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エンジュの夢

「⋯⋯魂の転写装置だと?」

「な?狂った妄想野郎の記録媒体だ。おおかた妻を亡くして気でも違っちまったのさ」

 シュマが呆れたように肩をすくめる。


 だが俺には気が触れた研究員の妄言と笑うことはできなかった。俺という様々な生物の寄せ集めが存在しているのだ。俺にどれだけ人の部分が残ってるのかわからないが、外見だけ人間で他は全て違う可能性すらある。この思考している俺の意識すら、本当に俺のモノかどうか分からないのだから。そんな存在を作り出せる技術を持った国があったのなら、魂の転写装置を作る国がかつて存在したとしてもおかしくはないだろう。


「エンジュはこれを探し出したいのだな」

「正確にはこれと、転写するための新しい肉体を作り出す装置の二つね」

 確かに転写先が無ければ意味をなさないものな。

「そして少なくとも魂の転写装置は存在すると私は確信してる。貴方のおかげでね」


 エンジュが少し興奮したように含みのある目を向けてくる。

「こいつのなにで確信したんだよ⋯⋯まぁ、不思議な奴ではあるけどよ。んで、テミス様は何て言ってたんだ?この事も話したんだろ?」

「私が何を探しに行こうが止めはしないって。イオドが角肉を討伐出来ようが出来なかろうが、私の行動に干渉はしないって」


 エンジュの探索が安全なものになるかどうかは俺に掛かってるわけか。エンジュなら俺が居なかろうと好き勝手に飛びだしていくのだろう。目的のために。


「俺は討伐に失敗はしない。ちょっと強化されただけのイレギュラーなど敵ではない。⋯⋯一つ聞きたいんだが、そんな命が幾つあっても足りないような探索を君の実力で強行する理由は何だ? 大人しくしておけば少なくとも五年は生きれるのだろう? 俺と出会わなかったとしても君は村の外に飛びだしていただろう。そして一年と経たずに機獣なり足を踏み外すなりで死んでいる筈だ。何もしない選択の方が益があるというのに、何故君は動くのだ?」

 俺の純粋な疑問だ。動けば高い確率で死ぬというのに、これでは死に急いでるのと変わりないではないか。


「⋯⋯もう少し手心を加えてほしいわね⋯⋯。散々な評価をありがとう。嬉しくて泣けてくるわ。⋯⋯私一人で行動すれば死ぬ確率の方が高いのは理解してるわ。でもね低い確率に賭けてでも知りたいことがあるのよ」

 知りたいこと?


「その情報に命をかける価値があるのか?」

 村のさらなる発展のための情報とか、新たな住みやすい階層を開拓したいなどか? だがエンジュにそこまでの帰属意識が有るようには思えないが。


「ん〜〜っ。これを言うのはちょっと恥ずかしいんだけどね。馬鹿だと絶対思われるしさ」

「もう馬鹿だと思ってるから早く言えよ」

 シュマの容赦ない物言いに、んがーとエンジュがシュマに掴み掛かる。そして軽くいなされぼてっと床に転がされる。


「⋯⋯小さい頃にお母さんに聞いたんだ。私の名前って何か意味があるのって」

 のそのそ立ち上がり席に着くエンジュ。

「⋯⋯お袋さんに⋯⋯」

「そしたらね、貴女の名前は昔に私たちの遠い先祖が星の上に住んでた頃の花の名前から取ったんだよって。⋯⋯私はその遥か過去に咲いていた花を想像してうっとりしちゃったのよ。なんてロマンチックなんだって。憧れたわ。大きくなって行動範囲が広がったら、憧れは夢に変わったわ。私がどれだけ探しても小さな花すら見つけられなかったのに、薬師さんは色んな薬草を採取してた」


「⋯⋯あの薬師はなぁ、得体が知れないしな」

 あの店の事か。確かにあまり気にならなかったが多種多様な草花が干されていたのを思い出した。この近辺に草木が生きられる土壌は見当たらないから、何処かに草木生い茂る階層でもあるのだろうか?


「さっそく私は突撃したんだけど、薬師さんは場所とか教えてくれなかった。企業秘密だって。だけど私はいつか大好きだったお母さんがつけてくれた、私の名前の元になった花を探し出したい。そのためには過去の植物の情報が記録されてる図鑑を探し出したいの」


 エンジュの幼い頃から抱き続けただろう小さな夢を、そんなことの為に命を張るのかとは言えなかった。夢を語る彼女の星のような目の輝きは俺の理解を超えていたが、その光の源は何者にも侵す事は許されないエンジュの聖域なのだと直感していた。


「お袋さんはその花が入った記録媒体は持ってなかったのか? 観たことがあるからお前に名付けたんだろ?」

「お母さんが持ってたのは図鑑じゃなくて、花言葉をまとめたものだったの。絵や写真は記載されてなかったわ」

「そのエンジュの花言葉とやらは何だったんだ?」

 何となく気になった。


「⋯⋯貴方が、しっかり討伐成功したら教えてあげる。貴方の記憶探しの旅もしなくちゃいけないんだから、必ず成功させてね!」

「あぁ」

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