9 木曜日・後
新しく出来た喫茶店で、昼食を注文した。裏道にあるからか、人は多くない。客の話し声も大きくなく、落ち着いた雰囲気の店だった。
「もうそんな時期なんだね」
スバルは壁に貼ってある紙を指した。それは、王宮職員採用試験の告知だった。職種はいろいろあり、大きくは警備、情報、整備、医療に分けられている。俺は一応警備所属になる。
「医療は医者と看護師、検査技師だけだったか?」
「衛生士も医療だよ。病原菌発見や新薬開発もあるから、去年所属が変わったんだ」
「変更があったのか。前は、衛生士は情報だったよな。試験前に勉強し直すか」
実際働いていると所属なんて意識することはない。それでも、組織のことは覚えておくべきだ。最新の情報を取り入れないと、記憶力が高くても意味がない。
それにしても、スバルは抜け目ない。数値が高いのは、学力の数値が高いからだろう。体力面は平均だと思う。
「また試験受けるの?」
「王子にも言われてるしな。確認のために受ける」
「確認なんて必要ないのに」
受かって当然、と付け足したスバルは、食前の緑茶を一口で飲み干した。
試験を受けて確認するのは、自分の実力だ。数値では平均だから、実践で計らないと分からない。
王宮で働く資格があるのか、側近の資質はあるのか。毎年試験に合格することで、自分の価値を確かめていた。
受かって当然、という評価は嬉しかったけど顔に出さない。
「ご飯食べたら家に帰ろう。なんか疲れた」
「施設長に会ったからか?」
「まあね。あの人に会うと、自分の行動を見直させられるからね。驕ってないか、自惚れていないか。良い機会だとは思うけど」
確かに、自分を見直す良い機会になる。一緒に暮らしていたとき、彼女から学んだことは多い。彼女の教えで身に付いたことは王宮では活きている。
「本当に、あの人に保護されて良かったと思う。それが一つ目の幸せだ」
「ニつ目は?」
「俺が必要だと言われたことだ」
そして、それが最後だろう。これ以上の幸せなんてない。
これ以上なんていらないから、この幸せだけを離さない。
スバルは穏やかに笑った。それは見守るような笑みだった。一歳差が、大きく感じる。自然と笑顔が浮かんだ。彼の前だと無表情が崩れる。
表情を戻し、運ばれてきた定食を食べながら夕食は煮物に決めた。