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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
100/156

100.さらば、鋼帝竜!

 短時間での2度のブレス発射のために入った数秒ほどの硬直。

 そこから鋼帝竜が復帰した。

 奴は、こちらを迎撃するでもなく、そのまま逃げの姿勢に入る。

 今の状態で接近戦を行うのは不利と判断したのだろう。

 確かに、遠距離攻撃手段を持たないオレ達は、距離を取られると厄介だ。

 だが、翼をはためかせ、逃げを打とうとした瞬間、何者かが海の中から飛び出し、奴の足を掴んだ。


「あれは……?」

『ディグ君!! 今だ!!』


 それは鋼帝竜とほとんど同じくらいの大きさの巨大なロボットだった。

 まさか、この世界にこんなものがあるとは……。

 それにこの声は……。


「ブルートか?」


 よくわからないが、とにかくあのロボットにはブルートが乗っているらしい。

 奴の足を引っ張るようにして、ぶら下がる巨大ロボット。

 その重量によって、鋼帝竜はどんどん高度を落としていく。


「ゴォオオオオオオオオオ!!」


 鋼帝竜はロボットを振り落とすために、槍を放った。

 ロボットの装甲に見る間に穴が開いていく。


「ブルート!!」


 やがて、限界までくると、ロボットの腕は紫電をまき散らせながらちぎれ、海へと落下していった。

 しかし、ブルートとロボットの活躍のおかげで、鋼帝竜が逃げる時間はなくなった。

 オレは、全力で奴を"掘り抜く"のみ!


『うぉおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 アンシィとオレの声が重なる。

 奴が槍を発射してくるが、ロボットを倒すために使った影響か、その数はまばら。

 そんなものは嵐帝の加護で吹き飛ばす。


「ゴォオオオオオオオ!!!」


 最後のあがきとばかりに、奴はその大きな翼で羽ばたいた。

 翼による真空波で、オレを吹き飛ばそうというのだ。

 だが、その瞬間──


 ビギィ……ビギィイイイイイイイイ!!


「ゴォオオオオオオオオ!?」


 奴の2つの翼が、根元からバッサリと折れた。

 コルリだ。

 さっきのコルリの攻撃が、確実に奴の翼にダメージを与えていたのだ。

 翼を失った奴は、まさに死に体。

 みんなが整えてくれたこの状況。

 オレは、海に落ちる前に、奴を仕留めるのみ。


 仲間達の声が聞こえた。


「ディグ!」


 穏やかなフローラの声。


「ディグ!!」


 優しいシトリンの声。


「ディグ様!! 頑張れぇ!!」


 明るいアルマの声。


「ぶっ飛ばせ!! クソ雑魚野郎!!」


 激しいジアルマの声。


「行け、ディグ!!」


 力強いコルリの声。

 それらすべての声が、オレとアンシィの力になる。

 奴が最後の力を振り絞って、オレにブレスを放つ。

 けれど、そんなもの、今のオレを止めるのには何の役にも立たない。


「"掘り抜く"!!」

「はぁあああああああああ!!!」


 アンシィの先端がブレスに触れる。

 その瞬間、ブレスの中にトンネルを掘るかの如く、オレの身体はスルリとその中へもぐりこむ。

 勢いを殺すことなく、その根元……奴の口へと飛び込んだオレは、奴の身体さえも"掘り進む"。

 頭を掘り、首を掘り、胴を掘り、そして、尾を掘り、オレは鋼帝竜の身体を完全に"掘り抜いた"。

 瞬間、奴の銀の身体が光に包まれる。

 強烈な爆発音とともに、あの巨大だった鋼帝竜の身体は、粉微塵に四散した。


「ほらな、オレに……オレ達に……」

『ホレないモノは……なし!!』


 ギラギラと燃える真夏の太陽をバックに、オレとアンシィの晴れ晴れとした声が、イーズマの都に木霊した。


 





