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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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066.テンプレは消化できなかったよ

アルマという仲間を加え、ドーンの街へと一度戻ったオレ達。

 1日の休養を挟んで、今日はいよいよ東冒険者組合の本拠地であるイーズマへと出立する予定だ。

 午後には、道中を案内してくれるらしい使者が東ギルドからやってくるらしいので、オレ達はそれまで、しばらくできていなかった日課に精を出していた。


「ほーら、たーんと飲めよ~」


 象の頭をモチーフにした、可愛らしいデザインのじょうろで、畑に水を注ぐ。

 ここはアパタイさんが管理している中庭の畑だ。

 ひと月ほど前、オレ達は、ここにヘチマの種を植えた。

 それ以降、このヘチマ畑の世話は、オレ達パーティの日課になっていた。

 しばらく街を離れていた間は、アパタイさんに任せきりだったのだが、せめて、今日ぐらいは、ということで、いつもは持ち回り制のこの作業をパーティ全員で行うことになったのだ。

 もちろん水やりだけで、そんなマンパワーは必要ないので、せっかくなので、畑の整備も並行して行う。

 

「アンシィ! こっち結べましたよ!」

「フローラ……す、すまないが、手を貸してもらえないか……。背が……届かない」

「任せて下さい~!」


 フローラ&シトリンがやっているのは、ヘチマの蔓の誘引だ。

 この半月ほどの間でも、ヘチマの蔓は随分伸びてきた。

 しかし、普通に育てているだけでは、ヘチマはなかなか支柱を伝っていってはくれない。

 だから、こうやって麻縄で緩く結んでやって、上に引っ張ってやるのだ。

 そうやって、進むべき道を示してやれば、ヘチマはすくすくとその方向に育ってくれる。

 と、物知り顔で説明しているが、全部、アンシィの受け売りだ。

 そのアンシィはというと……。


「うーん、こんなもんね!」


 素手で何かを混ぜていたアンシィは、手の甲で頬を伝う汗をぬぐった。

 お約束の泥メイクをつけ、満面の笑みだ。

 アンシィがしていたのは、肥料作り。

 最初の土づくりの時にももちろん肥料は撒いているのだが、ある程度育ってきたこの時期、成長にブーストをかけるためにも、追肥が必要になる。

 この世界には、ホームセンターで売っているような粒状肥料はないようなので、アンシィが調合したオリジナル肥料だ。

 鼻を近づけると、なかなかに刺激的な匂いを放っているが……きっと、その分効果は高いだろう。


「皆様はこんなこともされているのですね……」


 と、そんなオレ達の日課の様子を眺めていたアルマが、ポツリとつぶやいた。


「冒険者っぽくなくて、幻滅した?」

「そんなことありません! 私にも手伝わせて下さい!」


 持っていたじょうろをアルマに渡すと、アルマは鼻歌交じりに水やりを開始した。

 ヘチマだけでなく、アパタイさんが育てている薬草や野菜なんかにも水を振りかける。

 楽しげな鼻歌につられてか、いつの間にか妖精のロキもやってきて、アルマの周りをぐるぐる回り始めた。


「うあぁ、妖精さんですか!?」

「ロキ!」

「ロキちゃんというのですね!! 仲良くしましょう!!」


 某有名宇宙人との交信のように、指と指を重ね合うアルマとロキ。

 そんな様子に、思わず心がホッコリと和んだ。


「今のところ、大丈夫そうねぇ」

「だな」


 オレのそばまでやってきたアンシィの耳打ちに、オレは首肯で返す。

 神域の聖塔、その最上階での戦い以降、アルマのもう一つの人格──ジアルマは一度も現れていない。

 どうやら、こうやって日常を送っている分には、眠ってくれているらしいが、イーズマまでの道中や、その先、どんな風に動くかは予想がつかない。

 限界突破スキルが必要なあいつは、不用意にオレ達を攻撃したりすることはないだろうが、注意はしておかねば。


「あれ、ディグ様、どうしたんですか、真剣な顔して」

「なんでもないよ。それより、そろそろ追肥を撒くから、全員一旦退避!」


 アンシィをスコップモード<角>(フラット)に変形させると、泥のような肥料を畑にまんべんなく撒く。

 そうして、そのまま軽く土を耕しながら混ぜ込んだ。

 肥料の養分というのは水に溶ける。

 しっかりと水を含んだ土と絡めることで、より効果的に養分を根に吸収させることができるらしい。もちろんこれもアンシィの受け売りだ。


「冒険もいいけどさ。こうやって畑作るのも悪くないなぁ」

「あんたも少しは用務の田中さんの気持ちがわかるようになってきたようね」

「その人は知らんが、とりあえず……なんかちょっとホッとするんだよ」


 最後だけはアンシィに伝わらないように、小さな声でつぶやく。

 聖塔ではいろいろあったからな。

 こうやって、何でもない日常の尊さを感じるのも当然というものだろう。


「畑と言えば、近いうちに、また、レフォレス村に行ってみるのも良いかもなぁ。その後の畑の経過も見たいし。それに、アイナちゃんにも会いたいしね」

「そうね! でも、あんた、さすがに幼女にまで手を出すのは……」

「いや、出さねぇよ! 正直アイナちゃんは将来めちゃくちゃ美人になると予想しているので、今のうちに光源氏作戦を展開しておくのもやぶさかではないと思わないでもないけれども、さすがに今、どうこうしようとは思わねぇよ!」

