39話 カネの音色
お金持ちになる妄想、好きですか?
僕は毎日しています。
(今月は11$。一ヶ月で1$ずつ増えるから…!)
2025.9.17 微修正
ギッシトン、ギィトン、ギッシトン、ギィトン
相棒の栗毛の扱いも慣れたもので、歩く速度もかなり速くなった気がする。走る事こそまだ出来ないが、薪拾いに参加している子供たち相手であれば、もう後れを取る事は無くなって来た。もっとも、そんなちっぽけな自信は、後ろを振り返ると打ち砕かれてしまうのだが…。
コッテココッテコ、コッテココッテコ
後ろにいる昆布さんの様子を伺うと、周囲に目を配る余裕を見せながらワンダのペースに合わせてくれている。
(僕も順調に成長しているはずなんだけどね、この人を見ちゃうとなぁ…)
竹馬を数分で乗りこなし、数日で走り回るような人と比べてしまうと、自尊心が吹き飛ばされてしまう。歩くのに集中する事で雑念を振り払い、昨日よりは早く収穫場へ到着出来た気がする。
「美唄さん、ロンニヒワ」
「ワンダ様、ロンニヒワゥ」
時間に少し余裕があるので、自分で服を脱いで配置に着く。そして、タイミングを見計らって美唄さんにだけ聞こえるように声をかける。
(びばいさん!きノウノみズヲ出したのがヘンナうワさニなッテしマッテいてこマッテるのですが…)コソコソ
(えぇ、こちらでも把握しています。見かけたら訂正するつもりですが、なかなか私の前では話さないようにしているようでして…。これ以上悪化しないように、しばらく水を出すのは控えていただけたら助かります)コソコソ
(ワかリました、よろしくおネガいします)
余計な手間を取らせてしまって申し訳ない気持ちになる。『それもこれも、昆布弟達が余計なことをするからだ』と、彼らをしばきたくなってしまうが、とっくに昆布さんの手によって執行済みだろう。
(余計な事は考えず、今日は大人しくしておこう)
収穫中は水操作の練習に専念し、終わったらさっさと帰宅した。帰り道でも噂話をしている人たちは見かけたが、危害を加えられるわけでもないし、放っておくことにした。
(触らぬ神に祟りなし。大事になりそうなら、美唄さんが何とかしてくれるでしょ)
◆ ⁂ ◆
本日は薄曇り。
枝葉の収穫には十分な日差しではある。けれど、美唄さんから『明日は納品に行って欲しい』と言われたので、今日は歩荷デーだ。
昨日のうちに荷造りされていた背負子を背負い、昆布さんに行先を伝えてから里を出る。竹馬が体重移動の練習になったのか、多少重たい荷物でも運べるようになってきている。
(今日の重さは…ざっと30kgくらいかな?重さだけで皮算用すると¥10,000くらいだけど、安い方の液肥が重たいから¥9,000くらいかね?借金が確か…¥8,900って事は…、今回だけで完済か!)
実際はそう美味しい話ではないだろうが、背中の重さが否応なしに期待を膨らませてくる。きつく縛られても『ガッシャガッシャ』と音を立てる荷物が、お金に見えてくる。
(…そういえば、食器は今回が初めてだな。重いから買取が高いと良いんだけど)
エルフの里の圧縮木材で作られた食器は丈夫で長持ちすると評判で、売れ筋商品なのだと聞いている。ただ、子どもが圧縮の練習で作った物を大人が手直しした物らしいので、そこが不安要素ではある。圧縮されているおかげで見た目よりも重たいので、スプーンと皿の30セットで15kgくらいはありそうだ。
(圧縮による付加価値、子どもが作った少し歪な商品、これだけ沢山あるってことは業務用かもしれない。多少安くしないと、買い手がつかないよなぁ…。でも、30セットもあるし。期待しても良いのかな?)
期待に胸を膨らませつつ順調に歩くこと、20分程。ふと目印の千歳さん本体に目を向けると、もう半分くらいまで来ていた。
(おぉー!だいぶ早く歩けるようになってたんだな!これなら40分くらいで到着できそうだ!)
前回が1時間超だったので、20分以上の短縮になるだろうか。薪拾いと、竹馬と、栗毛の長さ調整をしてもらって、歩行がスムーズになったお陰だろう。こうして成長が実感できると、とてもやる気が出る。
(やっぱり他人と比べちゃダメだよね。自分と比べなきゃ)
この調子なら、次からは薪拾いをしてから出発しても良いかもしれない。一日でこなせる仕事が増えて来て、とても充実した気分だ。
(この調子で稼げるなら、ある程度貯まったら他の町に行って服とか靴とか買いたいな)
どうも、あの里は定住するには居心地が悪い。最初の印象が悪すぎたのだろう。慣れてはきたが、噂も今回だけの事とは思えない。早めに他の町へ行く算段を付けたいところだ。
ギッシトン、ギィトン、ギッシトン、ギィトン
千歳さんの本体である大樹に到着した。太陽の傾きからすると、やはり40分くらいで着けたようだ。
「チトセさン、ロンニヒワ~」
ギィィィィ…、ギギギィィ…
「やぁ、ワンダさん。いらっしゃい、よく来たねぇ」
いつも通り、千歳さんがゆっくりとした動きで出迎えてくれた。猫草はどうなっただろうか。
(気になるけど、先に仕事を済ませないとね。もし生まれてたら昆布さんに教えてあげよう)
――あまり変わらないようでいて、少しずつ変わっていく日常。商売繁盛、順風満帆、山溜穿石。
明日も成長できると信じて、まずは目の前の事からと、仕事に励むワンダだった。
今回のまとめ
・成長速度が違い過ぎる人が側にいると大変
・悪い噂、収束へ向かう…?
・歩荷デー
・果たして、今回の報酬はいかに!
・自分との闘い
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…
「山溜穿石」は、山から滴り落ちる水が、たとえ小さな力であっても長期間にわたって同じ場所に落ち続けることで、硬い石に穴を開けることができるように、わずかな力や努力でも、それを積み重ねればいずれは大きなことを成し遂げられる、という意味の四字熟語です。
以上、グーグル先生よりコピペ




