30話 お仕事受注! ステップアップ!
遅くなりました!
2025/8/27 加筆修正
初めて一人で商店を訪れて、戻ったその日。収穫が間もなく終わる、という頃。美唄さんから声をかけられた。
「ワンダ様、報酬について相談したいのですが、よろしいですか?」
「ハい、ドうゾ」
「ワンダ様が持ってきて下さった、千歳さんからの納品依頼なのですが。急ぎではないのですが、このリストから報酬を選ばせていただいてもよろしいでしょうか?お礼として、少ないですが運搬料も支払わせていただきます」
(納品した荷物と運賃を合わせて報酬ってことか。ツケを返済しなきゃだし、少しでも報酬が増えるのは助かるな!それに、報酬の貰い方がまるで山小屋の歩荷さんみたいだな)
山小屋などに、重い荷物を運ぶ仕事をする人たちを思い出したワンダ。
(運ぶと言っても、まだ5kg程度だから歩荷さんには程遠いけどね)
歩荷さんと言えば、自分の体重と同じかそれ以上を歩いて運ぶ、運搬のプロだ。ベテランともなれば、一度に100kgを背負子で運ぶ事もあると聞いたことがある。自分も練習次第では、運べる量も増えていくだろう。仕事を任せてもらえるのであれば、喜んで引き受けたい。
「ワかリマしタ、ソれデおネガいしマす」
「ありがとうございます。それでは、今後は晴れていても、荷物が溜まっている場合は商店への納品を優先してくださって結構です」
「リョうカいです」
こうして、ワンダは仕事を任された。任されるという事は、それだけ信頼されたという証だろう。より、里へ馴染めた気がして嬉しくなる。
(枝葉の収穫で報酬は貰えていたけど、仕事って感じじゃなかったからね。やっと仕事らしい仕事が貰えたなぁ。それに、美唄さんも忙しいだろうから、こういう簡単な仕事を引き取ってあげれば、もっと重要な仕事に専念できるよね)
美唄さんの肩書は聞いていないが、族長の代わりに忙しく動き回っているのをよく見る。俱知安さんと対等以上に話しているのを見るに、エルフの里の次期族長なのではないだろうか。
(コミュニティで上手くやるなら、立場がある人に信用されるのが手っ取り早いからね)
順調に信頼を獲得できている事に安心したワンダ。美唄さんに「お疲れさまでした」と告げると、日が暮れる前に母恋ちゃんへお土産を届けに向かった。
ギッシ、トン、ギィ、トン、ギッシ、トントン
◆ ⁂ ◆
収穫を終えた頃には、すでに空は薄暗くなり始めていた。いわゆる“マジックアワー”という、夕暮れと日の入りの境目にあたる、幻想的なひと時――地球にいた頃、ワンダが特に好きだった時間帯だ。自然豊かなこの里では、夕日に照らされる景色がより綺麗に感じる。
そんな美しい景色に溶け込むように、母恋ちゃんの家は佇んでいた。
コンコンコン
「はーい」
「ロンニヒワ、ワンダです」
「あらワンダさん、ロンニヒワゥ。ぼこいー!ワンダさんがいらっしゃったよー!」
母恋ちゃんと、目元がよく似ているお母さんが出迎えてくれた。二人が並ぶと仕草まで似ていて、親子らしさが滲み出ている。母恋ちゃんがもう少し成長したら、姉妹に見えるかもしれない。母恋ちゃん繋がりですっかり顔なじみになったこちらの家族は、この里でワンダが気兼ねなく訪ねられる、数少ない家のひとつだ。
「あれ、ワンダさん。こんな時間にどうしたの?」
「ショうテンにイッてキタから、おミやゲです」
「えぇー!あたしに!?ありがとう!おぉー、干し柿!好きだけど、なかなか食べられないんだよね~」
「コのマえ、こロんダトキにタすけテくれタからネ」
「別に、気にしなくていいのに。でも、ありがとうございます!」
「すみません、わざわざ持って来ていただいて」
「いツモ、おセワになッテいるノデ」
「そんなの、お互い様ですよ」
話しているうちに、俱知安さんにも用事がある事を思い出した。
(そうだ、母恋ちゃんならもしかして…)
「ボコいチャん、クッチャんサんガドこニいルカワカるかな?」
「この時間なら、食糧庫か薪置き場にいると思うけど、早くしないとあっちに帰っちゃうと思うよ~」
試しに聞いてみただけなのに、即答だった。
(俱知安さんが好きなのは分かるけど、把握しすぎでは…?まさか、GPSみたいな魔法があるとか?森小人族の技術の高さなら、出来そうで怖いな…)
ニコニコしながら倶知安さんの居そうな場所を話す母恋ちゃんの将来が、少し心配になったワンダだった。
◆ ⁂ ◆
母恋ちゃん達に別れを告げて俱知安さんを探していると、情報通り食糧庫にいた。
(小さい里なら、このくらいは把握してるものなのかね)
疑問は置いておいて、倶知安さんに話しかける。
「クッチャんさん、ロンニヒワ」
「おや、ワンダ様。ロンニヒワゥ。どうされました?」
「チョッとソうダんガあリマしテ。アメのヒに…」
森小人族が雨の日はどうしてるのか聞いてみたら、小雨なら掃除や軽作業だが、大雨の日は家に引きこもっているそうだ。材料さえあれば、彼らのその豊富な魔力で様々な道具を作り続ける事が出来るので、仕事には困らないのだろう。
(体が小さいから、エルフよりも雨の影響が大きいのかな?それにしても、魔力で物作りか…。とてもじゃないけど、真似できないな。はぁ…。また、一から考え直しか)
「アメのヒに、何かデキるコとガあレバトおモッたノですガ、ホカをあタッてミマす」
「んー、そうですね…。ワンダ様、心当たりがあるので、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ココろあタリ?」
「はい。我々、森小人族がエルフの里に来たばかりの頃、身の回りのことを手伝ってもらう代わりに、魔法を教えるという習慣があったそうなんです。恵庭様に、聞いてみたいと思います」
「おぉ、ソレはあリガタい!ヨロしクおネガいしマす!」
これで、晴れの日、曇りの日に続いて雨の日の予定も埋まりそうだ。やる事が無いのは退屈というのもあるが、また『楽をしている』と言われるのも嫌なので、やれることが見つかって良かった。
(魔法も教えてもらいたいけど、先に掃除のやり方から教わらなきゃかな?)
課題もあるが、ひとまず問題が一つ解決する目途がたちそうだ。
(雨の日が待ち遠しいな)
ギッシ、トン、ギィ、トン、ギッシ、トントン――
新たなイベントの来訪を期待して胸を膨らませながら、軽やかな足取りでワンダは家路についた。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…
エルフの里へ来てから良く喋るようになったので、上達具合を表現するために、少しずつワンダの台詞のルビを減らしています。




