076.レベル100の破壊力
「マ、マジかっ!?」
突然飛来したジアルマの攻撃から逃れるため、オレは慌てて後方へとダイブする。
ズドォオオオンン!!!
爆音と共に、一瞬の光の明滅、その後、地面が波打つほどの衝撃が襲う。
幾重もの亀裂が森の中を走り、次の瞬間、大剣が直撃した地点を中心に、まるで重力で押しつぶされるかのように地面が陥没した。
「うわぁっと!!?」
陥没に巻き込まれたオレは、地面に引き込まれそうになるが、なんとかアンシィを突き刺してこらえる。
あまりにも人間の範疇を逸脱した威力。聖塔の頂上で見せた力なんかは、ほんの準備運動レベルでしかなかったのだ。
これがレベル99……いや、レベル100の力……。
「……はっ」
そうだ。呆然としている場合じゃない。
爆心地に一人立ち、呼吸を整えているジアルマにオレは急いで詰め寄った。
「何やってんだよ、お前……!!」
「ああ、久々に強そうな相手と2人っきりになったもんでな。つい血が疼いちまった」
おいおい。ってことは、強そうだから、という理由で、コルリにいきなり斬りかかったのか……。
改めてなんちゅう危ない奴……。
いや、そんなことよりも……!!
「コルリは……!?」
「あいつなら、あそこだ」
ジアルマが顎で指し示した先、一本だけ他の木よりも大きく成長した松の木の上に、コルリはゆらりと立っていた。
あの一瞬でそこまで飛んで回避したのか。ジアルマの言うように、コルリはかなり強いのでは……。
いや、コルリが凄いのは凄いんだけど、それより気になるのは……。
「なあ、ジアルマ……その恰好動きにくくない?」
「あぁ?」
さて、皆さんもすでに想像がつくだろう。
アルマがジアルマになったとき、基本的に、アルマが身に着けていたものをそのままジアルマも身に着けることになる。
ということはすなわち、少し前までアルマが身に着けていたスクール水着をジアルマも身に着けているということであり……アルマでジャストサイズだったスクール水着は限界まで引き延ばされ、もはやハイレグ状態だ。
その上、胸のあたりも、布地が足らず、もはや紐水着の如くなっており、なんとか大事なところが隠せているという状態だ。
完全に痴女そのものの格好だが、こいつには羞恥心とかないんだろうか……。
「はん、恰好なんてどうだっていい。オレは強い奴とさえ戦えれば!」
「いや、だけど、ここで戦うのは、マジで止めてくれよ……。せっかくのバカンスだっていうのに」
魔物相手ならまだしも、人間相手にこんなガチもんのバトルしかけられちゃ、こちらの身が保たない。
それに、艶姫さんの所有する無人島をこれ以上荒らさせるわけにもいかない。
「オレに指図するな」
「いや、パーティ解消するよ」
「…………あぁ?」
うおっ、こわっ。でも、ここでなんとしても止めないと、コルリが危ない。
「パーティ解消されたら、これ以上強くなれないよ」
「…………ふんっ、そのカードが何度も切れると思うなよ」
ジアルマは殺気のこもった目でオレをにらみつけると、ふと、力が抜けたようにアルマの姿へと戻った。
は、はぁあああああ、怖かったぁああああああ。
「あ、コルリ……」
オレの足元へと着地するコルリ。
いや、あの木の上から飛び降りたのに、何で音すらしないの……?
「ごめんな。うちのパーティの奴が喧嘩ふっかけたみたいで……。怪我とかないか?」
彼女はゆっくりと首を横に振った。
良かった。あのジアルマの馬鹿力の攻撃が少しでも当たっていたら、小さな怪我じゃとても済まないもんな。
しかし、ジアルマが手を抜いている様子はなかった。
全力の攻撃を回避し続けていたということなわけで、コルリはやはりかなりの遣い手であるのは間違いない。
レベル100のジアルマと少なくとも身のこなしでは十分張り合えている……もしかして、コルリも……?