 鋼帝竜を討伐してから、1週間の時が流れた。

 大通りを歩いていても、人々の活気がすさまじい。

 戦いの余波で倒壊した建物も急ピッチで修繕が行われている。

 ボロボロになってしまった港も同様だ。失ったものは少なくはない。

 だが、今回の戦い。驚くべきことだが、あれだけ激しい戦闘だったのにも関わらず、ただ一人の死者も出なかった。

 国の価値は人だ。人々さえ無事ならば、都が活気を取り戻すまでそう長い時間はかからない。

 日常を取り戻しつつある街を、オレ、アンシィ、フローラ、シトリン、アルマ、コルリ、そして、艶姫さんは連れ立って歩く。


「君達が守った都やで」


 隣を歩く艶姫さんは、オレの腕を取り、小首をかしげながら、そう言った。


「オレ達だけじゃなく、艶姫さんや都のみんなもでしょ」


 あの戦いは、決してオレ達だけでは勝利できなかった。

 最初から戦いに参加できなかったオレも、仲間達から戦闘の様子は聞き及んでいる。

 鋼帝竜へと真っ先に立ち向かってくれた軍艦の乗員たちや民間人にも関わらず同じく戦ってくれた漁師たち。

 港に陣を張り、巨大な鋼帝竜に、生身で立ち向かってくれたイーズマの冒険者達。

 カラクリ仕掛けのロボットに搭乗し、最後にも見事なアシストをしてくれたプルートや機巧技師のみんな。

 そして、なによりも、そんな人々に指示を出し、自身も前線に出て、戦った艶姫さん。

 それらの全ての人たちが、少しずつ少しずつ、鋼帝竜の体力を奪い、その身体にダメージを与え続けてくれたゆえの、最終的な勝利。

 いわば、全員の勝利だと言える。


「イーズマは本当に強い国です」

「……うん、そうやね」


 艶姫さんは、嬉しそうに頷くと、オレの腕にピタリと抱き着いた。

 とても、大きなアレが、オレの腕に柔らかな感触を伝える。

 うん……がんばってよかった。


「ちょ、ちょっと、艶姫さん! 最近、ディグにべたべた触りすぎでは……」


 フローラが、ぷんぷんと怒り顔で、オレの逆側の腕を取る。

 はぁ、まったく、モテる男はつらいぜ。


「今日だけは許したってや、フローラはん。なんせ、今日で最後の日なんやから」


 そうなのだ。

 今日は、オレ達がイーズマに滞在する最後の日。

 いよいよ、東冒険者組合の体験活動が終了し、ドーンの街へと発つ日なのだ。

 そして、今、向かっているのはその東冒険者組合本部。

 これから、オレ達は重要な話し合いに参加しなければならないのだった。




 東冒険者組合本部の一室。

 扉を開けたそこには、すでに、その人物が座っていた。


「来たか。ディグ君」


 金髪ポニーテールの女騎士……そうミナレスさんだ。

 あの鋼帝竜の一件の直後、ミナレスさんは、東冒険者組合へとわざわざやってきていた。

 聞けば、鋼帝竜の侵攻の件を聞いて、一も二もなく、こちらへと加勢にやってきたということだった。

 もっとも到着した頃には、すでに鋼帝竜はオレ達が対峙していたので、実際に戦うことはなかったのだが、その後もなんだかんだ復興の手伝いをしつつ、こちらに残ってくれている。

 アルマの様子が気になってやってきたのはそうだろうが、艶姫さんのことも相当気になっていたようで、元気な艶姫さんに出会った瞬間には、思わずホッとした表情を見せていた。

