065.聖塔と3人目の仲間
オレが所持する微チートスキルの一つ、【限界突破〈全体〉】
その効果は、レベル99を超えて、己のレベルを上昇させることができること。
効力はオレのみならず、オレが所属しているパーティーメンバーにも適応される。
「つまり、オレ達とパーティを組めば、今よりもお前は強くなれるってことだ」
「…………嘘じゃねぇだろうな?」
明らかに奴は葛藤していた。
そりゃそうだろう。
奴はレベル99に至り、さらに最高の武器を手にしたことで、そこから一層強くなる方法がほぼ無くなってしまった。
そこに来て、オレの提案だ。
自分の可能性が一気に開けたと思うのも、当然だろう。
「ああ、オレについてこい。もっと強くしてやる」
「自分よりずっと弱い奴にそんな風に言われてもな……。だが、いいぜ、お前達のパーティに入ってやるよ」
来た来た!!
「だがよ。ミナレスの野郎に俺様の事を伝えでもしてみろ。この最高の武器で、お前の内臓を抉り出してやる」
「わかった……。オレもアルマには、お前の存在を伝えたくない」
交渉成立。
もう一人のアルマはニヤリと笑うと、傷だらけのオレの手を乱暴につかんだ。
「俺様の事はこれから"ジアルマ"とでも呼べ。アイツと混同されると不愉快だ」
「わかった」
「宜しくな。"ディグ様"」
「……その呼び方はやめてくれ」
苦笑。なんとかピンチを切り抜けたオレは、ホッとした瞬間に、膝から崩れ落ちた。
「はっ……!!」
目を覚ますと、そこは西ギルドの医務室だった。
「ディグ様!!」
アルマが……普段通りの可愛いアルマが抱き着いてくる。
身体に痛みはない。
どうやら回復魔法で、すでに身体の傷は癒えているらしい。
「心配したぞ。ディグ君!!」
オレが起きたという知らせを聞いて飛んできたのか、医務室の扉からミナレスさんが飛び込んできた。
同じくフローラとアンシィも入ってくると、オレに抱き着いた。
「ディグゥ!! ディグ!!」
「…………ディグ」
「フローラもシトリンも、オレはもう大丈夫だから」
「まったく心配したわよ。最後まで、目を覚まさなかったんだから」
アンシィもいつの間にかオレの傍らに立って、腕を組んでいる。
「ディグ、ちょっと……」
「えっ……」
口々に心配の言葉を浴びせてくる仲間達から少しだけ距離を取ると、アンシィが耳打ちしてきた。
「あの後、もう一人のアルマ……ジアルマだっけ。あいつがアタシ達全員を帰還用のワープゾーンに放り込んだわ。そして、自分も普段のアルマに戻って、ワープゾーンに飛び込んだの。アルマもそのタイミングで気絶をしていたみたいで、最上階で起こったことは何も覚えていないわ」
「そうか……良かった」
元のアルマがもし、もう一人の自分がオレ達を傷つけたと知れば、きっと自分を必要以上に責めるだろう。
そんなアルマの姿は見たくない。
「フローラとシトリンにもある程度の事情は伝えてる。アルマにも、辻斬りに襲われて全員気絶したということにしてあるわ。アイテムも奪い去られてしまったことにしておいたわ」
「サンキュー、アンシィ」
「うん……」
どこか浮かない表情のアンシィ。
嘘をついたことが、そんなに嫌だったのだろうか。
「ディグ様……今回は、残念でした。まさか最後の最後であいつが現れるなんて……」
「いや、全員無事に帰って来られただけでも行幸だったさ。な、みんな」
「そうですね。誰一人欠けずに戻って来られただけで儲けものです」
フローラが努めて明るく言ってくれたおかげで、少しだけ場の空気が和む。
「しかし、本当に君たちが無事でよかった。とはいえ、君たちを行かせてしまったことを相応に後悔はしたがな」
「でも、本当に奴はオレ達は殺しませんでした。根っからの悪い奴でもないみたいでしたよ」
「そうか……」
ミナレスさんは複雑な表情で空を仰いだ。
その後、オレの体調が万全であることが確認できると、とりあえず今日は宿に戻って休もうということになった。
次々と部屋から出て行くみんな。その最後尾を行くオレにミナレスさんが声をかけた。
「ディグ君、やはり少しだけ時間をもらえないか」
「あ、はい……。みんな、先に戻っててくれるか?」
「あ、わかりました」
フローラ達は宿へ、アルマは自分の家へ向かうために、部屋から出ていく。
一気に閑散とした医務室には、オレとミナレスさんだけが残された。
「なあ、ディグ君……本当の事を教えてくれないか?」
「えっ……と」
「60階に辻斬りが出現するという状況……はっきり言って、ありえない。けれど、その状況で唯一辻斬りが出現できる方法に、私は思い至ってしまったのだ」
はぐらかそうにも、ミナレスさんの表情にはすでに確信があった。
一度、大きく息を吐くと、オレは話し始めた。
「辻斬りの正体……それは、アルマのもう一人の人格でした」
「…………やはり、そうか」
ミナレスさんが、医務室のソファに深々と腰を下ろし、頭を抑えた。
