甘味処・アクアクッキー
アクアシティが解放されて数週間。その影響は旅人だけでなく、住人にも及んでいた。
ゲートシティーにおいて、町の中心はギルド本部などの公共施設が占領していた。公共施設が町はずれにあったら不便でしょうがないからな。「完全な計画都市」たるゲートシティーは利便性を追求出来たわけだ。
一方、アクアシティは(元から建物が建っていたこと以外)まっさらな都市だ。どこに何が設置されるかはプレイヤー(=住人+旅人)に委ねられている。
さて。今まで住人が営む店はゲートシティーの北区に集中していた。町の中心から離れているそこへ足を運ぶ旅人はあまりいなかった。だから、住人が営む店を利用するのは主に住人であった。
しかし、アクアシティの中心地の建物が売りに出されたとなれば、状況は変わってくる。旅人も住人も楽しめる施設をそこに作れば、きっと多くの人に注目されるだろう。
そのことを真っ先に思い付き行動を始めたのは、ローラン=エルシーという住人であった。彼女はこのゲームでお菓子作りを生業としていたプレイヤー。ベーキングパウダーもなければ、ホットケーキミックスもないこの世界で美味しい料理を作る彼女の腕は先日の武術大会の売り上げにも反映されている。
住人である彼女は、商業ギルドで申請すればローンを組むことが出来るので、いいロケーションを入手できた。さて、次は「入りたくなる外見」を整える必要がある。そのために、可愛らしい看板を作ってもらい、可愛らしい椅子や机、食器をこしらえた。これで見た目は完成。
次は味だ。クッキーの味にはバリエーションを付け、様々な種類の果実水を楽しめるようにする。さらに、最近串焼き屋のおっちゃんことドルフが醤油を作る過程で出来たパン用酵母を使ってカップケーキなどの開発にも取り組んだ。また、一定数の人気を集めている和菓子も提供してみようと考えている。このように、「甘味処・アクアクッキー」は着々と開店の準備を進めたのだった。
◆
「すげえ。カフェだ……。」
俺はアクアシティに出来たカフェを見に来ていた。なんでも、武術大会で俺の綿菓子といい勝負をしたクッキーの製作者「ローラン=エルシー」が開店する店のようで、俺はその味に期待していた。そして、店の前までやってきたのだが……。
「入れない……!」
入れなかった。かなりの人気店のようで、外のベンチで待っている人が居るくらいだ。「じゃあ、待てよ!」と思うかもしれない。しかし、俺の入店を妨げる要因がもう一つあった。
「女子会かカップルで埋まっている……。独り身の俺には入れない空間だ……。」
という訳だ。あーあ。空いてる時を狙うことにするかあ。
「やあ、我が友よ!こんなところで何をしているのかね?」
「うん?クリムゾンじゃないか。」
「ふむ、さてはそこにある甘味処に入ろうと?辞めておけ!あの先に足を踏み入れる権利をお前は有していない!このまま進めば、お前はたちまち光の魔力に侵され、自我が保てなくなるぞ!」
「わお。すごい表現。要は俺が一人であのきらびやかな空間に入ったら心に傷を負うって言いたいんだよな?」
回りくどいなあ。とは言わないでおく。
「是。」
「俺もそう思ってた。出直すとするよ。」
「フッ!所詮は軟弱者か……。」
「お前は俺にどうしてほしいんだよ?!」
「あ。すまん。無視してくれて構わんぞ。言いたいだけだから。」
「素に戻しちゃった!悪い、思わずツッコミを入れてしまった。」
(ゲーム内での)クリムゾンの発言は、基本スルーする必要がある。それを改めて思い知ったのだった。
◆
その後も軽くクリムゾンと話した後、諦めて帰ろうと踵を返したその時だった。
「あれ、お兄ちゃん?なんでここに?」
「リオカじゃん。カフェに入りたいなって思ってここまで来たんだ。だけど、あの状況で男一人で入るにはつらいなあと思って。」
「ああ……なるほど。私、今から入店したいと思ってるんだけど、一緒に入る?」
「マジ?それはありがたい……のか?」
それはそれで空しいのだが。
「それじゃあ、入ろ入ろ!」
リオカが俺の手を引き、店前のベンチへと歩みを進める。ええい。こうなったら腹をくくるか。
店の外で待つこと約10分。とうとう店の中に案内された。
「ふえ~。おしゃれだなあ。」
「そうねーー!これは味にも期待ね!」
アンティークな雰囲気を基調としながらも、ところどころに和の要素が織り込まれており、和洋折衷を具現化したようなデザインである。カフェと甘味処の間とでも言おうか。
「二名様ですか?それではあちらの席へどうぞ。注文がきまりましたらベルでお呼び下さい!」
案内されるがままに、俺達は窓際の席に着いた。窓からは川が見え、なんとも心落ち着く空間となっている。
「良い雰囲気ね、このお店。」
「だなーー!暫く、店を眺めていたいが、外で待っている人もいるし、早く注文するか。」
「そうね。それがメニューかしら?」
「のようだな。どれどれ……。」
いつも読んでいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!!