 まあ、その後、すぐにお互いに憎まれ口を叩き合っていたけれど……お互いツンデレが過ぎる。

 ちなみに、もう一人加勢に来てくれた知り合いがいたのだが、その件については、また、どこかで話をするとしよう。

 さて、そんなミナレスさんがいるということはもう話すことは決まっている。

 そう、いよいよ決断の時が来たのだ。

 西冒険者組合と東冒険者組合、どちらの組合に所属するのかという。


「いろいろイレギュラーなことはあったけども、規定の期間が終了した。いよいよ最終的な話し合いっちゅうわけやな」

「ああ、そうだな」


 視線をぶつけ合う艶姫さんとミナレスさん。

 本当に、この一か月いろいろなことがあったなぁ。

 西冒険者組合では、聖塔の攻略、辻斬り騒動。

 東冒険者組合では、鋼帝竜の戦い、とそれに関連するあれやこれや。

 どちらも濃すぎて、とても語り切ることができない。

 だが、オレの中で、結論はすでに決まっていた。

 それは「どちらの組合にも所属しない」ということ。

 正直、オレには決められなかった。

 代表は言うまでもなく、どちらの組合にもそれぞれの良さがある。

 どちらかに所属するとなれば、結局角が立つし、なにより、オレはドーンの街が好きだ。

 アンシィもアパタイさんの家の畑(あの畑)をそのまま手放すつもりはないだろうし、結局、早い段階からオレ達の結論は出ていた。

 あとは、それを二人にいかに伝えるかだ。

 オレは、ごくりと唾を飲み込む。


「あ、あのですね……お二人に伝えたいことが……」

「その前に、こちらの結論から聞いてもらおう」


 オレの言葉を遮るように、ミナレスさんが、一歩前へと出た。


「私達、西冒険者組合は、ディグ君達パーティーの占有権の主張を撤回する」

「…………えっ?」


 あれ、どういうこと……?

 つまり、オレ達パーティは西に要らないってこと?

 と、ミナレスさんと同様に艶姫さんが一歩進み出る。


「東冒険者組合も同じや。アンシィはんを含めた、ディグはん達の占有権の主張を撤回するで」

「えっ、それって、どういう……」

「実はな、ディグはん。すでに、うちとミナレスで、事前に話し合うとったんや」


 艶姫さんとミナレスさんは穏やかな顔で頷き合った。


「君達は、この1か月余りのそれぞれの組合での活動の中で、考えられないほどの成長を遂げた」

「うん、正直、最初は青田買いのつもりやった。でもな、今や、君達は、世界でも最強クラスのパーティになってしもうた」


 そう言われて気づく。確かにそうかもしれない……。

 鋼帝竜を倒した経験値が入り、オレのレベルはすでに108。

 フローラとシトリンも100を超えた。

 アルマと肉体を共有しているジアルマに至っては、すでにレベル130。

 その上、全員がエクストラクラス持ちとなれば、オレ達に張り合えるパーティは、世界にもそうそうないだろう。いや、もしかしたら、1組もいないかもしれない。


「そんな強力なパーティを1つの組合が独占しているのは、あまりにも良くないという話になってな」

「それに、君らの力が必要な人は、きっとたくさんいるはずだ。それやのに、西とか東とか、変な頸木で、君らのできることに制限をかけるなんて、無意味にもほどがあるやろう」