「あ、ディグーー!!」
森の奥の方から声が聞こえ、振り向くと、フローラとシトリンがこちらへと駆けてきていた。
手を振るフローラの右手には、何やら封筒のようなものが掴まれている。
どうやら、件のお社とやらに最初に到着できたのは、この2人だったらしい。
まったく、お札探しどころではなかったが、とりあえずは一件落着……ということにしておこう。
さて、合流したオレ達は、そのままペンションへと戻った。
ジアルマから戻って気絶状態にあったアルマは、オレに背負われているうちに目を覚ました。
あれだけ暴れてもアルマの状態になると、まったく覚えてないのだから、たいしたものだ。
ペンションに戻る道すがら、アンシィは人間形態で最後尾を歩いていたが、オレとは一度も口を利いてくれなかった。
先日の件に引き続き、今回はあんな雑魚にも後れを取ってしまったわけで……。
やっぱ怒ってるよなぁ……。
本当にあの声はなんなんだろう。
このまま続くようなら、とても冒険なんてできやしないし、一度、誰かに相談してみた方が良いかもしれない。
「おっ、戻ってきたな」
ペンションの一角に設置されたハンモックに寝転んで、ゆったりとくつろいでいた艶姫さんは、ヨッと起き上がると、オレ達の方へと駆けてきた。
「手に入れたんは、フローラはん&シトリンはんチームか! おめでとうやね!」
「うん」
「でも、これって……?」
「中身開けてみぃ」
というわけでフローラが空けた中身をみんなでのぞき込む。
「これって、お札……ですよね?」
「そうや。これは、玉手の札っちゅうレアアイテムや」
ほうほう玉手の札とな。
「この札を使うとな。ある一定範囲の時間の流れを加速させることができるんや。効果範囲外での1時間がこの札を使った場所やと1か月にもなる」
「なんと……!」
つまりあれか。精〇と時の部屋みたいな効果があるってことか。
「一定範囲ということは、範囲から出たら元の時間の流れに戻るのでしょうか?」
「そうやね。だから、必要な時間だけ使うことができるっていうとっても便利なアイテムなんや。主に、恋人同士が、時間を気にせず、むふふなことしたいときとかに使うんやけど」
「むふふ?」
フローラが首を傾げ、シトリンが頬を染めている。わかりやすい。
「うーん、私は特にこの札を使う用途が思いつかないですし……ディグ要ります?」
「えっ……!?」
くれるの?
今、艶姫さんが言った、むふふなこと、っていうのは置いておくにしても、かなりレアなアイテムだと思うんだけど……。
「シトリンもいいですか?」
「えっ……あ、ああ、ボクも構わないよ」
「ほ、本当にいいのか?」
「はい。ウエスタリアで、私とシトリンだけ貴重な武器を手に入れて、ディグだけ何の報酬も無かったのがずっと気になっていまして……」
「そうだな。あれだけ聖塔の攻略を頑張ったのに、ディグには何の見返りもなかったものな」
2人して頷き合うフローラとシトリン。
オレとしては、パーティで得た物はパーティ全体の利益だと思うので、あまりそのことについては気にしていなかったのだが、まあ、2人がそう言うのなら、ありがたくいただいておくとしよう。
「じゃあ、ありがとな。フローラ、シトリン」
オレが札を受け取ると、2人はにっこりと微笑んだ。
「ふふっ、良いパーティやないの。さて、そんな素敵な仲間達にはもうひとつプレゼントや!」
いつの間に用意していたのか、長テーブルの上に置かれた布を取り去ると、そこには数十種類のスイーツが所狭しと並べられていた。
フローラの目がこれまでになく輝く。
「イーズマの名産スイーツを集めてみたで~。どれでも食べ放題や」
「た、食べ放題……!!?」
フローラ、よだれよだれ。
「じゃあ、旬の味覚を楽しんでな」
かくして、スイーツタイムが始まった。
幸せそうな顔であんみつを頬張るフローラ。シトリンは抹茶アイスが気に入ったのか、もぐもぐと一定の速度で咀嚼している様が可愛い。アルマも、おいしそうにわらび餅に舌鼓を打っている。
コルリはあくまで従者的な立ち位置のためか、少し距離を置いて、こちらを見守っていた。
いつもの風景。
いや、いつもなら真っ先に食べ物に食いつくはずの人物の姿がなかった。
「アンシィ……?」
いつの間にか、アンシィの姿がなくなっていた。
ついさっきまで一緒にいたはずなのに……。
「あっ……」
遥か遠く、砂浜の外れの岩場辺りに、月明りに照らされて、オレンジ色のリボンがはためいたのが一瞬見えた。
あのリボンは間違いない。アンシィだ。
「あいつ、どこ行くんだ……?」
オレは、スイーツに夢中のフローラ達を横目に見ると、邪魔をしないように、一人静かにアンシィの後を追った。




