プロローグ
私は懐中電灯を照らしながら、暗い通路を歩く。
少し生臭い匂いがする部屋に入った。
天窓から差し込む陽を利用した植物性プランクトンを栽培している水槽だけが目立つが、部屋には水槽でいっぱいだ。
私は植物プランクトンの水槽から水をすくい、エビの幼生の水槽に入れる。
次の水槽には動物性プランクトンの水槽の水を入れる。
そして、少し大きく育ったエビの水槽にあみを入れ、すくったエビをタコの水槽に入れる。
タコの水槽に懐中電灯を当てるとタコがこちらをじっと見ている。
こちらを見ているタコの名前はクララ、名付け親は私。
同僚からは、私の名前のクリスをもじってクララと名付けたと思われているが、クラーケンから名付けた。
クララは遺伝子を改造したタコで、普通のタコじゃない。
クラーケンでもないけど…
クララはものすごく賢い。
クララとは、モールス信号で会話ができる。
「クララ、あなたの好物のエビよ」と喋りながら水槽を叩く。
すると、クララは手の先に自分で作った殻の指サック?を水槽の方に少し向けたが、手を下ろした。
最初、指サックはたまたま水槽にあったものを指?足?につけたと思われていたが、指サックを取り上げても次の日には同じ指サックをつけているため、自分で作っていると思われる。
指サックは貝殻で、滑らかで美しい。
タコは殻が退化した生物なのに、クララは殻を作ることができるようだ。
クララは人間の安定した食料にするため、遺伝子改良で再生能力を高めたタコだ。
そのためか、病気にもかかりにくいことがわかっているが殻を作る能力を与えてはいない。
昨日、食料のため足を切ったから怒っているのかな?
その足は既にかなり復活してきている。
私はエビの水槽に戻り、少し大きいのエビを網でくすい、クララの水槽に入れる。
クララは見向きもしないが、ケンタ?がエビをかっさらった。
「クララ、早く食べないからとられたわよ」と言いながら水槽を叩いた。
タコの見分けは難しいが、クララは指サックをつけているので確実にわかる。
すると、クララは指サックをつけた指を南西の方向に向け、くるくる回した。
そして、水槽の壁をリズムよく叩き始める。
モールス信号で、『大きい来る』と言っている。
「おおきな何かが来る? 手をくるくる回しているって、台風? 台風が近づいているの!?」
安価な石油が手に入らないため、残っている太陽光発電設備と太陽熱で動かすスターリングエンジンと水力発電の電力で維持している文明では気象衛星なんて運用できない。
だから、台風の予測はできない。
私は慌てて研究所の外に出たが、海は静かだ…
気象衛星がない現在では、本当に近づいているのかどうかはわからない。
もしかして、クララが足を切られたことを怒って、私を混乱させようと変な動きをした?
そこまでの知性はないと思う。たぶん。
私は同僚に台風が来ると言っても信じてもらえないと思って同僚には伝えなかったが、深夜に台風がやってきて、研究所は津波に襲われた。
タコが主人公(人じゃないけど)のSFです。
長編になる予定です。
ご感想を頂ければ幸いです。