「だから我々は、君たちを独占する権利を放棄する。だが、それと同時に、どちらの組合からも手厚いサポートを受けられるように配慮しよう」

「ディグはん達は、これからも自由に動いてや。そして、西や東みたいに、たくさんの場所の人たちを救ってやって」


 2人の深く納得した表情には、この一か月間で、オレ達が積み上げてきたものがにじんでいた。


「はい……わかりました……!!」


 オレは右手でミナレスさんの、左手で艶姫さんの腕を取り、強く強く握りしめた。


「困ったことがあったら、いつでも頼ってや。遊郭も再開したし、息抜きしたくなった時にでも、また、来たってや」

「こちらも同様だ。聖塔以外にも西が管理する迷宮は数ある。また、迷宮探索がしたくなった時には、ぜひ、立ち寄ってくれ。その……たまには、アルマにも会いたいしな」


 ミナレスさんは、アルマと視線を交わす。

 アルマがジアルマと意思疎通したことについては、すでにミナレスさんにも話していた。

 その上で、ミナレスさんは、オレ達にアルマを預けることに決めたのだ。

 こうして、オレ達の長かった西と東の組合の体験活動は幕を閉じた。

 これから、どうするか、いろいろ考えてないとだな。

 でも、まずは……。


「なあ、アンシィ」

「何よ」

「帰ったら、また、畑の整備しなきゃだな」

「そうね! もしかしたら、もう実がなっているかも」

「うふふ、楽しみですね」

「ロキちゃんにも会いたいです!」

「実の収穫か……。今度こそ、背が届くだろうか……」


 みんなで、のんびりと畑いじりをするとしよう。




「あー……」


 だらりと、脱力し、目の前のチェス盤に置かれた駒をけだるげに動かす少女。

 そんな姿を眺めつつ、私は同じく盤上の駒を動かした。


「チェックメイトです。"魔王"様」

「あー、また、余の負けか……」


 もはや、随分前から勝負は見えていたのだろう。

 ひとつも悔しくなさそうにそう言うと、目の前の少女──今代の魔王様は、豪奢なソファに深く深く腰掛け、天を仰いだ。

 いつもの光景、眠そうなご尊顔、およそ活力などというものなど、一切感じられないその様子に、どうにも苦笑してしまう。


「……暇じゃ」

「そうですか? 私は魔王様とチェスができて、楽しいですけれど」


 実際、こういう知的なゲームは、私の嗜好に合っている。

 尤も、最近の魔王様は、あまり勝つことにこだわりがなくて、張り合いがないのだけれど。


「お主は、元が元じゃからな」


 鼻で笑うようなそんなしぐさも、彼女には妙に似合っていて、愛らしい。


「なぁ、何か面白い話はないのか?」

「そうですね……。あっ、そういえば」


 そうだった。魔王様に報告すべきことがあったのだった。


「あのですね。先日、魔王様の命で、蘇らせた竜帝がいましたよね」 

「ああ、鋼帝竜か。適度に人間に被害を与えるには、あいつを蘇らせるのが一番簡単じゃからな」


 そう、鋼帝竜は、その圧倒的防御能力こそ脅威だが、他の竜帝達と違って、知能が低く、本能的に人間と敵対するように"作られている"。

 ある意味で、魔王様の仕事を代行してくれるには適任ともいうべき存在だ。

 自分で動くことを極力避けたい魔王様は、この度、鋼帝竜を刺激し、復活させたわけなのだけど……。


「その鋼帝竜がですね。人間に倒されました」


 魔王様のけだるげな瞳が、少しだけ開く。


「ほう……転生者か?」

「はい、尤も、転生者一人の力ではないようですが」


 私は、魔力で空中へと映像を投影する。

 そこでは、鋼帝竜と転生者との戦いが展開されていた。

 転生者の多くは、生前から繋がりの深かった一風変わった武器を使う。

 この転生者が使っているのは、スコップだった。

 緋色のスコップを持った転生者は、鋼帝竜のブレスを見事に貫くと、そのまま、本体の頭から尾までを一息に貫いた。

 人間とは思えない芸当……さすが女神が選んだ転生者、というべきか。


「まさか……」

「どうかなさいましたか、魔王様?」


 勝鬨を上げる転生者の顔がアップになった瞬間、魔王様の表情が驚愕に染まった。

 いつもけだるげな魔王様が、こんな顔を見せるなんて……。


「こやつ、名を何という……?」

「あ、はい、確か、ディグ……と」

「ディグ……か。なるほどな」


 魔王様がどこか楽し気な表情を受かべる。

 いったい、このディグという転生者がなんだというのだろう。

 転生者なら、今までも何人か魔王様に報告済みだ。

 眼鏡をかけた洋裁を得意とする女。

 とある島を根城にする演奏家の青年。

 多くの人間たちを虜にするほどの美貌を持つ年若い少女。

 そして、中二病という不治の病を患っているらしい暑苦しい少年。

 だが、その誰を報告したときにも、魔王様がこんなふうに笑うことはなかった。


「ふふっ、そうか、いよいよか。女神よ……」

「ま、魔王様……?」

「お主に、命を与える」

「は、はっ!!」


 唐突に厳格な雰囲気を醸し出した魔王様。私も反射的に膝をつく。


「これは死しても遂げねばならぬ特命だ」

「は、はい……」


 魔王様がこんな風におっしゃるなんて、相当なことだ。

 いったいどんな特命が……。

 ごくりと唾を飲み込む。


「その特命は、あのディグと名乗る転生者を──」


 その後、下された特命は、私の思ってもみないものであった。

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