「言い訳が長い上に、言い訳になってないわよ! それに、あんたシトリンにしょっちゅう欲情してるじゃない」

「してねぇよ! ……いや、割としてるか」

「えっ、アンシィ、ちょっと待ってくれ……。さすがにボクもアイナほど……小さくは……ない……ぞ」


 背丈が足りず、結局誘引をフローラに任せっきりになってしまったシトリンは、手に残った麻紐を眺めながら、どんどん声が小さくなっていく。


「あー、シトリンがそちらにツッコまないということは、ディグがしょっちゅう欲情しているのは本当みたいですね」


 そんなシトリンとは正反対に、真顔のフローラの冷静な指摘。


「いや、仕方ないじゃん! シトリン、たまになんかエロイんだよ! 幼女みたいなのに!!」

「まあ、それはわかるわ。なんかたまに女の顔してるわよね。幼女みたいなのに」

「アンシィ、言い方!! でも、確かに、ちょっとずるい時ありますね、シトリンは。幼女みたいなのに」


 3人揃って、しれ~っとした目でシトリンを見つめるオレ達。


「な、なんなんだ。今日は、ボクへの糾弾デーなのか……!? 少なくとも、ボクは幼女みたいではない!!」


 珍しく、強い口調のシトリンさん。

 まあ、シトリンもこんなに弄れるくらいにパーティに馴染んだわけで、そりゃヘチマも成長するわ。


「あ、ロキちゃーん! 今度はあちらのお野菜にもお水をあげましょ~!」

「ロキ~!」


 こちらのやり取りは我関せずで、水やりに夢中になっているアルマとロキの明るい声が響く。

 ああ、平和だなぁ……。




 さて、そんな穏やかな日常とももうすぐしばらくのおさらばだ。

 もう間もなく東冒険者組合に出立ということで、オレにはその前に仕入れておきたいものがあった。

 そう、調味料である。

 聖塔攻略後半では、キャンプも多かったため、スコップ料理を披露する機会も多かった。

 材料自体は、魔物肉などのドロップ品を現地調達できたため、さほどストックが減ることはなかったのだが、味付けに使う調味料は別だ。

 再び旅に出る前に、補給をしておきたい。

 というわけで、オレは一人、ドーンの街の食料品店に来ていた。

 この世界にはスーパーマーケットというものはなく、基本的に、食品を扱っているのは露店が多い。

 いくつかの露店を回り、目減りしていた調味料の類を買いそろえると、オレはそれをマジックボトルに突っ込んだ。

 そういえば、聖塔で盗人の被害に遭ったとき、このマジックボトルは盗まれなかったな。

 結構レアリティが高くて、値も貼るアイテムだと思うんだけど、アイナがくれた麻縄でくるんでいるから、ただの水筒のように見えたのかもしれない。

 この麻縄を見ると、アイナの事を思い出す。レフォレス村のみんな元気だろうか。

 東冒険者組合での体験活動が終わったら、本当に、一度顔を見せに行きたいなぁ。


「ん、なんだ?」


 アパタイさんの店に戻ろうと、河原の辺りを歩いている時だった。


「おうおう姉ちゃん、この落とし前どうつけてくれんだ」


 河川敷で屈強な男がいきり散らしていた。

 一人で大声出して、こいつサイコパスか、と一瞬思ったが、違った。

