12 土曜日・前
これが革命だとは思わない。
これで国が変わったとして、それは幸せなのだろうか。今以上に間違っていることは確かだ。
死の気配が、頭にこびりついて離れない。
「大丈夫か?」
スバルは軽く肩を叩いた。観察するように、辺りを見回している。
盟主の指示通り、暴力はない。流れた血はない。
しかし、動かない者の口からは唾液が流れていた。集まった成員の中で、一部の者だけが倒れている。
二つの部屋に分けられ、一方の部屋だけでそれは起こった。今日はカオルの手によって変装しているから、俺達のことは誰にも知られていない。案内された部屋から気付かれないようにこちらに移動した。
景気づけの乾杯だと言う合図の後に起こった惨劇。乾杯と言ったのは誰だったか。
そうか。そういうことだったのか。
「なんとか。お前は?」
「想定の範囲内だ」
この状況を予想していたのか。いや、予想していたから大丈夫だということはない。
スバルだから、だ。どんなに辛くても、苦しくても、彼は平気な振りをする。
強く握り締めた右手が震えていた。
「これからどうするんだ?」
「僕が動く」
見物は終わり。そう言ったスバルは、右手を開いて払った。手のひらには爪の痕が残っていて、血が滲んでいた。
全てを理解している彼だからこそ終わらせることができる。
「もっと早く動けば良かったかな」
スバルは天井を見上げた。
蛍光灯が煌々と灯っている。静かだった。別の部屋ではこの部屋で起こったことはまだ知られていないようだ。
「いつかは起こることだったんだろう? 後悔はするな」
「そうだよね」
スバルは迷ったわけじゃない。ただ、俺の気持ちを確かめただけだ。
ちゃんとついてくる意思があるか。流されているだけじゃないか。スバルを信じているか。
そんなこと、今更だ。
「さあ、王宮に行こうか」
一週間振りの王宮だった。一週間の休暇は、短く感じられた。
王宮の周りは、いつもどおりだった。やはり、あの部屋だけで事件は起こったんだ。まだ事件は知れ渡っていない。
それを確認してから、王宮から離れた隠れ通路から内部に入った。道は枝分かれしているけど、正しい道を知っている。途中の罠を解除しながら、急いで中心を目指した。
国王は、きっと王座にいる。俺たちを待っている。スバルは後ろを離れずについてきた。
王座へと通じる扉を開けた。
王座には国王が座り、両脇には王妃と王子が立っていた。
「セイジ」
国王の厳かな声が響いた。
その声に答えなかった。
俺のことじゃない。それは、俺の名前じゃない。
その名前は。
「遅くなりました」
隣にいる彼は答えた。
「早く準備を」
王子は手に持っていた外衣を俺に渡した。
第一王子、セイジの兄であるユウト王子。俺が王子と呼ぶ人だ。
そして、俺が従う人は。
「スバル、行くよ」
名前を呼ばれ、セイジに外衣を掛けた。
俺の本当の名前はスバルで、『王子』であるセイジと名前を交換していた。街に出るときは、いつもそうしている。
この国の王子は二人いる。セイジは、第二王子だった。政策を作った『王子』は、セイジだ。
でも、表舞台に出なかった。跡を継ぐのは兄だということで、政策を作ったことも公表されていない。顔を出すのは専らユウト王子で、セイジの顔を知る者は少なかった。だからこそ、街に出ても気付かれない。気付かれたとしても、ただの似ている人だと思われる。
名前だけが知られている存在だった。
その名前を俺と交換しているから、『王子』本人だとは思われない。
「間に合ったかな」
入口から聞こえた声に、振り返った。
何故ここにいるんだ。いや、つけられていたのか。俺たちが隠れ通路から中に入るのを予想していたんだろう。
革命同盟の盟主が立っていた。その横には付き人と集会で測定器を持っていた女性がいた。
袖にある隠し武器に手を伸ばした。警備兵は、入口で警戒している。
「公表するのは待っていただけませんか?」
盟主はセイジに向かって言った。国王でもなく、王妃でもなく、ユウト王子でもない。
いつから『セイジ』だと気付いていたんだろう。
セイジは口の端を上げた。
「そうだね。まずは説明してもらおうか。これは正しかったのか?」
盟主は初めて表情を苦いものに変えた。盟主の指示じゃない。でも、同盟で起こったことは盟主の責任だ。
それが昔の同盟がきっかけで引き起こしたとしても。
盟主が動くには遅すぎたんだ。
「この国は、このままでいいんです」
女性は服の中から小瓶を取り出し、持つ手を伸ばした。
その手は、セイジに向けられている。
「君は衛生士だったね。毒物を使ったわけだ。飲み物または食べ物に入れたとか」
「はい。昔からの成員だけが排除対象でしたから。この国の管理に不満を持つなんてあってはならないんです」
不満を持つ者、つまり盟主が変わる前の革命同盟の成員だ。