「正直、アルマのもう一人の人格については、以前から本当に存在しないのか、疑問に思うことはあった。だが、まさかそれが辻斬りだとは……今回の事があるまで予想だにしなかったよ」
「アルマ自身ももう一人の自分については、まったく知らないみたいでした」
「おそらく、アルマの人格は、明確に上位と下位が分かれているのだろう。すなわち辻斬りが上位で、普段のアルマが下位だ。下位人格は上位の人格のことを知ることはできない」
「ミナレスさん、アルマにはこのこと……」
「言えるはずがない……。ギルドマスターとしては、いますぐにでもアルマの事を拘束しなければならないことはもちろんわかっている……。だが、あの娘は……」
「オレも同じ考えです。アルマにもう一人の人格の事は教えたくない……。だから」
それから、オレはミナレスさんにある提案をした。
最初は、少し困った様子を見せたミナレスさんだったが、最後には納得してくれた。
明日、仲間達やアルマ自身にも、それを伝えよう。
さて、ウエスタリアにやってきた日からついに10日が過ぎた。
街の前には、ミナレスさんが見送りに来てくれている。
そして、もちろんアルマの姿も。
ただ、アルマの姿は、ミナレスさんの方ではなく、オレ達と共にあった。
「ミナレス様ぁ……」
「アルマ、そんな顔するな。ディグ君達について行くのは、見聞を広める良い機会だ」
そう。アルマはオレ達と共に行くことになった。
ジアルマがいつ表に現れるかわからない以上、このウエスタリアにアルマを居させていることはできない。
オレ達とパーティを組めば、【限界突破〈全体〉】スキルを持つオレ達にそうそう危害を加えることはしないだろう。
そう言った諸々の相談をミナレスさんとした結果、アルマはオレ達と共に、街を出ることになったのだ。
ミナレスさんとしても、それは苦肉の策だっただろう。
きっと、アルマが出発してから、ジアルマをどうにかする方法を彼女は全力で探し求めるに違いない。
「ディグ様達と一緒にいられるのはうれしいです。でも、ミナレス様と離れるとなれば、話は別ですぅ! うぅぅ……」
泣きじゃくるアルマを、ミナレスさんは優しく抱きしめた。
「言っておくが、これは仕事でもあるんだぞ。東冒険者組合の様子をつぶさにチェックして、後で私に報告するのだ」
「はっ……! そうでした! 私、頑張ります……!! きっと艶姫様の弱みを……」
なんだか、ちょっと危ない話になってきたが、まあ、泣き止んだので良いとしよう。
「帰りもパドラを使うと良い。アルマは御者もできるからな」
「お任せ下さい!」
ない胸を張るアルマ。そういえば、ジアルマの方はバインバインだったなぁ。
あとから考えてみれば、ミナレスさんが言っていた人格と身体が逆になっているという部分はもしかしたらその通りだったのかもしれない。本来はアルマがあの女性の身体で、ジアルマがこのアルマの身体だったのかもしれないということだ。いや、でも、バインバインのアルマって違和感バリバリだな。それに、こんなにかわいらしいジアルマも変だ。やっぱり元からこうなのか? ますますわからなくなってきた。
「ディグ様、何を難しい顔をされているのですか?」
「いや、いろいろ考えることが多くてね」
「さすがディグ様です! 常に何かしら思索を巡らせていらっしゃるのですね」
「ああ、そうだ。忘れるところだった」
と、ミナレスさんが、どこからか、緑色の金属質な見た目の杖を取り出した。
杖の先端には、エメラルドグリーンに輝く、加工された水晶が施されている。
「せっかく最上階まで攻略できたというのに、何も手に入れられなかったというのは、さすがに……と思ってね。君達はフローラ君の武器を欲しがっていただろう。私が若い頃の冒険で手に入れた杖の一つだ。神器級の武器には及ばないだろうが、普通の武器屋ではなかなか手に入らないレベルの魔力ブーストと制御性能がある。ぜひ、もらってくれ」
「ええっ!? いいんですか?」
「ああ。一応言っておくが、これは袖の下ではないからな」
フローラが恐る恐る杖を受け取る。
魔力を流し込んでみているのか、水晶の輝く様子を見て、フローラは満足げに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「ほら、早くしないと日が暮れるわよ」
アンシィに急かされて、オレ達は馬車へと乗り込む。手綱を握るのはアルマだ。
「ディグ君……その、アルマの事を宜しく頼んだ」
「ええ、任されました」
最後に、ミナレスさんとお互い頷き合う。
ジアルマが悪さをしないように制御するとともに、きっとアルマを守り抜いてみせる。
「では、出発致します!」
「ではな。みんな、そして、アルマ!」
「は、はい、ミナレス様!」
最後に少しだけ涙目になったアルマだったが、手綱を強く握った。精霊鳥パドラが走り出す。
色々あったが、この冒険を通して、オレ達はまた一つ強くなった。
新たな仲間を迎え、オレ達は続く冒険の地、東を目指す。
5章終了です。
次話より6章スタートします。




