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昔馴染み?

 目の前に現れてミゼーアに命令した美女。腰までの長い黒髪に、ゆったりとしたドレスのような服でしなやかな肢体を包み込んでいる。

 気配は感じなかった。まさにこの場にいきなり出現したように思う。


「⋯⋯AIのホログラムか?」

 俺にわかるのはそこまでだ。だが目の前の美女はそこに実在しているようにしか見えない。実体を伴っているように。


「———暗月、あなたの時代からずいぶん技術は進んだのですよ。⋯⋯文明は後退しましたが」

 旧知の仲の者に話しかけるような話し方。この女は俺を知っている? だが暗月とは何だ。話し方の割にどこか恐れを孕んだような目は何故だ。


「俺を知っているのか? 暗月とは何だ」

「⋯⋯もしやとは思っていましたが、記憶がないのですね」

 どこか安堵したように言う美女。


「テミス様、今連れて行くところだったのですよ。遊んでいた訳ではありません」

 ミゼーアが膝立ちになって畏まる。シュマもエンジュも慌てて倣う。

 エンジュが何か深刻なことを言い出しそうな雰囲気だったが、流石に今は何も言えないな。


「居ても立っても居られなかったものですから。分け身なので安心してください」

 この女がテミス様か。見た目より幼い印象を受ける。『分け身』なるものが何か記憶にないが、実体を伴う写し身と言ったところか。

 テミス様が跪くミゼーア達から視線を俺に移す。


「いろいろあなたも聞きたい事があるでしょう。今は何と名乗っているのですか?」

「イオドだ」

「イオド⋯⋯ね。いいでしょう。そしてエンジュ。よく無事に戻りましたね。貴女も一緒に来なさい。貴女にも話したい事があります」

「はい」

 俺とエンジュは先導するミゼーアとテミス様の後ろをついて行くことになった。


                   ◇


 俺とエンジュはテミス様達に連れられてエンジュの村を話し合いの場に向かって歩いている。

 それなりの広さのある村らしく、品物の選別をする大人や装備品の手入れをしている女子供。様々な人が協力しあって暮らしているように見える。


「結構な人数がいるようだが、食料とかどうしてるんだ?」

 槍や剣らしき物を持ってるが、何か狩る獣など居るのだろうか。

「私の管理する精製槽で集めた素材などを加工し食事やその他様々なもの必要なだけ分配しています」

「テミス様が分配しているのか? ならあそこで品物を広げてる彼らは何をしているんだ?」

 分配で必要なものが貰えるなら、商売など成り立たないのではないか?


「貴方に様付けで呼ばれるとムズムズしますね。⋯⋯あれは彼らが個人で拾ってきたものを物々交換しているのですよ。キノコや機獣の素材など。私の精製槽も万能ではないので。人間は最低限必要なものだけでは生きていけないのですよ」

 テミス様の言っている事が俺にはよくわからない。必要なものが揃ってれば、それで十分ではないか。


「何故そんなことをする必要がって顔してるね、イオド」

 エンジュがちんぷんかんぷんな俺を振り返って苦笑する。

「実際、理解できない。足りているのならそれ以上は必要ないだろう?」

「必要な分だけだとね、足りないんだ。私たち人間には少し多めぐらいが丁度いいんだ」

 何だその矛盾した論理は。足りているのに足りない? ますますわからない。


「その余剰の部分を文化と呼ぶのですよ。物々交換のための素材の採集などは私からも推奨しているのです。文化的な営みは人間が生きて行く上でとても大切なことなので。必要分以上、獲物や素材を持ってきた者にはテミスポイントが付与されます」

 テミス様がふふんと鼻を鳴らして、俺に力説する。


「テミスポイント?」

「うむ。我々がテミス様に忠誠を誓っている理由の一つだな。無論、仕える理由はそれだけではないが」

 テミス様を守るように歩くミゼーアが、上気した顔でいかにテミスポイントが大事か力説した。

「物々交換の他にもこのテミスポイントと品物を交換してもいいですし、テミスポイントを一定まで貯めてから私のもとに来ると様々な特典と交換もできるのです!」


 テミス様も何故か興奮し出して、テミスポイントのよさをアピールしてくる。

 俺はテミス様とミゼーアに挟まれながらテミスポイントの良さをくどくど説かれ、気づくと目的の場所に到着していたようだ。

「着きましたね。本題は寄合い所で話しましょう」

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