 男の体格のせいで、最初目に入らなかったが、その目の前には女の子がいた。

 だが、ただの女の子じゃない。頭に生えた狐のような耳に、同じく狐のようなしっぽ。

 いわゆる獣人と呼ばれるタイプの種族の女の子。なぜか狐の顔を模したお面をつけている。

 ドーンの街の冒険者の中にも、獣人タイプの者はそれなりにいるし、そこまで珍しいというわけではないが、狐と人の半獣半人は初めて見た。

 この辺りでは見かけない、巫女風の服装をしていることからも、おそらくこの街の人間ではないだろう。


「ああ、まったく、服がダメになっちまったぜ。これは……身体で返してもらわねぇとなぁ」


 男が下卑た笑いを浮かべる。

 どうやら、ぶつかったか何かで、男は持っていた飲み物を自分の上着にぶちまけてしまったらしい。

 狐面の女の子は、屈強な男からの威圧でビビっているのか、黙ってその場で立ち尽くしたままだ。

 ははーん、これは、あれですね。

 異世界転生のお約束パターン。野郎に乱暴されそうになっている女の子を助けて、惚れられるパターンのやつだ。

 お約束パターンその1の山賊襲来の時は、逆にフローラに助けられるという大失態をやらかしたからな。

 今度こそ、スマートに女の子を助けて、「きゃー、かっこいい、抱いて!」と言わせてみせるぜ。


「おい、なんとか言ったらどうだ!」

「ちょっと待ちなよ。お兄さん」

「なんだ……お前?」


 女の子の腕を掴もうとした大男と女の子の間にオレは割って入る。


「この子が何をしたかは知らないけど、さすがに乱暴するのはどうかと思うけど」

「乱暴? てめぇには関係ないだろ。痛い目みないうちにさっさと消えろ」

「嫌だね」

「てめぇ……だったら、痛い目見やがれ!」


 テンプレ!

 さって、ここはこれまでの冒険で培った華麗なスコップさばきで撃退してやる。


「アンシィ!」


 腰のスコップホルダーに手を伸ばしながら、相棒の名前を叫ぶ……が。


「あ、あれ……」


 その手が宙を切る。

 あ、そういや、アパタイさんのとこに置いてきたんだった……。


「おらぁ!!」

「ひでぶぅ!!!」


 完全に無防備な体勢で、大男の全力パンチを顎にもらったオレは、そのまま横を流れている川に突っ込んだ。

 盛大な水しぶきが上がる。あぶっ、あぶっ!! 溺れる!!


「はん、弱いくせにいきがりやがって。さあ、姉ちゃん。きちんと落とし前を──」


 男が最後まで言葉を言い終えることはできなかった。

 なぜなら、女の子がいつの間にか取り出した剣の切っ先が、男の顎にぴったり吸い付いていたからだ。


「…………何か?」

「な、なんでもありません。失礼しました……!!」


 男は、態度を豹変させると、一目散に逃げていった。

 あとに残ったのは、まるでかき消すように長い裾の中に剣をしまう女の子と、ようやく川底に余裕で足がつくことに気が付いたオレばかり。

 一瞬の静寂のあと、彼女は何事もなかったかのようにそそくさと歩き出した。


「あー、とりあえず……」


 今回もテンプレ消化失敗です。とほほ……。

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