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37話 ウォーターサーバーの憂鬱

男の人から出て来た水が『綺麗だと分かっていても飲みたくない』という気持ちは分かります。これは、男女差別なのでしょうか?

2025.9.8 加筆修正

 薪拾いからの帰り道。せっかく新しい魔法の使い方を開発したのに、すっかり木古内(きこない)さんに乗っ取られたワンダは、トボトボと歩いていた。


(好奇心旺盛な木古内(きこない)さんに見つかったのが運の付きだったな…。まぁ、僕が上達してるのには変わりないんだし、引き続き頑張るかね)


 未だに『圧縮した水の爪』を見せびらかしている木古内(きこない)さんを恨めし気に見ながら、無理やりにでもポジティブに考える。


(…そういえば、もう一つ試そうと思ってたんだった)


 『ワンダの体に対して、他の人が飲み水魔法を使うと水が出るのかどうか』


 もうすぐ集合場所に到着する。昆布(こんぶ)さんもちょうど来たし、彼女に試してもらおう。


(弟くん達じゃ出来るか分からないし、木古内(きこない)さんにだけ花を持たせるのは(しゃく)だからね!)


昆布(こんぶ)さん、ロンニヒワ」


「ワンダ様、ロンニヒワゥ。今日も早いですね」


 新しい魔法の使い方を開発したのに、木古内(きこない)さんが全部持って行ってしまったと愚痴(ぐち)ると慰めてくれた。


「それはそれは…。木古内(きこない)さんは、娯楽に目が無いですからね。ご愁傷さまでした」


あリガトう(ありがとう)ございます。それで、ひトツ(一つ)タメシタいの(試したいの)ですが。ボクの(僕の)カらダ()から、ホカのヒとデモ(他の人でも)ミズヲひキ(水を引き)ダセルのカ(出せるのか)ヤッテみテ(やってみて)もらえますか?」


「ワンダ様から…?分かりました」


 自分で出そうと意識してしまうと意味が無いので、無心で昆布(こんぶ)さんの魔法を待つ。昆布(こんぶ)さんが、ワンダの手に向かって魔法を行使すると――。


 チョロ…チョロチョロ…


「あっ!」


 無事に水が出て来たのだが、水が触れるか触れないかの瞬間に、昆布(こんぶ)さんが慌てて手を引っ込めた。


(その反応は流石に傷つくんですが…)


 ジト目で見つめると、慌てて弁解してくる昆布(こんぶ)さん。


「ご、ごめんなさい!つい!(おしっこに見えちゃって…)ボソッ」


(…小声で言ったのは、聞こえなかったことにしよう)


「おぉ!いつでも水が飲めるじゃん。便利だなお前!」「俺もやるー!」


 弟たちが参戦してきた。ワンダの手を(つか)んで指先から水を飲もうとすると…。


「汚いからダメ!!」


 昆布(こんぶ)さんが、凄い勢いでワンダの手を振り払った。


(汚いって…、流石に酷くない…?おしっこじゃないよ…?)


「ごめんなさい!つい!」


(まぁ、薪拾いで多少汚れてたかもしれないけどさ…。完全に汚物扱いじゃん…ハ、ハ、ハ)


 ショックを受けて硬直しているワンダに対して『飲まなければいいんだろ』と言わんばかりに、耳やら鼻やらと、あちこちから水を引き出し始める弟達。おへそから出したかと思えば、終いには股間からも水を引き出し始めたので、おしっこを漏らしたようにズボンが濡れてしまった。


「こら!何やってるの!バカ!本当に申し訳ありません…。ズボンが濡れてしまいましたね…」


(酷さは弟くんも、昆布(こんぶ)さんも変わらない気がするけど)


 朝の、新技開発のワクワクはどこへやら。『気にしないでください』と昆布(こんぶ)さんに伝えると、トボトボと枝葉(グローリー)の収穫場へ向かうワンダだった。


◆ ⁂ ◆


 収穫場へ到着したワンダが元気がない様子を見て、美唄(びばい)さんが心配そうに声をかけてきてくれた。


「ワンダ様、ロンニヒワゥ。…何かありましたか?」


「実は…」


 罪悪感を感じていたのか、昆布(こんぶ)さんが代わりに説明してくれた。


「自分の体から水を…。竹馬もそうですが、ワンダ様は新しい物を生み出すのが得意なようですね」


きニナッタかラ(気になったから)ヤッテみたダケ(やってみただけ)ですよ。タケうマハ(竹馬は)コキョうノ(故郷の)オモチャ(玩具)ですし」


「ちょっとした思い付きでも、思わぬところで役に立つ事もありますから。今後も、何かあれば仰ってください」


ワカリ(分かり)ました」


 ズボンが生乾きだったので、日当たりの良い所に干してもらった。


(変な噂が広まらなきゃいいけどな…)


 ここに辿り着くまでに、里の人と何人かすれ違った気がする。チラチラと、濡れている股間を見られていた気もするが、落ち込んでいたワンダは反応する事もせずに歩いていたので少し心配だ。


(まぁ、なるようにしかならない。気にしてもしょうがないか)


 今は、日光浴でもしながらボーっとして癒されたい気分なので、さっさと土の上へ横になる。水操作の道具を用意してもらったら、後は日が暮れるまで練習に明け暮れるだけだ。


(そうだ、せっかく指から水が出せるようになったんだし、柄杓(ひしゃく)に自分で溜めてみようかな)


 柄杓(ひしゃく)を空の状態で顔の前に置いてもらうと「チョロ…チョロチョロ…」と少しずつ溜め始めた。気持ちのいい日差しに照らされて、沈んだ気分が癒されてきていたのだが…。そろそろ収穫かというタイミングで、水撒き係りの人から怒鳴られた。


「ちょっとぉ!枝葉(グローリー)がしおれちゃってるじゃないの!それ、止めてもらえます!?」


 『ブチィッ』と力任せに毟って見せられた枝葉(グローリー)は、茹でられたほうれん草の様に”へにゃへにゃしおしお”だった。


「あ…、ゴメン(ごめん)なさい…」


 いつもよりたくさん水を飲んで来たとはいえ、さすがに品切れだったようだ。ダメ押しで水を絞り出してしまった結果、枝葉(グローリー)に影響が出てしまったらしい。


(はぁ…今日はもうダメだ)


 『早く回復させろ』と言わんばかりに突き出された液肥(おかわり)を、自棄(やけ)酒を飲むような気分で、自分で出した水で流し込む。『作業の邪魔にならないように』という都合の良い大義名分を掲げると、自堕落なお昼寝を決め込むワンダだった。


今回のまとめ

・新称号【歩くウォーターサーバー】(汚くないからね!)

・おしっこじゃないから!

・お漏らしじゃないから!

・調子に乗ってすみませんでしたぁ!

・たまには、何もしない時間も大事

 読んでいただき、ありがとうございました!

貴方に、満月の祝福がありますように…


気分が沈んだ時は、食べて寝る。

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