呼吸が合い、普段はてんでバラバラだけど、やるときは合わせようとしなくても、気持ちが合う。

 でも、今はあいつの気持ちがよくわからなくなってしまった。

 オレに落胆しているのだろうか。それとも……。


「わっ!」

「うわっ!!?」


 突然、何者かがにょきりと視界の端から生えてきて、オレは思わずびくりと身を縮こまらせた。


「…………コルリ?」

「アンシィじゃなくて、ごめん」


 いつもの狐面を外したコルリは、無表情のまま頭を下げた。

 ああ、そう言えば、艶姫さんが今日も寄こすとか言っていたっけ……。


「ノックぐらいしてくれよ」

「3回はした。でも、返事が無かったから、何かあったのかと思った」

「あー、そりゃごめん」


 どうやら、考え事に夢中で、ノックの音すらも耳に入っていなかったらしい。

 それにしても、艶姫さんが、今晩はパワーアップしてコルリを寄こすと言っていたのはこういうことか。

 彼女は、今日はビーチで着ていたのと同じ水着姿だ。

 日中はずっと仮面をつけていたために、あまり目立たなかったが、素顔に水着姿のコルリは確かにこれはなかなか来るものがある。

 普段なら、それだけで頭がピンク色になってしまいそうなオレだが、今日だけはどうにもそんな気分になれなかった。


「何かあった?」


 そんなオレの様子を、コルリも不信に思ったのだろうか。少し心配したような口調で、そう気遣いの言葉をかけてきた。


「ああ、いや。ちょっと考え事してただけ」

「そう」


 それきり沈黙が場を支配する。

 あ、そうだ。アンシィの件で忘れていたが、コルリには言わなくてはならないことがあった。


「コルリちゃん、今日はごめん」


 そう謝罪だ。

 ジアルマの暴走はパーティメンバーであるオレの責任でもある。

 それに関しては、きちんと謝っておきたかった。


「あの紫の髪の子のこと?」

「ああ、いきなり襲い掛かったんだろ」

「うん。びっくりした」


 まったくびっくりしていない表情で言うので、少しだけ笑ってしまう。

 ほんのわずかだけ、心が軽くなった。


「でも、凄いんだな。あのジアルマの攻撃を全部躱すなんて」

「私は、これでも東冒険者組合最強の剣士だから」

「そうなのか……!」


 確かに、強いだろうとは思っていたが、まさかオレとそう年も変わらなそうなコルリが、東冒険者組合で最強だとは思ってもみなかった。

 なるほど、艶姫さんが傍においておくわけだ。


「それにしたって、レベル100のジアルマの攻撃を躱すなんて大したもんだよ」

「レベル100? 99じゃなくて?」

「ん、ああ。オレの限界突破スキルの効果で、ジアルマは最近レベル100になったんだよ」

「限界突破スキル!?」


 コルリはガバッと身を乗り出した。

 普段のどこかダルそうな動きとは違う。戦闘時の素早さに匹敵する速さで、オレのすぐ目の前までコルリの整った顔が近づいた。

 思わず、オレは重心が後ろに下がる。


「あなた……限界突破スキルを持っているの!?」


 鼻息も荒く、問いかけてくるコルリの様子は尋常ではない。


「ん、ああ……一応、オレ転生者なんだ。だから」


 何が一応なのかはわからないが、とりあえず理由を説明したオレの手をコルリはガシッと掴んだ。


「お願い! 私をあなたのパーティに入れて!」

「えっ……!?」


 突然のお願いに、オレの思考がついて行かない。

 えっ、何。コルリさん、うちのパーティに入団希望なの……?


「私は……もっと強くなりたい。強くならなくちゃいけない。だから……」

「な、何でそんなこと……?」

「私には、倒さなくちゃいけない相手がいる……」


 オレの手を握るコルリの拳に力が籠る。


「鋼帝竜アダマントドラゴン……私は、あいつを絶対に討伐する!!」


 その目に、確かな憎悪が宿っていた。

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