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許可が欲しい

「隊長!」

 シュマがいきなり現れた整った面の男を隊長と呼んだ。

 銀の緩くウェーブした長髪に精悍な顔。雰囲気と細身ながら鍛え上げられた身体から、相当な実力者だというのが窺える。


「⋯⋯ミゼーア」

 エンジュが気まずそうにキラキラしたイケメンを呼ぶ。

「よく無事に帰ったね、エンジュ。いつも言ってるだろ、兄と呼んでも構わないんだよ?」

 ニコッとエンジュに向けて微笑むミゼーア。

 エンジュがミゼーアと呼んだこの男は兄だったのか。あまり似てないな。


「ミゼーア、彼はイオドって言って、私の命の恩人なの。だから村に入れてあげて欲しいんだけど⋯⋯」

 エンジュに対してミゼーアは怒ってはいなさそうだ。エンジュも兄が思ったより怒ってなさそうで少しホッとしたのか表情が優しくなっている。


「ほぉ、私はエンジュが怪しい男を連れてきたとしか報告を受けていないからね。そうか君がエンジュを助けてくれたのか。———心から礼を言うよ。大事な家族なんだ。ありがとう」

 そう言ってミゼーアは彼にとって得体の知れないだろう俺に頭を下げた。


「隊長が頭下げる事じゃねぇっすよ! しかもこんな得体の知れない男に!」

 シュマがミゼーアに頭を上げるよう促すが、ミゼーアは、

「得体が知れなかろうと、家族を助けてもらったんだ。ここで頭を下げられないような兄など兄とは呼べないからね」

 そう言ってミゼーアはしっかり時間をかけて頭を上げた。


「そうかもしれないですけど、軽々しく下げていい頭じゃねぇのはわかってくださいよ!」

 シュマとしてはミゼーアに頭を下げさせた俺が忌々しいようで、より一層目付きが険しくなる。

 俺が下げさせたわけでは無いのだがな。


「それはそうと、聞き捨てならないなエンジュ。命の危機に陥いるような目に遭ったんだね?」

 ニコッとエンジュに向けて優しげに微笑むが、その目は笑っていない。

「⋯⋯えっと、お兄様これには訳があってね」

 エンジュが顔を引き攣らせて言い訳を試みるが、ミゼーアからの怒りの雰囲気は変わらない。


「詳しい事は後でゆっくり聞かせてね」

 ガクッとエンジュが項垂れる。この後のことを想像してか、再びプルプルと震え出した。

 エンジュに向けて今言うべき事は言い終わったのか、ミゼーアは俺に向き直る。


「そして君だ。命の恩人という事で心苦しいが、私から君に村への滞在許可は出せない」

 ミゼーアはエンジュに向ける優しげな顔から一転、冷たい氷のような表情でそう俺に伝える。

「どうしてよミゼーア! 彼は命の恩人なのよ!ミゼーアだって感謝してたじゃないなのに———」

 ミゼーアは流麗な動作でエンジュの言葉を人差し指で止める。

「最後まで聞きなさい。正確に言うと許可を出すのは私ではない。テミス様だ。テミス様が私に彼を連れてくるよう仰せつかった。彼に問いたい事があるようだ」


「それって⋯⋯」

 雲行きが変わった事でエンジュはどう受け取ったらいいかわからないのか、少し戸惑っているようだ。

「うん。詳しい事は聞いていないが、恐らくその問答如何で彼の処遇を判断されるのだろう」

 どうもこの話の流れだと、俺はテミス様とやらのもとに出向くことになるわけだが、

「テミス様とやらは、俺が聞いた感じから想像するにこの村における相当な有力者なのだろう? 俺が直接会っても大丈夫なのか?」


 俺の疑問にミゼーアが微笑みながら答える。

「君の疑問ももっともだな。テミス様に何か起こったらどうするのか、具体的には君が危害を加える可能性を考えていないのか。そう問いたいわけだろう?」

 俺が疑問したのはそこだ。推測するにテミス様は村長かそれに近しい存在だろう。得体の知れない人間に気軽に会おうとするなんて不用心でないかと思ったんだが。


「簡単に言えば直接会うわけではないから問題ない」

 まぁ、流石にそうなるか。代理人を挟んで間接的に会話でもするのかもしれないな。


「———そして、仮に直接相対する場合だろうと私という剣ある限り、テミス様に指一本触れる事は許可されない」


「———!」

 微笑みの表情も立ち姿も何も変わらない筈のミゼーアから、俺の身体が物理的に圧されるかのような強烈な殺気が放たれる。

 肉食の獣を幻視させさえするミゼーアの殺気に、何故だか俺は胸の中が高まっていくのを自覚していた。


「遊んでないで、早くその男を連れてきなさい。ミゼーア」


 突然現れた、この世のものとは思えない程の美女がミゼーアにそう言い放った。

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