ある夜の電話
AWTからログアウトした俺は、いつも通り夕飯を作っていた。ちなみに、今日はグラタンである。冷蔵庫に入れていた「5種の細切りチーズ」の賞味期限が切れそうだったので、急遽作る必要が出てきたのだ。
オーブンに入れて、タイマーをセットして。よし終わった。後は念のために焦げないか見張っておくだけのお仕事だ。
オーブンの前に木製の腰掛けをセットし、そこに座った俺は暇を持て余し、自室に放置してあったスマホを持ってくる。スマホは凄いよな。無料で遊べるゲームがいくらでも見つかる。新着動画が次々と上がる有名な動画配信サービスも無料で閲覧できる。また、今ではスマホだけでプログラミングをする事もできる。スマホに感謝しない日は無い。
なんてことを思いながら、オーブン前に腰を掛けたまさにその時、無料通話がかかってきた。そっか、ネットを介した通話は電話料金がかからない。これもスマホの恩恵の一つである。っとそんなこと考えてる場合じゃない。誰からかかってきた電話か確認し、俺はその電話に出た。
「もしもし、紅?」
相手は紅陽登。ゲーム内ではクリムゾン=サンライズと名乗っている人物である。
「もしもし、セイ。すまん!夏休みの課題を手伝ってくれ!」
「夏休みの課題?そんなのあったか?」
俺が履修している必須科目はほぼ全て前期と後期で分かれており、夏休みをまたぐタイプの授業は数個しかなかった。それらの授業においても、出された課題は皆無と言っても過言ではない量しかなかったはずだ。
「あれだよ!あのめっちゃ難しい奴!」
「どれ?」
「だから!『流体シミュレーション』とかいうやつ!グループ組まされてプログラムとレポート書いて提出する奴!」
「ああ、あったな。で、なんで俺に?他のメンバーに聞けばいいだろ?」
選択必須科目の一つで、俺も履修しているプログラミングの講義である。ちなみに、流体とはその名の通り「流れ動く物」のことであり、液体や気体の事である。それをシミュレーションする、つまりCG上で川を再現したり煙を再現したりするプログラムを作成しないといけない。
そしてこの講義。グループワークをするのが基本の授業。紅の班の進捗を全く知らない俺に「手伝って」と言われても、手伝えるはずがない。
ちなみに、俺達の班はもうとっくに仕上げて提出済みである。
「みんなと相談したんだ。結果『何から始めたらいいかさっぱりわからん!』って結論になって『セイに聞こう!』って事になった。」
「お前らなあ……。えっと、お前らの班って誰が居たっけ?」
「俺と、佐々木。それから美智と、春奈と、若崎だ。」
「わーー。なるほどなあ。」
陽キャグループ。その一言に尽きる。そういや、授業中も隠れてスマホゲームしてたなあ。
「頼む。助けて!マジヤバい!」
「助けてって言われても。授業中に先生が板書した式をプログラムに直して『終わりましたーー』って言っとけば何とかなるだろ?」
「だれもノート取ってなかった。」
「……。あきれて物が言えん。俺の班の小春さんが綺麗なノート作ってるから、頼んでみてくれ。」
「あの氷の美女に連絡しろと?無理無理。絶対無視される!」
「大丈夫。無視したりするような奴じゃないって。」
「というか!お前のノートを送ってくれよ!それで済む話じゃん!」
「……。俺もノート取ってない。」
「人の事言えねーじゃん!」
「だって、全部知ってたんだもん……。」
「このやろう!知識の暴力だ!!」
「まあ分かったよ。取り敢えず、俺の方から小春さんに頼んでみるよ。」
「いや。流石に。自分で連絡するよ。人に連絡してもらうのは男として情けない。」
…
……
………
「ところでさ。前から疑問に思ってるんだけど、なんでゲーム内ではあんなに高慢な態度なの?」
こいつ。リアルではいい性格してるのに、なぜかAWTでは高慢な態度をしている。前は「調子に乗ってたのかな?」と思っていたが、一度改めて聞いてみたかったのだ。
「ああ。そりゃだって。そういうもんだろ?」
「ごめん、何を言いたいのか全く分からん。きちんと説明してくれ。」
「強い力を持つ者は、高慢に振舞う方が、かっこいいだろ?」
「……?それって悪役では?」
「なんというか、『余裕だぜ』みたいな?『世間から嫌われてもいいんだぜ!』みたいな?『破天荒!』みたいな?」
「織田信長が父の葬儀の時に抹香を投げたみたいな感じか。ふむ。ちょっと分かった気がする。」
「あーーそうそう。そんな感じ。」
「でも、それでいいのか?それこそ、アルカディアの支持率が一気に下がりそうだけど。」
「アルカディアって初心者のサポートとかそういう事業もやってるだろ?あと、武器や防具の貸し出しサービスとかも行っているんだ。だから、支持率が低くは無い。それに、支持してくれる人たちは『またあいつら中二病プレイやってるわ~』くらいにしか思ってないだろうし。」
「ふーん。それならいいけど。まあ、取りあえず、引き続きお互い頑張ろうぜ。」
「おう!……あのさ。ノート頂いてもまだ分からなかったら、その時は教えてくれ!」
「別にいいぜーー。ただ、最初は自分たちで努力してみろよ。」
「分かってる。」
◆
余談だが、小春さんは心優しくもノートを見せてくれたようだ。そして、紅のグループメンバーは感謝の気持ちとして、回転寿司をおごってWin-Winにしたらしい。
その後、俺の所に助けを求めてこなかったことから、彼らは自分たちでやり切ったのだろう。よかったよかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今後とも本作をよろしくお願いします
最近、「章」という機能を知りました……。もしかしたら、この小説も章分けするかもしれません。




