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【サカイメの書架】2020年3月 お題「青空」
「太陽が沈む頃の空の色を私たち人間は「赤」と呼ぶのよ。そして……」
美しい色の髪をした彼女は、雲ひとつない空を指差した。
「この澄み渡った空の色を「青」と呼ぶの」
空の色は彼女の髪の色に比べればずっと控えめだった。
「可視光と言ってね、人間が見ることのできる光の中でもっとも波長の短いのがこの青なの。人間はこの空より青い色を見ることはできないのよ」
「何だって。冗談だろ?」
「ううん。本当。あなたと私では目の作りが違うの」
気づかなくてごめんねと彼女は言った。
「あなたが感動したと言ってくれたこの髪の色は……私には黒に見えるのよ」
風が彼女の髪を撫でた。
僕の眼に映る彼女の髪は、この空よりずっと優しい色をしていた。




